【 #球春到来 】堺シュライクス全体練習~優勝より大事なもの~
顔ぶれが変わった
2月18日。曇ってはいたがここ数日の寒さが幾分和らいだ。
それでも海辺にあるみなと堺グリーンひろば野球場には時折冷たい海風が吹き込んできた。
大西監督は「それでも今日はまだマシ」と言いながらアップの様子を見ていた。
2020年から連覇を果たしたが、昨年から残留したのは8名。23名もの新入団選手を抱えることになった。
「(顔ぶれが変わったことについては)独立リーグのあるべき姿かな、とは思う。人は入れ替わったけど選手の意識は1年目のころと比べたら全然今のほうが上」と大西監督は入れ替わった選手たちについて評した。
堺シュライクスは今季から体制が大幅に変更。ピッチングアドバイザーの西克弥コーチを中心に、トレーナーとの連携を行い、アップやトレーニングの指示を行っていた。
一通りアップが終わると選手を待っていたのは「制限時間内に20メートルを90本走る」という体力測定メニュー。
2度制限時間に間に合わなければその時点で脱落という内容だ。
20メートルと聞くと楽に聞こえるかもしれないが、限られた時間で走り続けるのはなかなか難しい。だんだん選手たちの息が上がっていく。
脱落する選手たちも次々に出てくる。
「ぬわー!!!」とか「あかーん!!!」という声にならない声が聞こえてくる。
一人、また一人と脱落者は出てきたが、90本走り切った選手が大半だった。
その中にはこの男も。
芸人との二足の草鞋を履くじゅんせー選手。90本走り終わった後に「流通経済大野球部・陸上部出身です!」と力強く叫んだ。
「今年で30になるおっさんがそこまでやってるんやぞ!」と大西監督も他の選手に檄を飛ばす。
「芸人やってるって言ってもちゃんと練習についてきているし、ちゃんとした調整をしてきている。普通はそこまで走れない」とじゅんせーを評価していた。
そしてメニューは本格的に
その後、投内連携、ノック、打撃練習と続いた。
自然と選手たちの声も出る。
誰が盛り上げ役というわけでもなく、熱の入った練習が続いた。
投手もフィジカルを鍛えるメンバー、投げ込み、走り込みを行うメンバーに分かれ、各自の課題克服に励んでいた。
「今の時点で去年の西澤(宙良)よりいい投手は4~5人ぐらいおるし、野手も去年いたメンバーならオリ(折下光輝)ぐらいしか計算できへんのちゃうかなぁ。いずれにしても競争やね」
投手も15人、野手も内野を中心に層が格段に厚くなった。
そこから目立つ何かを見せないとなかなか試合には出られない。
「オリはいい感じで来てるね。去年合流した時は中距離ヒッターみたいな感じになってたけど、NPBに戻りたいなら弾道を上げて長距離打てて、内野の他のポジションも守れるようにしないと、って言っている」
そう言っているそばで折下選手はフリーバッティングでセンターの奥深くに叩き込んだ。また、他の選手にノックを打ったり、守備の入り方を教えるなどしていた。
豪快に放り込む
そんな打撃練習でひときわ目立つ選手が一人。上村広野(うえむらこうや)。地元堺市出身の新加入メンバーだ。
昨年BCリーグで3割を超える打撃を残していたのでどんな選手なのだろうと思っていたら、軽いスイングで打球をピンポン玉のようにはじき返していた。
海風が強くなかなかスタンドインしないみなと堺をものともせず、場外へボールを飛ばしていった。
「パワーはまだまだなんですが、ホームランをできるだけ打ちたいです。フルスイングをしまくります!」
アピールポイントは?という質問に「なんだろう……野球が好きなところですかね?」という回答。
地元出身選手としてそのパワーを見せつけてほしい。
ラストチャンスにかける
もう一人打撃練習で目立つ選手がいた。吉田大就(よしだたいしゅう)。社会人チーム・ハナマウイから移籍してきた選手だ。
「大学を出てから独立リーグに入って、2年間でNPBに行こうと思ったんですが、2020年シーズンに有鉤骨を骨折して、このまま独立リーグでプレーするのが難しいなと思って1年間社会人のチームにいました」
手首の手術の経過も良好。打撃では低めのボールをすくうようにライト方向に飛ばしていたのが印象的だった。
「インパクトを強くして打球を上げるように心がけています」上村とはまた違い、ライト方向に引っ張って球場場外に打球を飛ばしていた。
吉田には東京ヤクルトスワローズに所属する兄がいる。
「兄には負けたくないですし、兄がいるから自分を見てもらえるとも思っています」
「兵庫の甲斐(将恭)は同級生なんで、リーグで対戦したいですね。同じお兄さんがNPBにいる兵庫の小笠原(智一)くんとも対戦してみたいです」
年齢的にも即戦力ぐらいの実力を備えていないとNPBへの指名がされないことも理解している。
「目標は打率3割、ホームラン5本以上。エラーはできるだけ少なく。バッティングには自信がありますし、高い身長を生かしたアグレッシブな守備を見てもらいたいです。悔いのないようにプレーしたいです」
今年がラストシーズンと位置付ける吉田。真価を見せつけて夢を叶えることができるのか、注目してほしい。
一朝一夕にはならない
一人の選手が大西監督に相談をしていた。松田倭都捕手。
肩は強いがスローイングがばらつく。そしてスイッチヒッターなのだが右打席がしっくりこないというのだ。
スローイングの癖は大西監督が即座に見破った。早く投げようとして上体が突っ込んでいた。バッティングも同様だった。
「焦ってやろうとしてしっかり動けてない。これまでにも言われた事ないか?」
「あります」
「あるんやったらしっかりやらないと」
劇的に何かを向上させる薬は、地道な練習しかない。ゆっくり動作を確認しながら投げていく。バッティングも同じ。
「阿部慎之助さんのようなキャッチャーになりたいと思っています。去年(BCリーグで残した成績)よりもいい成績を残したいですし、何より信頼されるキャッチャーになりたいです。アピールポイントは声と笑顔です。じゅんせーさんにも負けないです!」
新加入選手であり、まだ19歳の松田にとって結果は喉から手が欲しいものだと思うが、近道はない。地道な努力が花開くように、練習に励んでほしい。
優勝より大事なもの
「リーグの現状を変えたいと思っていろいろやって、1年目最下位で、そのあと連覇したけど、やっぱり優勝したからってなにかってないやん」
大西監督は練習後に今シーズンに向けてどう思っているか、という質問に対してこう答えた。
「もちろん連覇したことで、他の球団がかなり本気を出してきて、リーグとしていい流れができている。もちろんそこに負けたくないし、勝ちたい。でも勝ちだけにこだわっていいわけじゃない。今年のチームは普通にやってればいいチームになるし、采配でがんじがらめにしたら普通に勝てるのよ」
この2年、大西監督は選手にかなりのサインを出し、少しでも勝てるように最善を尽くしてきた。しかし優勝という栄冠を手にしても、それ以上のことが無かった。
「NPBに選手を送り出すのは至難の業。監督が選手に指導をしてもうまくなるかどうかは結局はその人次第。自分にできるのはアドバイスやサポート。そこから強制はしない。もちろん注意とか、気づいたことは言うけど選手の動きを尊重させたいかな。新庄BIGBOSSじゃないけど、最初から優勝を目指すんじゃなくて、魅力的なチームにしていきたい」
芸人じゅんせー、元巨人の折下、村上、その他にも今年のチームには一芸に秀でたり、個性的な選手がそろっている。チーム自体にもチアリーディングチームを作るなどの取り組みを進めている。「見てみたい」「見に来てよかった」というチームを作っていきたい。次のステップとして大西監督はそう考えている。その結果優勝できたら最高だ。
実力と魅力を兼ね備えたチームがどうなるか、この1年見ていきたい。
(取材日:2月18日 SAZZY)
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