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ZOMBB 33発目 出陣!

 自衛隊迷彩服に着替えた坂原勇、

久保山一郎、貫井源一郎、丸川信也、

そして山田次郎の5人の姿は、

高い天井に幾つもの蛍光灯が煌々と照らす、

自衛隊官舎の1階ロビーにあった。

各人がこれまできていたBDUは、

多くの戦闘のために薄汚れていたため、

自衛隊の計らいで、洗濯に回してもらっていた。


坂原勇は東京マルイ製ハイサイクルCQB―Rを

メインウェポンに、サイドアームは

ハイキャパ・ゴールドマッチ、

貫井源一郎は、同じく東京マルイ製

スカーLCQCにサイドアームは、

ソーコムM23固定スライド、

久保山一郎はハイサイクルG36Kに

ベレッタM93Rだ。

丸川信也は使い慣れた 東京マルイ製G36Cカスタム。

山田次郎はAK47βスペズナズに、

伊藤店長から新調してもらった

グロック18Cシルバースライドを

腰のビアンキホルスターに収めていた。

新垣優美はというと、

相変わらずララ・クロフトのコスプレをしていて、

その両側のレッグホルスターには、

KSC製USPガスブローバックが差し込まれている。

そんな新垣優美を見て、次郎は呆れたように言った。

「ララも女なんだからさ~、

  同じ服を何日も着ているなんてありえねえだろ?」

それに対して、新垣優美は侮蔑の目を次郎へ向けた。

「バッカじゃない?これは着替え用の予備なの。

 3日も同じ迷彩服着てたあんたと一緒にしないでくれる」

ムムッということは、あのバックパックの中に

着替えのブラやパンツも入ってたってことなのか―――!

次郎の鼻の下が、これ以上ないくらい伸びきった。


「兄貴、オレも連れてってくれ」

不意に背後から坂原隆の声がした。

モーニング・フォッグのメンバーたちは振り返る。

そこには背中にVSR―10スナイパーライフルを背負い、

手にはP90サブマシンガンを携えた坂原隆が立っていた。

彼に寄り添うように、妻の沙耶と息子の孝也の姿も見える。

「だめだ、お前はここに残れ」

「何言ってんだよ。

  今まで一緒に戦ってきたじゃないか?」

坂原隆の語気は荒い。

「奥さんや孝也君の身にもなってみろ。

  その目の前でお前を連れて行くことはできない」

坂原勇の両目には、断固とした意志が伺えた。

兄がこういう目をした時は、

何を言っても訊かないことを、隆は知っていた。

坂原兄弟の間に緊張が走る。その場にいた誰もが、

呼吸する事さえ忘れていた。

そして、次郎の目も真剣だった。

彼の血走った視線は、新垣優美の背負っている、

バックパックに注がれていた。

あの中には、まだ真新しい下着が入っているのか?

しかし、オレとしては、できれば使用済みの方が・・・。

その沈黙を最初に破ったのは、弟の隆だった。


 「わかったよ、兄貴。今回は見送る。

  次は一緒に連れてってくれよ」

諦めたように目を閉じ、肩をすくめる。

坂原隆の口元に、残念そうな笑みが刻まれた。

「ああ、次は一緒に戦おう。

  今は家族水入らず、ゆっくり休め」

坂原勇の顔にも、ようやく微笑が浮かんだ。

その時、リノリウムの床を踏む、

複数の靴音が近づいてきた。

見ると、自衛隊迷彩服に身を包んだ

皆藤准陸尉と二人の自衛官の姿があった。

「その装備からすると、

  我々の作戦に協力していただけるようですね」

皆藤はうれしそうな声で言った。

「ええ、弟の隆以外は、

  協力させてもらうことにしました」と坂原勇。

「ではグラウンドに案内しますので、

  ついて来てください」

皆藤はそう言うと、すぐに背を向けて先を歩き始めた。

その皆藤を坂原勇が呼び止めた。

「皆藤さん」

「何でしょう?」

皆藤は怪訝な表情で振り返った。

「武器なんですが、

  昨日の話では実銃は使えないんですよね?

  何を使うつもりなんです?」

「ああ、接近戦闘の訓練用に

  89式小銃の電動ガンの備え40丁余りありましてね。

  それを隊員に装備させるつもりです。

  不足分はエチゼンヤ店長の搬送された電動ガンを、

  自衛隊で買い取って使わせてもらうことになってます。

  ただ、第3小隊は特殊部隊員で構成されていまして、

  9ミリ自動拳銃の実銃を装備させてます」

「実銃の装備?」

今度は坂原たちが怪訝な表情に変わった。


「これから向かう高取山弾薬庫には

  ゾンビ以外の敵らしき存在も確認されているので・・・。

 できればその連中の確保も

 今回の作戦の重要な任務なんです」

ゾンビ以外の敵?それはいったい―――?

皆藤はそれだけ言うと、再び外へと足を向けた。

モーニング・フォッグのメンバーは、慌ててその後を追った。

メンバーの誰もが、坂原隆の肩を叩いて行った。

それは「任せとけ」という無言のメッセージでもあった。

グラウンドに出ると、五十名以上の自衛官達が、

1列に11名の縦隊配列で、

計5列になって整然と並んでいた。

その隊列に向かって、佐渡蔵司令が立っていた。

その傍らに綾野陸曹長も控えていた。

グラウンドの西の方を見ると、

装甲車のような車両が1台、

幌つきの大型トラックが5台駐車していた。

モーニング・フォッグのメンバーたちは、

その一番右端に並んだ。

皆藤准陸尉は綾野の隣に立った。

それを確認すると、佐渡蔵司令から、

正式な命令が下った。

「これから諸君に、高取山の弾薬庫に向かってもらう。

  目的は弾薬の確保。

  しかし、現場には五百体を越える

  ゾンビがいるという、

  偵察隊からの報告を受けている。

  諸君には、それらゾンビを殲滅し、

  弾薬をこの立川駐屯地まで護送してもらうことが、

  至上命令となる。可能な限り、犠牲を出さずに、

  この作戦を成功させてもらいたい。以上だ」

佐渡蔵司令の命令の後を、皆藤准陸尉が受け継いだ。

「各小隊は2個小隊ごとに

  73式大型トラックに分乗してもらう。

  私と綾野陸曹長は軽装甲機動車に乗って、

  先導に努める。人員は73式トラックの先頭から

  3台に分乗。残り2台は奪還した弾薬を

  積載するために同行する。

  作戦は迅速かつ的確に行う事。

  ゾンビとの戦闘は避けられそうにもないが、

  各個人の生命を優先して行動する事。

  尚、今回の作戦には、

  数々のゾンビとの戦闘を経験してきた、

  モーニング・フォッグという

  サバイバルゲームチームにも

  協力してもらえる事になった。

  各自衛官も彼らに協力するように命ずる。

  では、総員乗車!」

皆藤の声は、腹に響くほど強烈なものだった。

その場の空気が一気に引き締まる。


自衛官達は無駄の無い動きで、

グランドの端に駐車している

73式大型トラックへと、次々に乗り込んでいく。

モーニング・フォッグのメンバーもトラックへ向かった。

自衛官の一人が坂原たちの手を取って、

乗車を手伝ってくれる。

大型トラックの二台には、

木製のベンチのようなものが左右に平行に並んでいた。

坂原たちも互いに向き合うように座った。

次郎の正面には新垣優美が腰を下ろした。

しばらくしてエンジン音がうなりを上げて、

73式大型トラックは動き出す。


自衛官達は、その誰もが緊張の面持ちをしている。

なにしろゾンビと戦うのはこれが初めてなのだ。

無理もなかった。だが、それとは対照的に、

モーニング・フォッグのメンバーの面々には、

およそ緊張感というものがなかった。

貫井はマルボロに火をつけて一服しはじめ、

坂原勇と久保山一郎は生あくびを押し殺している。

丸川信也にいたっては、居眠りをきめこんでいる。


トラックが揺れるたびに、

彼の頭も不規則にゆさぶられていた。

一方、次郎はというと、

真正面に座っている新垣優美を見つめていた。

トラックの揺れに合わせて、二つの水風船のように

揺れるおっぱいに、スケベな視線を注いでいる。

鼻の下を伸ばして。

彼の視線に気づいた新垣優美は、

そんな次郎へ軽蔑の眼差しを向けながら、

声に出さずに唇だけで言っていた。


このバカ、ゾンビになればいいのに―――。

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