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ZOMBB 2発目 やわらかゾンビ

古アパートの階段を降りていくと、
街はとんでもないことになっていた。
何十体ものゾンビがうようよしているのだ。
とんでもないことは変わらないが、
山田次郎はとんでもなくテンションが上がった。

「ゾンビ狩りじゃああああああッ」
次郎は嬉々とした顔でAK47βスペズナズを、
うろつくゾンビに向かってサイティングした。
パスン!パスン!セミオートで確実にヘッドショット。
倒れるゾンビ。
セミオートとは、トリガーを引くたびに
1発1発、BB弾を発射するシステムだ。
対するトリガー引きっぱなしで、
弾を連射するのはフルオート。
山田次郎は確実に1体、また1体と
セミオートで仕留めていく。

ちなみに山田次郎はノーマルマガジン派だ。
ノーマルマガジンとはBB弾を、
内蔵されたスプリングで押し上げるタイプだ。
したがって、弾数は最大70発程度。
他にも多弾数マガジンというものもある。
多弾数マガジンとは、
弾倉のなかがポケットのようになっていて、
BB弾がジャラジャラと大量に入るマガジンのことだ。
そうなると勿論、多弾数のほうが、
大量のBB弾が入ることになる。
サバゲでも断然、有利だ。大量の弾幕も張れる。

次郎が持ってるAK47の場合、
多弾数マガジンの装弾数は600発。
一見、多弾数マガジンの方がが有利だろうって思うだろうが、
次郎にはノーマルマガジンに、こだわりがあった。
多弾数だとほとんどマガジンを交換することなく、
撃ちつづけることができる。
だが、やはり緊張感とリアリティに欠ける。
実銃では装弾数30発なのだ。
それにやはり、マグチェンジはしたい。

次郎はゲームフィールドで、
人知れず弾倉のクイックリロードをすることに
至高の喜びを感じている。
マグをクイックリロードしてるオレ、
かっけー、みたいな。
勿論、誰も見てないのだが。
ちなみにクイックリロードして地面に落としたマガジンは、
その都度ちゃんと拾っている。
賢者タイム顔でマガジンを拾ってる姿だけは
見られたくないと、次郎は思っている。
というわけで限られた弾数のノーマルマグで、
むやみにフルオートするのはご法度だ。
説明したとおり、すぐに弾切れするからだ。
でもって、次郎はセミオートでゾンビどもを倒していった。

そこで、はて?と次郎は思った。
倒しているゾンビに、ほとんど東洋人はいないのだ。
どうも欧米人が多い。都心ならいざ知らず、
ここ八王子市にこれほどの欧米人がいるとは思えない。
ただ、気に入ってるところもあった。
それはこのゾンビたちの動きが、とろいのだ。
最近のゾンビ映画では、ゾンビが平気で走ってる。
あれはおかしい。ゾンビとは動く死体だ。
ということは、死後硬直してるわけで、
走ったり飛んだりできるはずがない。
どうもリアリティを感じないんだな、アレ・・・
と山田次郎は常々思っていた。

ゾンビの生みの親、
映画監督のジョージ・A・ロメロや
ダリル・アルジェントの初期のゾンビ映画
『デイ・オブ・ザ・リビングデッド』しかり、
『ドーン・オブ・ザ・リビングデッド』しかり、
『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』しかり、
ゾンビといえばのろいのが
定番なのだ。あれこそがゾンビだ。

目前にいるゾンビはまさにそれらの映画に出てくる、
動きの緩慢なゾンビだ。ゾンビの王道なのだ!

自分の住んでる、古アパート周辺のゾンビは
あらかた片付いた・・・と思った。
だが、通りの角から、
わらわらとおびただしいゾンビが現れて来る。
最初に装着したマガジンはもとより、
予備のマガジン6本も撃ち尽くした。
これって、ヤバいんじゃね?

山田次郎は思った。
アパートの駐車場の塀に隠れて、
ノーマルマグにローダーでBB弾を補充する。

ローダーとはカーブを描いた弾倉型のBB弾入れだ。
約400発ものBB弾が入る。
BB弾をマガジン内に押し込むレバーが付いていて、
それを親指で押すことにより、
BB弾をマガジンに込めることができるのだ。

塀の陰で、シャカシャカとせわしなく、
AK47のマガジンにBB弾を込めていた
次郎だったが、しゃがんでいる自分の影に、
もうひとつ影が重なっていることに
気づいた。仰ぎ見ると、でかい欧米人・・・
いやゾンビが塀越しに覗き込んでいた。
やべ・・・と、とっさに腰のビアンキのホルスターから、
サイドアームのグロックを抜いた。
そのばかでかい欧米人ゾンビの額にサイティングし、
トリガーを引く。
パスンッ!グロックはブローバックすると共に、
欧米人ゾンビの頭を撃ち抜く。

こいつら、柔らかい・・・次郎は思った。
BB弾で打ち倒せるほどに。
山田次郎は、ひらめいた。
こいつらゾンビに命名することにした。

「こいつらは、やわらかゾンビだ!」

とはいえ、弾切れするのも時間の問題だ。
自宅アパートに帰れば、5000発のBB弾があるのだが、
取りに帰るのは面倒くさい。
それに何より、この緊迫した雰囲気を冷ましてしまう。

山田次郎はアパートの駐車場に向かった。
そこには次郎の愛車ズーマーX110ccがある。
次郎はAK47βスペズナスをスリングで背中に背負い、
愛車にまたがった。
バイクのキーを差し込んで、スターターボタンを押す。
空冷4ストロークOHC単気筒のエンジンが、元気に吹き上がる。

目的地はBB弾を補充するために、
八王子市の伊藤動物病院の近くにある、
<トイガンショップ・エチゼンヤ>。
でも、開いてっかな・・・次郎は少し考える。
今日は木曜日。たしか定休日は毎週火曜日だったはず。
大丈夫だ。

山田次郎の駆る、原付2種の110ccのズーマーXは、
一路、<トイガンショップ・エチゼンヤ>に向かって疾走した。

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