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ZOMBB 27発目 ゾンビ・パンデミック

次郎が巨大ゾンビを、BB弾バスーカ砲で倒し、

数十体ものゾンビを倒した

モーニングフォッグのメンバーと沙耶と孝也、

そして伊藤店長は、バッテリーやガス、

BB弾等を補充すると、

急いでエチゼンヤの倉庫を後にした。

急いだのには、三つの理由があった。

倉庫前の門扉が破壊されたことで、

いつゾンビの群れに襲われても

おかしくない危険を避けるため、

そして倒した巨大ゾンビと

あちこちに転がっているゾンビの躯だ。

たとえゾンビとはいえ、

人の形をしたものの放つ腐臭は耐え難い。

それになによりも、坂原隆のまだ幼い息子の孝也に、

そんな光景を見続けさせるのにも強い抵抗があった。

それにもう一つ急務だったのは、

ゾンビとの死闘を連戦してきた

モーニング・フォッグのメンバーは勿論の事、

沙耶と孝也、伊藤店長にも

安心して休息できる場所を見つけたかったからだ。

短い話し合いの結果、

この場所から一番近い

陸上自衛隊立川駐屯地に向かうのが最善策だと判断し、

一行は4台の車と1台のバイクに分乗して、

一路立川駐屯地を目指す事になった。


 泥酔していた次郎は、

丸川信也の運転するトヨタ・ハイエースの

助手席に乗せられた。

彼の愛車ズーマーXは、ララが代わりに乗って、

最後尾についている。

 次郎は酔っ払っている上に、

大イビキをかいていた。

彼の体はシートベルトで固定されてはいたが、

車の震動に合わせて頭を不規則に、大きく揺らしていた。

次郎の口の端からは、涎よだれが垂れている。

その涎は次郎の頭の動きに連動して、

まるでヨーヨーのように伸び縮みしながら揺れていた。


ハンドルを握る丸川信也は、次郎の様子を横目で見ながら、

嫌悪の表情を滲ませていた。

ヨダレだけならともかく、ゲロまで車内にぶちまけられたら、

タダじゃおかねぇぞ―――。


とはいえ、あの巨人ゾンビを倒せたのは、

こいつのおかげだ・・・。ヨダレは許してやる。ヨダレは。

だが、ゲロを吐いて車内を汚しやがったら、

ゾンビの群れに投げ込んでやるからな。

そのゾンビの数は、確実に増えていた。

3日前、最初に現れたゾンビの人種は、欧米人ばかりだった。

それが今では、日本人だと思えるゾンビが、

その数を逆転したかのようにその割合を上回っている。

それも老若男女問わずだ。

それだけ東京都民、いや日本人が

犠牲になっているということの証だろう。


それにこれは日本に限ったことではないかもしれない。

今や世界中で、ゾンビの犠牲となって、

同類にされた人々は相当数に上るに違いない。

ふいに丸川信也は、カーラジオをつけてみた。

適当なラジオ局のダイアルに合わせる。

思ったとおり、

このゾンビに関するニュースが飛び交っていた。

デジタル放送になって、

クリアな音声がスピーカーから聴こえた。


『・・・各国の感染者は増加の一途を辿っており、

 軍隊を出動させ、

 その鎮静化を図っている国も多いのですが、

 いまだ効果を上げているという

 報告は少ない模様です・・・』

女性アナウンサーの声のトーンから、

その逼迫した状況が伺えた。

アナウンサーの語尾が震えている。

ニュースはさらに続いた。

『鎮静化の困難な所は、非感染者と感染者の判別が、

  遠距離からでは難しい事、

  そのために近距離戦になることが多く、

  現場の兵士の間でも戸惑いが、

  広がっているという報告があります。

  それに感染者と非感染者が混同している地域では、

  非感染者の犠牲を伴う恐れのある、

  広範囲に威力を及ぼす

  兵器を使えないという点が上げられます。

  このため、大規模な爆撃や、

  爆薬の使用に難色を示す国家も多く、

  国連では、そのような大量破壊兵器を

  使用する事を禁じるよう、

  各国に打診していくものと思われます。

  日本政府の対応ですが、

  憲法9条を尊守するという立場から、

  今回の事案に対して、

  一種の感染症が拡がった災害と解釈して、

  自衛隊を戦闘目的ではなく、

  これまでの災害派遣と

  同様の活動に留める事を軸足に置く

  という方針に変更はないということです。

  ですが、ゾンビによる、爆発的な感染・・・

  いわゆるゾンビ・パンデミックを防ぐには、

  戦闘実力の行使も念頭に

  入れなければならないとの考えもあり、

  現時点で、警察組織に一任しているゾンビの排除を、

  自衛隊にもその一端を支援できるよう、

  特別立法を可決する緊急国会を開設して、

  集中審議に入りたいとの意向のようです。

  しかし、野党の反発は強く、

  先行きは予想されません―――』


まったく、いつも政府の緩慢な動きには

 辟易させられる・・・

と丸川信也は思った。久保山が言っていた、

なんちゃらウルフとかいう

70年前の爆撃機が数百の編隊で、

領空侵犯してしてきて、ゾンビをパラシュート降下させ、

さらに民間人をゾンビどもに襲わせているという事実。

この一つとっても納得がいかない。

アメリカをはじめとする、

危機管理の意識の高い諸外国は、

その正体不明の爆撃機にいち早く攻撃している。

ところが日本はどうだ?

航空自衛隊は当然のように

スクランブル発進させているはずだ。

なのになぜ撃墜しなかったのか?

相手がドイツの飛行機だったからか?

確かに現在のドイツは、ナチスの重罪を贖罪して、

立派な民主主義国になっている。


航空自衛隊は、なんちゃらウルフって爆撃機を、

現ドイツのものと信じたとでも言うのだろうか?

それとも、、2010年9月7日午前に起こった、

尖閣諸島付近で操業中であった中国漁船と、

これを違法操業として取り締まりを実施した

日本の海上保安庁との間で発生した

尖閣諸島中国漁船衝突事件の時のように、

外交的配慮をして見逃したとでもいうのだろうか?


謎はほかにもたくさんある。

そもそもあのゾンビってのは何なんだ?

まるでホラー映画から飛び出してきたような、あの姿。

しかも噛まれたり、爪で深い傷を負うと感染して、

彼らと同じゾンビになってしまうというのも、そのままだ。

あのゾンビは自然発生的に生まれたものではないと思う

―――と丸川信也は結論付けた。


でなければ、なんちゃらコンドルとかいう爆撃機で

パラシュート降下してくるなんて、説明が付かない。

あまりに計画的で組織立っていることが

うかがえるじゃないか。

きっと誰かが造り出したものに違いない。

では、何者が造ったのか?

正確にはどんな組織が造ったのか?だ。

どう考えても個人でできるようなレベルではない。

複数の専門家達が造り出したと考えるのが普通だろう。


では、目的は何だ?

人類絶滅?ははは・・・


この程度でアメリカやロシア、

ヨーロッパ諸国が壊滅するとはとても思えない。

たしかに人為的、経済的なダメージは大きいとは思うが、

人類絶滅となると話は別だ。

トイガンで倒せるような生物兵器で、

人類を滅ぼせると本気で考えてるわけではあるまい。

たしかに中には、

次郎が倒したような、巨人ゾンビもいた。

確かにあれには度肝を抜かれた。

にしても、やはりBB弾バズーカで倒せる相手だ。

それともまだ、

他にとんでもない怪物を隠し持っているのだろうか?

あれだけゾンビ共と戦っても、

わからないことばかりだ―――。


丸川信也は、苛立ち紛れに

ハンドルを軽く叩いて

気持ちを落ち着かせようとした。

点けっぱなしのラジオから、

再びゾンビに関する続報が流れた。

『CDC・・・アメリカ疾病管理予防センターの

  公式発表によりますと。ゾンビが媒介する細菌は、

  劇症型溶血性レンサ球菌感染症の症例に

  酷似しているとのことです。

  劇症型溶血性レンサ球菌感染症とは、

  いわゆる人食いバクテリアの一種で、

  十数時間で人体を食いつくし、壊疽させてしまう

  恐ろしい細菌ですが、このゾンビの持つバクテリアは、

  特異な性質を持っており、人体のカルシウム、

  特に骨格を侵食する性質を持っているとのことです。

  しかもその侵食の速さは、わずか十数秒とのことで、

  CDCでは今後の研究で、

  それらの謎は解明されるものと見て、

  判明次第、各国に情報とその対処法を

  伝える方針だということです―――』


人食いバクテリア?それに感染したら、

次は他の人間に襲い掛かって喰うってか?

丸川信也は苦笑した。


ともかく、これから向かう陸上自衛隊立川駐屯地に行けば、

もっと詳しい情報が得られるかもしれない。

今はとにかくモーニング・フォッグのメンバーと、

山猫の妻子、伊藤店長を安全な場所に避難させることだ。

助手席で轟音のような大イビキをかきながら

爆睡している次郎を見て、丸川信也は、

呆れたようにかぶりを振った。

いい気なもんだな、こいつは・・・。

丸川信也が、憎憎しげに一瞥すると、

次郎がにわかに騒ぎ出した。

からんでくる次郎を、彼は面倒臭そうに、

右手で押し戻した。


「ねぇ~、もう一軒行こうよぉ~」


この馬鹿、完全に寝ぼけてやがる。

居酒屋のハシゴやってんじゃねぇんだぞ。

とりあえず、今の丸川信也の切実な望みは、

次郎がゲロを車内にぶちまけないことを、願うばかりだった。

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