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1. パンクな母ちゃんとクレバーな息子たち

ブレイディみかこ×ヤマザキマリ「パンク母ちゃん」第1回

 60万部を超えるヒットとなった『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の文庫化を記念して、ブレイディみかこさんとヤマザキマリさんの対談をお届けします。

 初対面にしてすぐに意気投合したふたりには、「長い海外生活」「外国人男性との間に生まれたひとり息子」など、多くの共通点があることが明らかに。何よりふたりともパンクにハマった青春時代があり、その経験が後の人生に大きな影響を与えたこと――。

 海外での凄絶な恋愛、出産、子育て、その経験から見えてくる日本という国の特殊性など、これまでタフな修羅場の数々をくぐり抜けてきたふたりによる、グルーヴ感溢れる対話をお楽しみください。

 第1回は、それぞれのパンク体験、そんな母ちゃんのもとで育った逞しい息子たちについて。「絶対にマネできない子育て」が語られます。(編集・構成:「考える人」編集部)

※注 記事をそれぞれ単体で買うと1本500円×3=1500円ですが、全3回を【1000円】で読めるお得な有料マガジンもございます。マガジンを最初に購入すると、7/1(木)配信予定の第2回、7/8(木)配信予定の第3回を追加購入することなくお読みになれます。

我らパンク母ちゃん

ヤマザキ (ブレイディさんの着ているTシャツを指さして)あ、PiL!(註:Public Image Ltd、セックス・ピストルズを脱退したジョン・ライドンが1978年に結成したバンド)

ブレイディ え、お好きなんですか?

ヤマザキ 好きも何も、『PIL』(オフィスユーコミックス、2011年)というマンガを描いたこともあるぐらいで。フィクションですが、パンクにはまった私の高校時代の経験をもとに描いたマンガなんです。

ブレイディ えーー⁉ 昨日、高橋源一郎さんのラジオ番組に出演した時にPiLの曲をかけてもらって、それで思い出してこのTシャツを選んだだけで……。

ヤマザキ てっきり私のマンガを読んでいただいたのかと(笑)

ブレイディ 本当にたまたまなんです。

ヤマザキ 凄い偶然。

ブレイディ 本当ですね。何となくヤマザキさんとパンクが結びつきませんでした。留学されたのはイタリア、そこでルネッサンス絵画の勉強をして、古代ローマのマンガを描かれていて……というイメージだったので。

ヤマザキ イタリアに渡るまで、高校時代はパンクに染まり切った毎日を過ごしていました。16歳だったから1983年頃のことで、熱心になり始めた頃にはすでにセックス・ピストルズは解散していました。だからジョニー・ロットンではなくてジョン・ライドン(註:「ジョニー・ロットン」はセックス・ピストルズ在籍時のニックネーム)、まさにPiLの世代なんですよ。

ブレイディ 私は小学6年生の時にピストルズを初めて聴きました。

ヤマザキ それは早い! 日本にそんな小学生がいたとは(笑)

ブレイディ 私はヤマザキさんの2歳上の1965年生まれで、小学6年生の時は1977年。ピストルズの『NEVER MIND THE BOLLOCKS』がその年の10月発売ですから、バリバリの頃です。福岡出身なのですが、ベイ・シティ・ローラーズからパンクに流れた少女たちが故郷には一定数いました。福岡は音楽がさかんな場所なので、イギリスの情報が入るのがすごく早かったから。

ヤマザキ パンクに惹かれたのは音楽もそうですけど、何よりもあのイギリス独特の「ワーキング・クラス」文化というのがクールでかっこよくて。憧れました。

ブレイディ それー! わかります、わかります。

ヤマザキ 当時私はいわゆる「お嬢様学校」のミッション・スクールに通っていました。いろいろと縛りが多くて、それに背こうとするといちいち先生の逆鱗に触れる。だからこそ余計に反骨精神丸出しのパンクの世界観に憧れたんですよね。

ブレイディ 私も高校は進学校だったので、その感じもわかります。

ヤマザキ マンガにも描きましたけど、そうしたお嬢様な校風に抗うために始めたのが、チリ紙交換のバイトだったんです。パンクになるためには「ワーキング・クラス」の世界を知らなきゃいけないって。肉体労働も体験してます、「チリ紙交換」ですけどね(笑)

ブレイディ それは本物のパンクスだ(笑)

ヤマザキ 1日10時間ぐらいクタクタになるまで働いて、いただけるのが500円。理想と現実のギャップを思い知らされましたね。

ブレイディ 私は福岡出身だから、「めんたいロック」直撃世代。多感な時期に、シーナ&ザ・ロケッツやザ・モッズやザ・ルースターズがシーンにいて、私はルースターズ派だったのですが、友だちのお兄ちゃんやお姉ちゃんとか、福岡のちょっと悪い子たちはみんなバンドをやっていました。

ヤマザキ 当時はそうですよね。小学生でパンクに目覚めたのはどういうきっかけだったんですか?

ブレイディ バンドをやってるお兄ちゃんがいる友だちの家でピストルズのビデオを観たんです。そのジョニー・ロットンが衝撃的で、「何だこの生き物は? こいつ誰だ!」って。

ヤマザキ まあ、誰にとってもあの人の有り様は衝撃でしょう。

ブレイディ これまで見たどんな人間とも違いましたからね。世の中のありとあらゆるものを憎んでいるような眼をしていたでしょう。ベイ・シティ・ローラーズが一瞬でぶっ飛んだ。あの瞬間、私の人生は変わりました。

ヤマザキ ものすごくわかります。でも念のため、これはパンクについての対談じゃないですよね(笑)

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