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ZOMBB 36発目 森の中の二人

次郎は姿を消した新垣優美を追って、

森の中に飛び込んだ瞬間、足を滑らせた。

しりもちをつくと、急角度の滑り台を

滑って行くように滑落した。

飛び込んだ先は、急斜面だった。

枝葉が全身を所かまわず叩く。

鞭のように、叩かれるたびに、

まるで焼き鏝をあてられたような激痛が走る。


次郎は苦痛に顔を歪ませながら、

Ak47βスペズナズを掲げて、顔に当たる枝葉から防いだ。


「どこが終着点だぁああひやぁあああッ!」


まるでウォータースライダーのように

滑落していく次郎。時おりバウンドしながら、

なおも滑り落ちていく。唐突に視界が開けた。

眩しさに瞳孔が収縮せず、思わず目を細める。

次の瞬間、盛り上がった土くれに、尻を思い切りぶつけた。

その勢いで、大きくバウンドした次郎の体は、

宙に投げ出された。


AK47βスペズナズを掲げたまま、

顔面から投げ出された。そこは細い川だった。

水しぶきを上げてヘッドスラィデイングするように、

飛び込んだ。川底の分厚い砂の層が、顔を擦りめり込んだ。

だが、それがクッションになって、次郎はなんとか無事だった。

しばらくそのまま倒れていたが、

鼻や口から川の水が侵入してきて、

慌てて起き上がると、激しくむせた。

顔はもちろん、BDUもずぶ濡れだった。


AKβスペズナズは上に掲げていたおかげで、

水に濡れてはいなかった。

ほとんど直感的に腰のビカンキホルスターに入っている

グロック18Cを確認する。

良かった。ほとんど水を被っていない。

パチパチパチと背後から、拍手する音が聞こえる。

顔じゅう砂だらけのまま、次郎は振り向いた。

そこには、倒木に腰掛けて脚を組んでいる、

新垣優美の姿があった。


むき出しの太股が、陽光を照り返している。

「さすが、サバイバルゲーマーね。

  自分の身を賭して銃を守るなんて」

「ララ!無事だったのか!」

次郎の砂だらけの顔は明るくなった。


「当たり前よ。私はあんたと違って、

  川に顔から突っ込むなんてことしないわ。

  私の場合、華麗にジャンプして・・・」

「じゃあ、おでこに付いている砂はなんだ?」

次郎はニヤついて言った。

「え?」

新垣優美は、

あわてて自分のおでこを擦った。

次郎の言うとおり、砂がポロポロと落ちてくる。


やだ、川の水でちゃんと洗ったのに―――!


「こ、これは砂パックよ」

口を尖らして、新垣優美は言った。

「なんだよ、その砂パックって?聞いたことねえぞ」

そう言いながらも、次郎の視線は、

新垣優美の胸に注がれていた。

川の水に濡れて、両のポッチが、浮き出ている。

彼女本人は気づいて無いらしい。

やっぱり、ララも頭から川に突っ込んだんだ・・・

新垣優美の白いノースリーブは水に濡れて上半身にへばりつき、

おっぱいの形を際立たせている。

次郎の顔は卑猥な表情を浮かべて、だらしなく歪んだ。


「とにかく、元いた場所に戻らないと、

  坂原さんたちが心配してるわ。きっと」

新垣優美はそう言うと、

滑落した急斜面の森に視線を向けた。

「ここを登って行けばいいんだから、簡単だよ」

次郎は、自信ありげに答えた。

そして、自分達が落ちてきたであろう、

森の中へと歩を進めた。新垣優美もその後に続く。


しまった―――!

次郎は唇を血が滲むほど噛みしめ、

その目には涙が浮かんでいた。

急斜面を登り始めて、ものの数分も経たないうちに、

次郎は凄まじい後悔の念に心を支配されていた。

ララを先に行かせればよかった。

そうすれば、当然オレは彼女の真後ろにつくことになる。

そうすれば、ララのプリケツを

正々堂々と拝むことができたんだ・・・!

オレとしたことが、

なんてポカミスをしちまったんだ―――。

いや、待て。まだ間に合う。

あきらめたらそこで試合終了だ。

冷静に考えるんだ。オレならできる。

この状況を打開する策を見つけることはできる。

まだ、策はある。絶対に。

考えろ。考えるんだ!

次の瞬間、彼の脳裏にひらめくものがあった。


―――そ、そうだ、この手でいこう!


「ララ、さ、先に行ってくれ」

次郎は振り返って、ぎこちない笑顔を新垣優美に向けた。

「え?どうして?」

「ちょっと疲れちゃってさ。へへへ」

「まだ何分も経ってないじゃない」

新垣優美は、怪訝な顔をしている。

「疲れたから疲れたって

  言ってるんじゃないか!」

次郎は全身に力をみなぎらせて、怒鳴った。

「とても疲れてるようには見えないけど。

  それに、変だと思わない?」

「何が?」

次郎はふくれ面をして訊き返した。

「ここ、私たちが滑落してきた場所と違う気がするわ」

「そんな、たしかにここだって・・・」

そう言いかけて、次郎は辺りを見渡した。


どの方向を見ても同じ景色だった。

どこを向いても同じ森のような気がする。

見上げると、繁茂した樹木の枝葉が、

太陽の光を遮っている。

そのため、森の中は薄暗く、たしかな方角がわからない。

自分達が滑り落ちてきた痕跡も見当たらない。

というより、この森には

ほとんど人が入ったことがないのだろう。

少々人が踏み分けても、倒された草木はすぐさま立ち上がり、

現状回復しているようだ。


「下手したら、このまま本当に遭難するかも」

新垣優美が不安そうな声音で言った。

「そうだな。引き返そう。幸い今日は晴天だ。

  太陽の位置さえさかれば、方角もわかる」

次郎は得意げな表情で、新垣優美に言った。

「太陽の位置?」

「ああ、とにかく戻ろう」

次郎は足ばやに斜面を駆け下りた。

新垣優美も彼の後に続いた。二人は元の川辺に戻った。

息を整えると、次郎は言った。

「時計の短針に太陽の方向を合わせて、

  短針と12時の間の半分の時刻の方角が『南』なんだよ」

 ここでオレのかっこいいとこ見せれば、

ララも見直すかもしれない。

『あら、次郎君、素敵!』とかなんとか言ってきて、

腕を組んでくるかも・・・。

そしたらララの横乳がオレの肘に触れて、

『あ、わざとじゃないからね』とか言っちゃって、

『そんなこと言って、おちゃめさん、ウフフ』

なぁんて雰囲気になって―――。


「何、にやけてんの?早くやれば?」

新垣優美のぶっきらぼうで、

棘を含んだ声が、背後から聞こえる。

次郎は自信に満ちた顔で咳払いすると、

左腕にはめているGショックを

太陽のある方向に向けた―――。

次郎の付けている腕時計は、デジタル時計だった。

「・・・・・」

次郎の腕時計を覗きこんだ新垣優美が、大笑いした。

「あんた本当に頼りにならないわね」

新垣優美は呆れ顔をしながら、

背負っている小さなバックパックから、何かを取り出した。

それは手のひらサイズのコンパスだった。


「さ、これで方角はわかるわ。

  私達、駐屯地から北に向かってたから、

  その逆、南に向かえば道路に出られるはずだわ」

新垣優美は、バックパックを背負い直して、

コンパスを片手に歩き始めた。

「この小さな川、南に向かってるわ。

  しばらくは川沿いに歩いていけばOKよ」

新垣優美は、しょぼくれている次郎に言った。

肩を落として元気をなくした次郎は、

彼女の後をとぼとぼとついていった。

しばらくして、新垣優美は足を止めた。唐突に。

「どうした?急に止まって」

次郎はハナクソをほじりながら、彼女に問いかけた。

新垣優美は緊張した声で答えた。

「あれを見て」

次郎は彼女の指差す方を見た。

ハナクソをほじる手が止まる。


新垣優美が指差す方向に、ゾンビの群れがいた。

それも20体以上。その上、巨大ゾンビも2体いる。

そしてこちらに向かって、まっすぐに迫って来ている。

「こんな所をうろついてたなんて・・・

  しかもあんな数・・・」

新垣優美は、少しうろたえた声で言った。

「たぶん、あの奴らも

  高取山の弾薬庫に向かってたんじゃねえか?」

と次郎。

「どうする?逃げ道は無いわよ」

「やるしかねえだろ」

次郎はAK47βスペズナズを、

新垣優美はレッグホルスターから

2丁のUSPを引き抜いて身構えた―――。

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