政党の綱領をAIで可視化してみた①「我々党」と「私たち党」の違い
「政党の憲法」を比べてみる
政党の綱領は、最も大切な基本文章です。日本大百科全書によれば、「大衆団体や政治団体、とくに政党の基本的立場や目標、実現の方法、基本政策、当面の要求、組織などを定めた文書」とあります。国でいえば憲法、法人でいえば定款、任意団体であれば設立趣意書等に当たるものといえるでしょう。
実際に有権者が目にする機会が多いのは、選挙公約です。選挙公約はその時々の政治・社会・外交安保・経済情勢等によって変化します。だから、不景気になれば各党が景気対策を競いますし、北朝鮮がミサイル実験を行えば、各党とも専守防衛と海外の脅威とのバランスをどうとるかについて公約に盛り込むわけです。
有権者にとっては、日々の生活に直結する公約こそがまずは大事です。ただ、政府の法令が憲法に縛られているのと同様、公約も各党の綱領に縛られています。自民党が共産主義を唱えることはありません。
また、綱領に書かれなかったことも重要です。外交・安保に関する記述が一言もない綱領を持つ政党もあります。綱領は政党の憲法ですから、憲法をなおざりにする政党を支持する気には筆者はなりません。綱領を比較するのは大事なことだと思います。
「我々党」と「私たち党」と「政党名党」
本稿では、各党の綱領でワードクラウドを作り、中心的な主張を読み解こうと試みます。別の機会に個別の政策分析も行う予定ですが、まずは全体から受ける印象こそが、その党に対する有権者の認知を形成します。ワードクラウド分析は、各党がどう認知されているかの分析だと考えています。
第一回目は、各党の綱領をまず第一人称で分類します。(社民党については綱領がないため、それに当たる文書として「社会民主党宣言」を使用しています)
ワードクラウドを作るには、形容詞や副詞などを除外して、名詞や動詞だけにしたり、ノイズ語を指定して、意味を持たない単語を除外したりするなどの前処理をする場合が多いのですが、今回はあえて全文をそのまま使っています。綱領は簡潔な短文で構成されるケースが多く、あいまいな表現や文学的表現は少ないため、全文を使ってもわかりやすい結果がでるからです。
第一人称とは、政党が綱領の中で、自分たちをどのように呼んでいるかです。自民、公明、立憲民主、国民民主、社民、れいわ、日本維新、日本共産の8党の綱領をクラウド化すると、
①自民、公明は「我々(われわれ)」
②立憲民主、国民民主、社民、れいわは、「私たち」
③日本維新と日本共産党はそれぞれの政党名
で自らを呼んでいることがわかりました。
(ワードクラウド化しなくてもわかるだろう!と突っ込まれそうですが、可視化することで、気づきが得られたわけです)
まずは「我々党」のワードクラウドです。
自民党は「我々党」
制定日:2010年1月24日
公明党も「我々党」
制定日:1994年12月5日、1998年10月24日一部改正
「我々」と「私たち」の違いは、前者がフォーマルで、後者がカジュアルだとされています。確かに、組織を代表するときは「我々」を使いますし、仲間内の会話なら、「私たち」でしょう。
しかし、学校の送辞や答辞では、学生たちは「我々」ではなく「私たち」を使うことが多いと思います。学生たちは学校を数年通過するに過ぎませんし、組織としての学校を代表するのは校長以下の教職員だからでしょう。
そう考えると、「我々」と「私たち」の選択には、組織への帰属意識の強弱がかかわっているのではないかというのが、筆者の仮説です。
次に「私たち党」を見てみましょう。
立憲民主党は「私たち党」
制定日:2020年9月15日
国民民主党は「私たち党」
制定日:2020年9月15日
社民党は「私たち党」
社会民主党宣言制定日:2006年2月11日~12日
れいわ新選組は「私たち党」
綱領制定日の記述なし
立憲民主党の綱領には「この基本理念を具現化する強い決意を持って立憲民主党を結党します」というように、党名そのものが盛り込まれています。しかし、そこを除けば、一貫して「私たち」という表記を使っています。
れいわ新選組はホームページに綱領制定日の記載がありません。神は細部に宿るといいますから、こんなところからも、党の体質を判断できると筆者は考えています。
上記の「私たち党」の特徴は、世間で言われるところの、いわゆる「リベラル政党」です。リベラル政党は個人の自由を重んじるとされていますので、メンバーの意識の中では、党組織との関係でも、個人が上位にあるのかもしれません。組織としての印象が強くなる「我々」を避けた理由のような気がします。
また、「私たち党」は、社民党を除けば、歴史も浅いです。結党日は、れいわが2019年4月1日、国民民主が2020年9月11日、立憲民主はその4日後の9月15日です。国民民主と立憲民主は、旧民主党やその後の民進党のメンバーが中心となって作った政党で、その上、現在の形に落ち着く過程では、旧立憲民主党や旧国民民主党という政党もあったりして、多くの議員は様々な政党を渡り歩いています。このため、新党に対する帰属意識が薄かったとしても不思議はありません。
そのあたりが「私たち」という言葉に反映されているような気がします。学生が答辞・送辞でいうところの「私たち」に近いのではないでしょうか。
次に「政党名党」を見てみます
日本維新の会は「政党名党」
制定日:2015年10月31日、2016年8月23日改正、2022年3月29日改正
日本共産党は「政党名党」
2020年1月18日改定
日本維新の会と日本共産党は、政策的にはほとんど共通点がないように思われます。維新は最右翼、共産党は最左翼というのが一般的な認識なのではないでしょうか。だから、第一人称が同じだったのは、ちょっとした驚きでした。
共通なのは一人称だけではありません。現状認識と課題、党の果たすべき役割と目指すべき目標--といった綱領の構成も似ています。組織としての目的意識、役割、構えといったところがしっかり書き込まれているのです。
文字数をカウントすると、日本共産党が約15000字と他党に比べてダントツに長く、次が日本維新の会の約7000字です。両党とも、政党の憲法たる綱領を重視していることはうかがえます。
(ちなみに、3番目は社民の6200字、4番目は公明の4800字、5番目が自民党の約2000字、6番目が立憲民主の1800字、7番目が国民民主の700字、最後がれいわの400字です)
政党名に対するプライドが強いのかもしれません。
日本共産党は弾圧を受けた非合法時代からの長い歴史を誇り、名前へのプライドは理解できます。日本維新の会は、母体となった地域政党「大阪維新の会」が「政権党」として積み上げた実績がありますから、その実績へのプライドかもしれません。
たかが綱領の第一人称から語りつくせるわけもないので、この辺にしておきます。ただ、政党の自己認識にかかわってくることなので、意外と大事なポイントのような気がしています。
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