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政党の綱領をAIで可視化してみた⓪ 綱領は政党の憲法だ

民主党「幻の綱領」のワードクラウド

民主党が2013年2月24日の党大会で決定した「幻の綱領」があります。なぜ幻かといえば、すでにない政党だからです。2016年3月27日の民進党結党大会をもって、民主党は消滅しましたので、わずか3年しか機能しなかったという意味でも「幻」といっていいでしょう。

民主党の「幻の綱領」のワードクラウド

この綱領は、民主党にとっては起死回生の思いを込めたものでした。なぜなら、結党以来それまで、正式な綱領を持たなかったことが、民主党の政党としての致命的な欠陥だと、長く指摘されてきたからです。

2012年末の総選挙で大敗し、下野した民主党は、年明けすぐの2013年1月15日に、党本部で綱領検討委員会(委員長・細野幹事長)の役員会を開き、党綱領のとりまとめ作業を本格化させます。旧社会党出身者から自民党出身者までいる「寄り合い所帯」のため、党の理念や目指すべき国家像などについて一致するのは、至難の道でした。

ようやくまとめ上げたのは、結党以来の大業でした。しかし、時すでに遅しで、有権者の気持ちはすっかり民主党から離れてしまっていたのです。

なお、民主党のワードクラウドのあまり気が付かない特徴は、第一人称に「我々」と「私たち」が両方多用されていることです。

以下で分析していますが、綱領中、自らを「我々」と呼ぶ党と「私たち」と呼ぶ党は、きれいに分かれています。「寄り合い所帯」の民主党は、第一人称を一つに定めることも難しいかったのだと想像しています。

民主党の奇策と崩壊

民主党が国政選挙で自民党を打ち破り、政権交代を実現したのは2009年9月のことでした。

改めて強調したいのは、その時、民主党に綱領がなかったことです。1998年4月27日に結党して以来、この時点で10年以上も綱領を定めずに党を運営してきたのです。

下野した自民党は、綱領を持たない民主党を「党としての一致した理念がない」などと批判しました。外交安保や財政政策で、民主党の政策軸が大きくぶれたことから、有権者も綱領を定めるように求めました。

例えば、朝日新聞の読者投稿欄「声」は、有権者の声を以下のように伝えています。

「民主党は綱領制定して活動を」(無職 愛知県東郷町 66)

民主党代表選の5人の候補者は、当面の政治課題に対して、一歩踏み込んだ主張や具体的な発言はなかった。まして国家像などを訴えることもなく、聞こえのいい挙党一致ばかり。政策の真意が胸に伝わってこなかった。
原因は政党としての根本方針である綱領がないからだ。攻撃ばかりの野党時代の体質が抜けず、重要問題は意見が分かれ、右往左往して明確な集約が出来ない。国に憲法があるように、早い綱領制定を望みたい

2011/09/13 朝日新聞 一部抜粋

「綱領がない民主党、外交に不安」(会社員 静岡市葵区37)

尖閣諸島の事件は大変ショッキングでした。私は民主党政権にどうしても不安を感じてしまいます。外交や安全保障について、党内で十分に議論していないし、現実対応より選挙ウケを狙う傾向があるからです。最近も普天間基地移設問題で大逆風にあるからと、参院選で沖縄県には公認候補を立てませんでした。これも政権与党として誠実さを欠いた行為です。
党の基本方針や結党理念を示す綱領が無いためにこのような場当たり的な対応が生まれるのだと思います。やはり民主党も外交や安全保障の方針や、どのような国を目指すかを綱領にまとめるべきです。

2010/10/11 朝日新聞 一部抜粋

「民主党は党綱領の策定急げ」(無職 岐阜県北方町 70)

国の根幹にかかわる基本政策や方針で、党内に異なる考え方が存在するのは、この党にいまだに綱領がないことに起因する。早急に綱領策定委員会を立ち上げ、議論を始めるべきではないか。

2010/09/20 朝日新聞 一部抜粋

そこで民主党は奇策に出ます。結党時に決定した「私たちの基本理念」というわずか761文字の文書を、2012年5月22日の常任幹事会で、「98綱領」と呼ぶことにしたのです。

しかし、多くの有権者は、これに気がつかなかったか、ごまかされなかったか、あるいはそもそも関心がありませんでした。半年後の師走総選挙で、民主党は大敗し、政権の座から滑り落ちてしまうのです。

憲法のない権力は暴走する

民主党政権は、党内議論を尽くさないまま、その時々の首相の判断で、基本政策に手をつけました。

鳩山首相は普天間基地問題で日米関係を悪化させ、菅直人首相は原発事故の処理に個人的な判断で介入し、野田首相は党内の異論を押し切って消費税引き上げを決定しました。これらは代表例に過ぎません。

元代表の小沢一郎氏らのグループは、消費税率引き上げに猛反発し、2012年6月の社会保障・税一体改革関連法案の衆院採決に反対票を投じ、民主党を除籍されます。このため小沢氏らは、党所属国会議員49人(衆院37人、参院12人)で、新党「国民の生活が第一」を結党します。

この大量離脱が、同年末の総選挙大敗と民主党政権崩壊の直接の引き金を引くことになりました。

筆者は、民主党の迷走は、綱領を定めなかったことが「致命的な遠因」だったと考えています。

政党は、政治理念や基本政策を共有する同志が集まり、その実現を目指す結社です。そして、共有するべき政治理念や基本政策の指針が綱領にほかなりません。だから、綱領とはその党にとって、国でいえば憲法に相当する最も大切な基本文書なのです。

憲法で国家権力を縛るのが立憲主義の考え方です。同じことは政党にもいえるのですね。

綱領を軽視する政党は衰退する

菅直人首相(当時)が2010年3月16日の参院予算委で、「議会制民主主義というのは期限を切ったあるレベルの独裁を認めることだと思っているんです」と述べているのは、今にして思えば味わい深い言葉です。

民主党の崩壊は、綱領という歯止めがないままに、党内に「あるレベルの独裁」を認めた結果だと思うのです。

冒頭の「幻の綱領」が決定されたのは、結党から15年も経過し、民主党から議員が離れ、有権者の心が離れた後でした。

日本に政権交代可能な二大政党制をという、いまから思えば熱に浮かされたような国民世論の期待を一身に背負っていた民主党は、四分五裂してしまいました。

自民党の一強支配によって、長く政治から緊張感が失われています。綱領の下にまとまれなかった民主党の過ちは今も尾を引いているのです。

綱領を軽視する政党は、遠からず衰退する。筆者はそう確信しています。

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