ロムアンドのリップティントのヒットの理由
1. はじめに
近年、消費者の需要に応じて様々な海外ブランドが日本に進出してきている。そのなかでも韓国コスメが日本に多く輸入されている。@cosme(アットコスメ)の公式ポップアップショップを訪れると、入り口に韓国コスメの特設コーナーが設けられていることが多々見受けられる。また、公式オンラインストアでも韓国コスメの特集が組まれている。最近では、ドラッグストアでも取り扱いを始めた店舗もある。この流れにより、韓国コスメは私たちのような大学生のみならず、幅広い年代に身近な存在になってきている。インスタグラムで「#韓国コスメ」で検索すると約246万件の投稿がヒットする。さらに「#kbeauty」を検索すると約470万件の投稿がヒットする。以上のことから、韓国コスメは日本のみならず世界中で存在感を高めている。その中で今回取り上げるのはrom&nd(以下ロムアンド)のリップティントである。韓国コスメ流行の火付け役となったといっても過言ではないリップティントは昨今のコロナ禍で大変重宝されている。そこで、今回はロムアンドのリップティントのヒットの理由について考えていきたい。日本の化粧品における購買行動と@cosmeなどの化粧品評価サイトにおける口コミは密接な関係にあると考えられる。今回の分析では筆者自身の実体験をもとに、評価サイトと化粧品購買までのプロセスをロムアンドのリップティントを用いて分析していく。ロムアンドはリップティントをブランドの強みにしている点が今回の分析に適していると考えた。
2. rom&nd
ロムアンドは韓国発祥のコスメブランドである。アイシャドウやベースメイク、メイクブラシなど、メイクアップに関する商品を幅広く取り扱っている。比較的安価でありながら、かわいいパッケージや発色の良さなどの機能面でも遜色がないことから多くの女性の支持を得ている。その中でもロムアンドのメイン商品といえばリップティントである。リップティントとは、簡単に言うと落ちにくい口紅のことである。ティントとは英語で「色合い」や「染める」という意味がある。その名の通り、唇に塗ることで唇にしっかり着色するという特徴がある。口紅やグロスに比べると、食事をしたり飲み物を飲んでも落ちにくく、化粧直しの手間が省ける。また、昨今女性を悩ませているマスクに関する問題も解決してくれる。唇に染み込みやすいテクスチャーなので、ベタベタせず、時間が経っても浮いてこない。その上、口紅のような粉っぽさもないので、色移りしにくい。マスクを装着する前にティッシュオフすることで唇自体に色がついているにもかかわらず、マスクに口紅の色が移る心配がない。
中でもロムアンドのリップティントは初期から人気がありシリーズやカラーバリエーションが多く展開されている。従来のリップティントは、マットな仕上がりのものが主流だった。しかし、ロムアンドから発売されたのは「ジューシーラスティングティント」や「グラスティングウォーターティント」をはじめとした、ティントでありながら潤いを保ち続けるものだった。「水膜ティント」のキャッチフレーズがついたそのリップティントは、唇全体に塗り数秒置くと、ティントが色づくのと同じように、プルプルとした輝きが生まれることが特徴である。まさに唇に水の膜がついたような仕上がりになると話題となった。
3. 5Aを用いた分析
ここまで、ロムアンドの魅力について述べてきたが、実際、5Aを用いてマーケティング的にヒットの理由について考えていきたい。
5A分析とは「マーケティングの神様」と称されるフィリップ・コトラーが提唱した理論である。コトラー氏が2016年に発表した著書「マーケティング4.0」では、ソーシャルメディアの出現によって「接続性の時代」に突入していることを指摘されている。SNSが発展し続ける中で、商品の購買行動におけるSNSの重要性も高くなってきている。通販サイトにおける口コミももちろん主流な情報源であるが、先ほど述べたようなインスタグラムをはじめとするSNSのハッシュタグも重要な情報収集の場となっている。「#romand」で検索すると約14万件の投稿がヒットする。投稿を見ていくと公式アカウントはもちろんのこと、インフルエンサーによる商品レビューを見受けることができる。以上のことから、ロムアンドはSNSとの親和性が高いと考えられ、5A分析に適していると考えられる。
ここからは詳しく5A分析について考えていく。5A分析はその名の通り、消費者が購買行動に至った際に踏む5つの要素についての理論である。認知(Aware)、訴求(Appeal)、調査(Ask)、行動(Act)、推奨(Advocate)の5つである。今回はより具体性を増すために筆者の実体験をもとに考えていきたい。
①認知(AWARE)は、従来からのカスタマージャーニーの入口。他者から聞かされたり、ブランドの広告を見たりすることで、認知される。
②訴求(APPEAL)は、顧客は認知したブランドの中から、自分にとって好ましいと思う少数のブランドだけに引きつけられた状態のこと。
③調査(ASK)は、顧客は引きつけられたブランドの中から、魅力を感じたブランドを調査する。調査段階で詳しい情報を入手したら④行動へ進んだり、購買行動を伴わない場合でも、⑤推奨へ進んだりする。
④行動(ACT)は、購買行動だけではなく、消費や使用はもちろん、アフターサービスを通じたコミュニケーションも行動に含まれている。
⑤推奨(ADVOCATE)は、顧客にブランドに対する強いロイヤルティが芽生え、熱心な推奨者は大好きなブランドを自発的に他者に推奨し伝道者になる段階のこと。
認知の段階では、まず消費者に知ってもらう必要がある。リップティントの場合では、友人からのお勧めやSNSでの発見が主なルートではないかと考えられる。筆者自身、最初にロムアンドのリップティントと出会ったのは、友人の紹介からである。韓国コスメ好きの友人がとても発色の良いリップを塗っており、気になって聞いたことがロムアンドを知るきっかけとなった。それまでは、ティントの存在は知っていたものの、唇が荒れるなどの悪い面や、マットなリップが好みでなかったという点から購入までには至らなかった。
訴求の段階において重要なのは、ロムアンドを消費者にとって好ましいブランドだと引き付けることである。認知の段階で、消費者はティント、あるいは韓国コスメに興味を持っている状態だと考えられる。となると、その中から選んでもらうには、他との違いが必要になってくるのではないだろうか。ロムアンドは先ほど述べたように、従来のリップティントとは異なる性質の水膜ティントを発売している。これにより、他との差別化を図ることができていると考えられる。経験談でいうと、マットなタイプのリップティントが好みでなかった筆者がリップティントに興味を持つきっかけとなった、水膜ティントが他企業との異なる点となっていると考えられる。これにより、ロムアンドが好ましいブランドであると消費者が引き付けられた状態であるといえる。
調査における企業側の働きかけとして考えられるのは、企業の情報発信である。調査の段階では消費者自身がそのブランドを詳しく知るために調査を行う。そのための情報を企業または既に商品を購入し使用した消費者が発信する必要がある。ロムアンド公式SNSはもちろんのこと@cosmeなどの口コミサイトが消費者の情報収集において重要な役割を果たす。私自身、ティントに興味を持ち始めてから、口コミサイトやSNSなどを利用し様々な情報収集を行った。口コミサイトでは星で評価をつけることができ、低い評価をつけた人の口コミも見ることができる。その商品の良い点と悪い点を両方とも見ることができるためとても参考になる。またSNSでは、実際に購入した消費者が投稿しているため使用感や色合いなど写真を通して確認することができる。様々な情報源がある中で口コミサイトが強い影響力を持っている理由としてあげられるのは、自分たちと同じ立場である消費者が評価しているからだと考えられる。購買行動の決め手として最も有効な情報源が口コミサイトであるという仮説を裏付ける調査がなされている。佐々木裕一(2005)「商品購買における評価サイトの有効度」情報メディア研究によると商品購買の決めてとなる情報1位が口コミサイトであると述べられている。この調査はネット上に情報発信をするRAM(Radical Access Member)と、ネット上に情報発信せずに投稿された情報だけを読んでいるだけのROM(Read Only Member)に分類されており、@cosmeへの会員登録期間が6か月以上の20~49歳までの女性を対象としている。
表からわかる通り、RAM、ROMともに商品購買の決め手となる情報を提供する情報源としての1位が評価サイトであるといえる。つまり、情報を発信するユーザーであるか否かをとはず口コミサイトは購買行動に最も影響を与えている。ちなみに、私の経験談のような認知の段階を友人の口コミから取り入れるケースは少ないことも分かった。以上のことから、調査の段階における消費者は、先に商品を購入し、使用した消費者の言葉を参考にすることが分かった。
続いて行動の段階では、実際に消費者が商品を購入する状態である。また購買行動のみならず、アフターサービスなども行動の段階に含まれる。最近では、ドラッグストアでも購入できるようになっているため、購買行動を行いやすい環境が整っている。私は通販サイトで購入した。@cosmeは口コミを見て、そのまま購買行動に至ることができるため、調査後、すぐに行動に移れる仕組みとなっている。
最後の訴求の段階の消費者の行動も重要になっている。調査の段階で述べた通り、消費者は消費者の声を参考にすることが分かった。つまり、訴求の段階ではすでに商品を購入し使用した消費者が口コミサイトに投稿したり、SNSに評価を投稿する必要がある。そこで企業が行えることとしては、口コミサイトとの連携が挙げられる。これは言わずもがな行われていることではあるが、口コミサイトで商品を取り扱ってもらうことで、多くの人の目に触れることができ、また、沢山の口コミを投稿してもらうことに繋がり、消費者の調査をより厚みのあるものに変えることができる。
以上、ここまでの考察を通じて、ロムアンドのリップティントは、インフルエンサーをはじめとする消費者の口コミによりヒットしたといえる。
4. まとめ
ここまで、ロムアンドのリップティントはなぜヒットしたのかについて考えてきた。5Aでいうと、消費者が発信する訴求部分が重要であることが分かった。ふまり、化粧品のヒットと口コミサイトには深い関係があることが分かった。私自身はインターネット上に情報を発信することはないが、よく口コミサイトやSNSでの検索はする方である。口コミサイトには、厳しい意見が投稿されていることもあるが、批判だけでなく要望を書かれていることも多々ある。企業側は口コミサイトをよくチェックし反映すれば、より良い商品づくりにつながるのではないだろうか。口コミサイトやSNSに投稿する人は、批判を書く人であっても、根底にはメイクが好き、化粧品が好きという気持ちがあると私は考える。そういった消費者の声に耳を傾け、消費者とともに商品づくりをしていくのも企業側の務めなのではないだろうか。
参考文献
@cosme(2021)「ティント人気ランキング」
https://www.cosme.net/pickup/pickup_id/1026/ranking
2021年6月10日
ロムアンド公式ホームページ(2021)
http://romand.co.kr/
2021年6月10日
佐々木裕一(2005)「商品購買における評価サイトの有効度」情報メディア研究
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jims/3/1/3_1_29/_pdf
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