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ヴィッセル神戸の強みと弱みとは

1.ヴィッセル神戸とは

ヴィッセル神戸というのは、1966年に川崎製鉄株式会社の水島サッカー部が前身のチームであった。その後1995年にヴィッセル神戸と改称した。その年の1月17日に、初練習を予定していたが、阪神淡路大震災が発生してしまった。その年、「ミスター神戸」と呼ばれる永島選手が加入し活躍したおかげで、1996年に、JFLというサッカーリーグで、準優勝を果たし、悲願のJリーグに昇格することが出来たのである。Jリーグに昇格してからは、三浦知良選手や大久保嘉人選手など代表に選ばれるような選手を獲得していた。しかし、2013年にJ2リーグに降格してしまう。そのため、主力選手たちが移籍していった。だが、1年でJ1リーグに復帰することが出来た。

その後ヴィッセル神戸は、2017 年から外国人スター選手を獲得していった。これまでは、日本で人気な選手をとっていた時期もあったが、このように海外で人気の選手を獲得するというのは、今まではなかったことだ。2017 年には、バイエルン・ミュンヘンやドイツ代表で数多くのタイトルを獲得し、2018年からキャプテンに就任したルーカス・ポドルスキを獲得している。2018 年には、アンドレス・イニエスタ選手が加入した。彼は11 歳からバルセロナ一筋であり、スペイン代表にも選ばれていた。タイトル数は 35 以上もとっているのである。2019 年には、ダビド・ビジャ選手が加入した。海外の有名クラブに数多く加入しており、スペイン代表にも選ばれた。また、2010 年ワールドカップでは得点王にも輝いた。この 3 選手以外にも、日本代表を経験した選手も数多く獲得したため、スター選手揃いのチームになったのである。なぜこんなにもスター選手を獲得できるのか。

ヴィッセル神戸は、楽天がスポンサーになっている。2014 年から、楽天はヴィッセル神戸のすべての株式を獲得して完全子会社として積極的に投資を行っており、スポンサー料が大幅に増加した。2014 年のヴィッセル神戸の決算は、スポンサー収入が 9 億 4 千万円で、J リーグ平均の 15 億9千万円と比較しても少ない状況であった。それが 2017 年度になると、33 億円までに増加している。また 2017 年からは、サッカーの名門である「FC バルセロナ」やアメリカのプロバスケットボールリーグ「NBA」、などと楽天はパートナーシップを結んだ。なぜ楽天は国内外問わずスポーツに積極的に投資を行っているのか。その背景には、事業のグローバル展開に加えて、スポーツマーケティングに力を入れ、「グローバルイノベーションカンパニー」としてグローバルブランド化を目指す戦略があった。

上記で述べたように、楽天がスポンサーに付き、海外のスター選手を沢山獲得しているということもあり、Jリーグのクラブチームの中では、特徴的なチームであると考えられる。そんなヴィッセル神戸は、Jリーグに影響を与えているのか。どのような事業で影響を及ぼしているかについて調べていきたい。

2.SWOT分析を用いた分析

今回、ヴィッセル神戸がJリーグに影響を与えているかについて、SWOT分析を用いて分析していく。SWOT分析とは、企業や事業の現状を把握するのに効率的なフレームワークである。内部環境と外部環境を照り合わせて分析することで、今後挑戦できる市場領域や解決すべき事業課題が見えてくるのがSWOT分析の特徴である。SWOT分析とは、内部環境と外部環境の横軸、目標達成に対してプラスかマイナスかの縦軸、それぞれで分けた4つの項目からなるものである。

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Strength(強み)
企業、あるいはサービスが持つ資源・特徴で、目標達成に大きく貢献しうるものである。
Weakness(弱み)
企業、あるいはサービスが持つ資源・特徴で、目標達成の妨げとなりうるものである。
Opportunity(機会)
企業外部の環境で、企業、あるいはサービスの成長に大きく貢献しうるものである。
Threat(脅威)
企業外部の環境で、企業、あるいはサービスの成長の妨げとなりうるものである。

上記4つの項目を埋めていくことで、企業の現状を理解し、戦略の立案の基盤を築くのがSWOT分析である。ヴィッセル神戸を、SWOT分析で分析する理由は、ヴィッセル神戸の強み、弱みを理解することと、今回は外部環境をJリーグとするため、Jリーグの環境を把握し、外部環境がどのように変化するのか、それがどのようにヴィッセル神戸に対して、どんな影響を与えるのかを知りたかったからである。では、実際にSWOT分析を用いてヴィッセル神戸を分析していく。まずは、外部環境の分析である。

機会の段階では、Jリーグは地域密着型であること。Jリーグは、Jクラブの本拠地をホームタウンと呼ぶ。「Jリーグ規約」には、Jクラブはホームタウンと定めた地域で、その地域社会と一体となったクラブ作りを行いながら、サッカーの普及、振興に努めなければならないと記載されている。ホームタウンは、Jクラブと地域社会が一体となって実現する、スポーツが生活に溶け込み、人々が心身の健康と生活の楽しみを享受することができる町のことを示す。またJリーグの開幕当初の加盟の7つの条件がった。①ホームタウン制としてクラブは地域名を入れること②チームを法人化すること③15,000人以上収容可能なナイター設備付きの競技場を確保すること④18人以上のプロ選手の契約をすること⑤下部組織の運営をすること⑥1億円の拠出金を用意すること⑦地域行政と都道府県サッカー協会の了解を得ることがある。プロ野球は、広島以外の11球団がすべて企業名で表現されている。これらからJリーグが地域密着型であることが分かる。

脅威の段階は、観客数が少ないことが挙げられる。近年のJリーグの1試合あたりの平均観客数は、1万7千人前後である。これは、世界のサッカーリーグの観客動員数ランキングでは、Jリーグはトップ10にランクインしていない。下記のグラフにもあるように、日本のプロ野球との平均観客動員数を比べても、プロ野球のほうが動員数は明らかに多い。

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なぜJリーグの観客数は少ないのか。Jリーグは、日本のプロ野球と違い、チーム・選手の知名度が低いため、あの有名な選手を見てみたいという好奇心で来る人は少ない。また、プロ野球は地上波で生放送されているが、Jリーグは、地上波ではあまり放送されていない。たまにBSで放送されているが、全試合やっているわけではないし、サッカーに興味のある人しか見ない。だから、テレビで見てJリーグを見に行きたいというような新規のファンを獲得できない。ここ近年で、「DAZN」というたくさんのスポーツコンテンツが見られる動画サービスで、Jリーグの全試合が見られるようになった。これのおかげで、スタジアムに行かなくても試合がいつでもどこでも観戦できるので、スタジアムに足を運ぶ人が減ったことも、Jリーグの観客数が少ないことに関係があると考える。

では、次に内部環境の強みである。ヴィッセル神戸の強みを2つ挙げる。選手のブランド力が強い点と、グッズが多い点である。ヴィッセル神戸の選手は有名な人が多いのは、上記の「2.ヴィッセル神戸と楽天」で示した通りである。例えば、イニエスタ選手は日本のみならず世界各国で有名である。イニエスタ選手は全国区のCMに出演している。楽天のCMは勿論、日本酒のCMにも起用された。それ以外にも、イニエスタ選手がアンバサダーを務める服のブランドがあったりと、選手のブランド力が強いため、様々な宣伝に活用され、消費者の購買意欲を高めるのである

2点目は、グッズが多い点である。ヴィッセル神戸は、グッズを多く販売している。ユニフォーム、タオルなどはもちろんのこと、スポンサーであるアパレル企業とコラボしたTシャツやキャップなど、試合日だけでなく普段でも着用できるものを多く販売している。試合で、ゴールを決めた選手、活躍した選手を記念として、グッズを期間限定で発売している。そのグッズは、サイン入りボールやサイン入りタオルなどである。2020年の天皇杯で、ヴィッセル神戸は初優勝をしたのだが、試合終了後にすぐその会場で、優勝記念グッズを発売していたのだ。もし優勝していなければ、このグッズは世に出ることはなく、赤字になるはずである。それなのになぜこのようなことが出来るのか。それは、スポンサーである楽天の力である。楽天は、楽天市場というECのサイトを持っているため、そこで様々なグッズを販売しているのである。勝った日は、サポーターにとって特別な日であるため、そんな日の記念グッズが出るということで、サポーターの購買意欲を高めている。ただ買ってもらうだけでなく、ヴィッセル神戸が勝利した次の日は、楽天ポイントが倍になるというシステムがあるのである。そのポイントが倍になる日を狙ってグッズを購入する。ポイントが倍になるのは、ヴィッセル神戸のグッズだけでなく、楽天市場全体がなるため、欲しかったものを勝利した次の日に買うことも多い。また、グッズはシーズンごとに変わるものがある。それがもしシーズン終盤で売れ残っていたら、楽天のサイトでアウトレットサイトができ、そのシーズンのグッズが安く買えるのである。ECだけでなく、実際の試合日に、アウトレットコーナーができそこでも商品を買えるのである。

次は、弱みである。弱みはチケット代が高いことである。ヴィッセル神戸は、2018年7月以降から、チケット販売価格に「ダイナミックプライシング」という制度を導入した。この制度は、チケット価格が一律ではなく、購入したタイミングによって、チケット価格が変動する可能性がある制度である。試合や席種の需要に応じて、価格が変動することで、より観戦者のニーズに応えられるようになるのである。ネットでは、昔のチケット価格が記載されていなかったので、私が実際に2014年10月5日に観戦したチケットで価格と、2021年6月23日のチケット価格を比較する。2014年に観戦した席は、「バック指定席 小中学生 3段目」であった。そこは、ちょうど真ん中の位置で、3列目という近さでとても近く、臨場感を味わえるいい席である。その当時は、中学生であったため小中学生の値段で、1,600円であった。2021年の、同じ場所のチケット代は、小中学生の特別料金はなく、一律7,000円となっていた。これは、2014年の小中学生の値段から比べると、約4倍も高くなっているのだ。また、大阪府の「ガンバ大阪」のホームスタジアムである、吹田スタジアムではどうだろうか。先ほどのノエビアスタジアムと同等の席で比較してみる。ノエビアスタジアムは、7,000円で、吹田スタジアムは、4,100円であった。

なぜこんなにもノエビアスタジアムのチケット代は高いのか。それは、世界的に有名な選手が来て、その選手たちの多額な年俸などを回収するため。ヴィッセル神戸というブランドを確立しようとするため。また、スター選手たちが見れることに対する付加価値であると考える。もう1つの弱みは、現金が使えない点である。ヴィッセル神戸のホームスタジアムであるノエビアスタジアムでは、2019年から、完全キャッシュレス化となった。グッズ・飲食等の購入の際は、楽天PAY、楽天EDY、各種クレジットカードのみが利用できる。ヴィッセルは楽天がオーナーであるから、PayPay、メルペイなどのQRコード決済は一切使用できない。現金が使えないというのは、私たちの若年層は実際利用しているか、利用方法が大体わかる人が大半である。しかし、高齢者、子供などは利用方法が分からない人が多いと考えられる。そのため、キャッシュレス決済の手段を持たない人たちへの配慮が必要となるのだ。これらを、図式化すると下記のようなイメージとなる。

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SWOT分析は、自社の現状と、それを取り巻く環境を理解するためのフレームワークであるため、次章では、分析結果をもとに考える「クロス分析」について、そこから分かるヴィッセル神戸の戦略についてみていく。

3.クロス分析

クロス分析とは、内部環境と外部環境の2つをそれぞれ掛け合わせることで、現状の理解を戦略に落とし込むフレームである。図に表すと下記のようになる。

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強み×機会 ヴィッセルの強みである選手のブランド力と、機会である地域密着型から考える。ヴィッセル神戸は、有名な選手が多いため、その選手を見に旅行がてら神戸に来る人が見られる。コロナ禍になる前、スタジアムに行くとイニエスタ選手が、前に所属していたバルセロナのユニフォームを着た外国人が多く見られた。Jリーグは、地域密着型であり、神戸が実際に行っているホームタウン活動の例として1つ挙げると、今ノエビアスタジアムに、新型コロナワクチンの大規模接種会場を設置している。接種会場では、普段は入ることのできない、選手ロッカールームなどに入ることができる。また、6月14日より、ノエスタでの接種を楽しんでもらうため、ピッチサイドの散策や撮影ができる企画「ピッチサイドウォーク」を実施。会場内では、選手たちが、順路案内のパネルや注意事項のパネルなどに登場する。休憩室では、ヴィッセル神戸のゴールの動画を流している。これだけでも、ヴィッセルのファンは、ワクチン接種はノエビアスタジアムで受けたいという意欲が掻き立てられる。

しかし、それだけではなく、6月22日以降に、ワクチン接種を2回打ち終わった人に、クリアファイルを配布。そのクリアファイルは、ヴィッセル神戸の試合のチケットやグッズが当たるキャンペーンに参加できるとともに、試合日に提示するとグッズの10%割引などの特典を受けることができる。このような特典があると、ヴィッセルに興味がない人も、安くなるなら行ってみよう、ずっと行きたかったからこのタイミングで行ってみようという気になる。また、ピッチサイドウォークなどは体験できないが、ヴィッセルの試合日にも接種することができる。ヴィッセルの試合を見に来たついでに接種、もしくは接種しに来たついでに観戦するというようなことができる。このように、ヴィッセル神戸は、神戸市や、兵庫県の医療従事者などと手を組み、接種しやすい環境を作っている。この取り組み以外にも、ヴィッセル神戸は、地域と密着し様々な取り組みを行っている。

弱み×機会 ヴィッセル神戸の弱みは、チケット代が高い。機会は、地域密着型であること。先ほど上記の弱みの部分でも書いたように、席種によっては小中学生の特別料金がないところもある。しかし、年に数回小中学生が無料または特別価格で見れる日がある。「神戸市西区民応援デー」や、「のびのびパスポートデー」「春休み親子チケット」「神戸市スポーツ協会ファミリーデー」など、たくさんのキャンペーンがある。私も実際、小中学生の頃は、学校から無料招待のプリントをもらってきたら応募し、よく無料で観戦していた。今はチケット代が高いから気軽に何回も見に行けるようなものではない。だから、このような観戦企画があると見に行きやすくなる。イニエスタ選手などが加入するまでは、頻繁にこのような企画は行っており、開幕戦・最終戦などはよく応募していた。なぜなら、この頃は今みたいにヴィッセル神戸が人気ではなかった。そのため、席を埋めるためにこのような無料観戦などの企画を行っていたのである。しかしこの頃は、そのような観戦企画を行わなくても、開幕戦や最終戦はチケットが即完売。だから、以前に比べ観戦企画は減ってしまったと考えられる。

強み×脅威 ヴィッセル神戸の強みは、人気選手がいること。Jリーグの脅威は、観客数が少ないことである。ヴィッセル神戸の平均観客動員数は下記のグラフのように変化している。

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2013年が記入されていないのは、J2リーグに降格していたからである。このグラフから分かるように、右肩上がりで、平均観客動員数が増えている。特に2017年から2018年からが一番増加しているのが分かる。2018年は、イニエスタ選手が加入した年だ。イニエスタ選手が加入し、ヴィッセル神戸の知名度が上がっただけでなく、観客数も増えた。Jリーグで見れば、他のサッカーリーグ、野球リーグに比べると少ないのかもしれないが、ヴィッセル神戸の観客動員数は増加しているのである。

弱み×脅威 ヴィッセル神戸の弱みは、チケット代が高い。Jリーグの脅威は、観客数が少ないことである。ヴィセル神戸はチケット代が他のスタジアムよりも高い。しかし、観客数は増加しているのはなぜか。こんな値段でもスター選手を観たい、ヴィッセル神戸を生で見て後押ししたいという人が、多く見られるからである。チケット代が高くて行けないという人のために、チケット価格というマイナス面だけでなく、ヴィッセル神戸を見に来ると、滅多に見れないスター選手をJリーグで見れる点や、スタジアム観戦の楽しさなどを、アピールすることで観客数を増やすことが出来ると考えられる。

5.まとめ

SWOT分析とクロス分析を行い、ヴィッセル神戸はJリーグに影響を及ぼしていると考えられた。Jリーグは地域密着の理念を掲げているため、ヴィッセル神戸はホームタウン活動を幅広く行っていた。Jリーグ、観客数が少ないことが課題とされている。しかし、ヴィッセル神戸は、選手の人気、観戦企画が数多く実施されているため、観客数が増加していることが分かった。このようにヴィッセル神戸は、チームの強みと掛け合わせて、Jリーグの魅力をより高めていき、Jリーグの課題を解決していると考えた。

参考文献

https://www.vissel-kobe.co.jp/
https://data.j-league.or.jp/SFTP01/
https://keywordmap.jp/academy/swot/
https://core.ac.uk/download/pdf/144468289.pdf

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