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ZOMBB 1発目 ある朝目覚めたら・・・ってテンプレだよね

山田次郎21歳、某私立大学法学部中退、
職業はフリーター。都内の6畳一間の
古アパートの2階に一人暮らし。
趣味は仮面ライダーのフィギュア集めと、
サバイバルゲーム。通称サバゲ。チームに分かれて、
BB弾と呼ばれる直径6ミリのプラスティックのボール弾を、
電動やガス、エアなどのパワーソースで
発射できるトイガンで闘うゲームだ。
まあ、わかりやすく言うと戦争ごっこだ。

次郎はまだ、安物のパイプベッドでイビキをかいていた。
寝相が悪く、右へ転がり左に転がり、しまいには
ベッドの支柱に足をぶつけて、夢の世界から現実に
引き戻された。
現実———次郎は大手運送会社の夜間作業員の契約社員だ。
契約社員といっても、
いつクビを切られても文句の言えない立場。
勤務時間は午後6時から、翌朝の3時まで。
休憩1時間。
面接では<誰にでもできる軽作業>とあったが、
嘘っぱちだった。
自分の部屋の冷蔵庫より重い荷物を、
20トントラックから積み下ろし。
それも1日20台近く。それで時給860円。

枕もとの時計を、首をねじまげて仰ぎ見る。
午後1時過ぎ。いつもは4時に起きてシャワーを浴び、
飯を食って、愛車ズーマーX110ccで出勤する。
朝礼があるから、10分前には着かなくてはならない。
その10分には時給は適応されない。
これって労働基準法に違反してるだろ・・・と
次郎はいつも思っている。時給860円を6で割ると
10分約143円(端数切捨て、これはサービスだ)。
月に20日の勤務だから、
2867円(これは端数切り上げ)もらって
いいはずだ。

とにかく、起床するにはまだ早い。まだ寝たい。
でも外が騒がしい。薄っぺらいアルミの窓越しにも、
その喧騒が聞こえてくる。<キャー>だの<わー>だの、
うるせえっつうの・・・次郎は枕で頭を塞いだ。
それでも騒音というか、人の悲鳴らしき声が聞こえ続けている。

確かにここは東京都内だが、郊外にある八王子市だ。
しかも次郎が住んでいるこの辺りは、閑静な住宅街だ。
土曜の夜には、たまに暴走族のようなDQNが、
バイクの爆音を立てて走ることはあるが、
真昼間にこの騒ぎはどうなんだ?
大地震とか飛行機が墜落したとでもいうのだろうか?
次郎は寝ていたが、もしそんな大惨事があったら、
とっくに起きているはずだ。

ついには苛立って、枕を壁に叩きつける。
諦めて、次郎はベッドから降りた。
南向きの窓を引き開ける。とてもいい天気だ。
夜勤明けの次郎の瞳孔は、その眩しさに慣れるのに
しばらくかかった。

このアパートの前は狭い車道だ。
乗用車2台がなんとか離合できる
ぐらいの道幅しかない。
その騒ぎは、その道路から聞こえてくる。
次郎は見下ろした。何人もの男女が走っている。
それも何かから逃げているかのように・・・。

確かに、彼らは逃げていた。同じ人間に。
いや、ちょっと違うかな?次郎は目を擦った。
逃走している人々を、追いかけているのは・・・
異様な姿の人間?だった。
来ている服は破れ、顔や腕など、肌が露出している部分は
灰色と青色が混じったような、不健康そうな色をしている。
両目は落ち窪み、目の周りは
パンダのように黒く巨大な隈ができている。
ふたつの眼球は黒目が無く、
魚の腐ったような目をしている。
次郎も職場で
『お前、魚の腐ったような目をしてるな』と
よく言われるが、それとは違う。
追いかけてるのは明らかに目つきがおかしい。
まるでゾンビだ。

もしかして・・・と山田次郎は思った。
まだ夢の続きを見ているのか?ありきたりだが、
自分の指で頬をつねる。痛い。
オレは起きている。間違いない。
ってことは、突然、ゾンビが現れたってことなのか?
まさか、そんな・・・次郎は自嘲気味に首を横に振った。

そうだ、何かのイベントでもやってんだ。次郎はそう思った。
どこかのテーマパークでも<ゾンビ狩り>とか称して、
一風変わった肝試しをしていたではないか・・・。

まあ、何にしろ、ちょっと参加したくなってきた。
いつも枕元に置いてあるガスガン、
東京マルイ製ガスブローバックの
グロック17を手にした。BB弾は17発を装填、
ガスもチャージしてある。
山田次郎はスエット上下で裸足のまま、玄関まで走りながら、
手にしたグロックのスライドをコッキングして、
初弾をチャンバーに送った。
そうっと玄関ドアの丸い覗きレンズに目を当てる。
魚眼レンズのように、ドアの向こうが見えた。
アパートの2階通路に・・・

いた———。一人。まさしくゾンビだ。性別は男。
ボロボロのスーツに死人そのものの顔色。
所々、腐食して赤黒い肉が覗いている。
次郎は凝ったメイクしてるな・・・と感心した。
ガチでゾンビがいたらこんな風だろうと、思わせるほどリアルだ。
こんな余興というかイベントを、平日の昼間に行う八王子市が心憎い。

ドアをそーっと開ける。気づかれないように。
そのゾンビ(メイクしてると思ってる)まで3メートルも無い。
必中の距離だ。相手はゾンビを演じてるんだから、
ここは映画のように、ヘッドショットが定番だろう。
(ちょっと痛いかもしれないけど、ごめんね)
次郎は心の中でつぶやいた。といってもメイクの上からだから、
怪我するほどのダメージはないだろう。

山田次郎は慎重に頭を狙って、トリガー(引き金)を引いた。
パスンッ!心地いい発射音と共に、スライドが後退する。
相変わらず、いいリコイルだ。

見事ヘッドショットがキマった、そのゾンビさんは
ドサリと倒れた。倒れ方もリアルだ。いい役者さんだ。
それともアルバイトかな?
次郎は近寄って、倒れているゾンビさんを見下ろした。
BB弾を当てた側頭部に、小さな穴が開いている。
そして、横向きになった頭からは、
脳漿らしき肉の塊が飛び散っている・・・。

「なんじゃあ、こりやああぁッ!」
山田次郎は後辞去った。たしかに手にしているのは、トイガンだ。
それで死ぬなんて・・・。
さてはこれは人形だな。でも動いてたよな。
次郎はそのゾンビのわき腹を蹴ってみた。
たしかに人間の重量を感じる・・・。

「マ・・・マジかよ!」
山田次郎は慌てて部屋に戻った。また窓に近づいて恐る恐る
覗いてみる。路上では逃げ惑う人々でいっぱいだった。
そしてゾンビと思われる者に襲われ、
噛みつかれて血しぶきを上げている。

これは、ガチだ・・・。

そこで山田次郎は、ニンマリと笑った。
(これはこれで、ヒャッハーじゃね?)

いつかこんな日が来ることを、夢見ていた。
理由はわからないが、
とりあえず本物のゾンビが現れたのだ。
それもBB弾で倒せるゾンビが・・・。

まあ、これが本物のゾンビなら、今日のバイトは休みだな。

次郎は部屋の隅に立てかけてあった、愛用の東京マルイ製の
AK47βスペズナスというアサルトライフルの
ストックの台尻をスライドさせて、
パワーソースとなるラージバッテリーを仕込んだ。
クローゼットから、ロシア迷彩の上下を着込む。
そしてAKマガジンが6本収納できるチェストリグを装備。
両脇のフリーパウチには携帯電話とサバイバルナイフを突っ込んだ。
腰にはサイドアームのグロックを収められるビアンキのホルスターを
装着したタクティカルベルトを巻いた。手には黒いグローブ。
頭にはツリー迷彩柄のキャップを被る。目を保護するためゴーグルも着用。
玄関に行き、ロスコのジャングルブーツを履いた。

山田次郎は玄関を出て、古アパートの軋む階段を降りて行った。

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