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黄表紙「無益委記」②~もしもの世界の江戸の町

 恋川春町こいかわはるまち(1744~1789)の作画だといわれる黄表紙きびょうし無益委記むだいき」は、聖徳太子の未来預言書「未来記」(実在不明)をもじって、現実を茶化ちゃかして描かれる大人の絵本。全三巻の中巻の現代語訳。 



中巻

 吉原入り口には柳が植えてあるが、それを松に植え替える。倹約けんやくのために、ちょうちんをたいまつにする。
客「だいぶ暗いなあ」 

 吉原は、男の社交場であり、入り口の柳はよく知られていた。



 盆と正月が一度に来て、三河万歳みかわまんざいがやってくる。
正月の宝船たからぶねと、お盆の線香せんこう売りがやってくる。 

 「盆と正月が一緒に来る」という、良いことが重ねてあることを、そのまま絵にしている。
 正月には、三河万歳みかわまんざいがやって来た。この画面では漫才師が坊主の格好も兼ねており、正月の宝船売りとお盆の線香せんこう売りも兼ねた人物も登場している。 



 客に選ばれるはずの女郎が、女郎のほうから客を選ぶ。
女郎「禿かむろなみじや、あの客に決めたので、呼んでおくれ」
毎年恒例こうれい俄狂言にわかきょうげんをやめて、男のまつたけ刈りをはじめる。
歌「君をまつだけ、もめるはきのこ、ながい夜もふけ、ねずみたけ♪」 



 浄瑠璃じょうるりも下品なりと神楽かぐらの歌をうたう。すべて万葉の時代をしたう。
女郎「なんだか法事のおきょうのようでありんす」
客「いよいよ眠いことよ」 

 当時は、国学の影響で、万葉の時代があこがれともなっていた。 



 遊女はいろいろな芸事をかじりちらして、ついには武芸を習う。
女郎「しげこや、それが終わったら防具ぼうぐを出してきや」
 
やり手ばばあは仏心が出る。
やり手「なむあみだぶなむあみだぶ、あれだけ動けばくたびれよう」 

 高級な女郎は、夜のテクニックだけでなく、芸事にもけていた。お茶、生け花、こと三味線しゃみせん、和歌、書道などを学んでいる。 



十一

猫も杓子しゃくしも芸者となる。
猫「杓子しゃくしさんは一本足で、さぞちょちょっところびなさろうの」
杓子「悪いしゃれを言いなさるな」

 「猫もしゃくしも」は、誰もかれも、みんな、という言葉。それをそのまま絵にしている。
 しゃくしが「ころぶ」というのは、1本足でころびやすいという意味と、「ころぶ」というのは隠れて売春することをかけている。 



現実とは逆の、ウソの世界を次々並べ、次回、最終回につづく、 


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