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いわきの地でピンチを救った八田直樹

いわきグリーンフィールドのピッチに現れたジュビロ磐田の背番号1の姿。リーグ戦出場は、実に約2年4か月ぶりでした。

八田直樹。

ジュビロ磐田一筋19年目のベテランゴールキーパーです。




2023年7月29日、J2リーグ第28節、いわきFC vs ジュビロ磐田。いわきFCは直近7試合負け無しで絶好調。対するジュビロ磐田も9試合負けなしでJ2リーグ2位。首位のFC町田ゼルビアを追いかけるためにも絶対に落とせない一戦でした。

いわきFCはその好調ぶりをいかんなく発揮。岩渕弘人選手を中心に、ジュビロのゴールに怒涛の攻撃をしかけ、シュートを浴びせ続けました。

対するジュビロは、DFリカルドグラッサ鈴木海音、GK三浦龍輝を中心にいわきFCの攻撃を身体を張って防ぎ続け、両軍スコアレスの時間が続きます。

試合終了間際の後半40分にようやくジャーメイン良がゴールを決めてジュビロが1点リード。残り時間を抑えて勝ちに行こう。そんな後半アディショナルタイムに入った93分、アクシデントが起こります。

吉澤柊選手と三浦龍輝が交錯。

三浦龍輝は頭部を抱えて倒れ込んでしまいました。脳震盪の懸念もあると判断されたため、交代枠5人を使い切っていたジュビロでしたが、八田直樹が緊急登板することになりました。




八田直樹が前回リーグ戦に登板したのは、2021年3月27日、J2リーグ第5節ホームエコパスタジアムでのレノファ山口FC戦でした。

前年2020年、J2を6位でフィニッシュし1年でのJ1復帰を逃したジュビロ。再起をかけた2021年でしたが、開幕から2連敗。スタートダッシュに失敗しました。

その後2連勝で2勝2敗と星を五分に戻して迎えた山口戦でしたが、試合開始早々に2失点。ルキアンが1点を返すものの勝ち越すことはできず敗戦となりました。

第6節アウェイ岡山戦。ゴールを守ったのは八田直樹ではなく三浦龍輝でした。このGK交代に対し、当時の鈴木政一監督は以下のように語っていました。

――三浦龍輝選手の起用の意図を
大神GKコーチとコミュニケーションを取りながら、今週のトレーニングの状況も含めて、うちに今必要なのはGKの安定というのが一つあって、そこが安定しないとバックラインまで響いてしまう可能性もあると。それも含めて今は彼が一番良いだろうということを最終的に決めました。

ジュビロ磐田公式ホームページより

三浦龍輝はジュビロのゴールを守り切り1-0のクリーンシートで勝利。この試合を皮切りに、正GKは三浦龍輝となり、この年のJ2優勝に大きく貢献しました。

2021年のスタートダッシュ失敗は、決して八田直樹一人のせいでは無いと思います。

しかし、三浦龍輝に交代後のジュビロは勝利を重ねて敗戦はモンテディオ山形戦の2敗のみでJ2優勝へ駆け上がりました。その結果もあって、八田直樹が再びリーグ戦で先発することはありませんでした。




八田直樹の存在は、単なるベテラン選手ではなく、ジュビロにとって特別なものに感じます。

私のnoteでも以前紹介したのですが、八田直樹の人となりが溢れたエピソードとして大好きなのが、昨年2022年12月17日にジュビロ磐田公式YouTubeチャンネルに公開された【DREAMS】#7 古川陽介です。

静岡学園の10番。そして、その華麗なドリブルで全国的にも名を轟かせてジュビロ磐田に入団した古川陽介でしたが、ルーキーイヤーの2022年はプロの壁にぶつかり、試合に出られない日が続きました。

プレーの選択肢を増やさねばプロでは通用しない状況に対し、抵抗感や戸惑いを感じていた古川陽介。

でもそんな時、八田直樹は古川陽介に声掛けをし、一緒にジムでトレーニングしてくれた事で助けられたことを語っています。

八田直樹は19年という長いキャリアではありますが、川口能活カミンスキーなどが絶対的守護神として君臨した時期には、長く正GKの座を譲っていました。それだけに、試合に出られない選手の気持ちを誰よりも知っているだろうし、練習への取り組みなど、模範になる選手・精神的支柱でありつづけたのだと思います。




あの山口戦から約2年4か月が経ちました。

いわきグリーンフィールドで、三浦龍輝が頭部に選手との交錯で衝撃を受けるという大ピンチ。

その状況を救うために立ち上がったのは、奇しくも2021年に正GKの座を譲った八田直樹でした。そこに因縁めいたものを感じたのは私だけでしょうか?

一旦は「おれはまだやれる」というそぶりを見せた三浦龍輝でしたがメディカルスタッフに静止されます。八田直樹と二言三言会話し、ピッチから下がりました。

八田直樹はジュビロのゴールマウスの前に立ち、大きなゴールキックで試合を再開。残り時間は数分ではありましたが、しっかりと時間を使い、ジュビロの勝利に繋げました。

試合終了後の八田直樹のインタビューです。

――後半アディショナルタイムから急遽ピッチに立ちました。今季公式戦初出場について
試合勘は全くなかったですが、やるしかないと思っていました。勝っている状況でしたし、色々な経験をしてきているから、割り切ってバタバタせずにドンと構えればいいかなと思っていました。みんなの方が心配してくれていたと思います。(笑)自分では大丈夫と言い聞かせて、みんなにも大丈夫と伝えて。

――試合をベンチから戦況を見つめていて
相手にシュートをたくさん打たれた中でも粘り強く戦えるようになっています。良いゲームかどうかは分かりませんが、泥臭く勝点3を拾えるということは今後に繋がると思います。自分自身久しぶりにベンチに入って、改めてしっかり準備しなくてはいけないなと。準備しているからこそ、自信を持ってピッチに立てると思うので、これからも準備し続けたいと思います。本当にチームメイトに感謝です。(三浦)龍輝のパフォーマンスが素晴らしいので、置いていかれないようにこれからもしっかり準備していきます。

ジュビロ磐田公式ホームページより

幾多のピンチをくぐり抜けてきた経験。そして更なる準備が必要であること。ライバルでもある三浦龍輝へのリスペクト。

久しぶりに聞けた八田直樹のコメントは、
「他者に優しく、自分に厳しく」
という八田直樹の人となりが滲み出る彼らしい言葉で綴られていました。

チームメイトとして長い付き合いの小川大貴は以下のように語っています。

――チーム全員で掴んだ勝利だったと思います
本当におっしゃる通りだと思います。最後のあの場面でハチ君(八田)がピッチに入って、安定して残りの時間を過ごしてゲームを終わらせるところだったり、僕は交代してベンチに下がっていましたけど、グッと来るものが個人的にはありました。

ジュビロ磐田公式ホームページより

やはりチームメイトも八田直樹の緊急登板で試合を勝利で締めたことに対し、感慨深い思いがあったことが判ります。


三浦龍輝、梶川裕嗣、八田直樹。

ジュビロ磐田の3人のGKで、現実的に再び八田直樹が正GKをつかみ取るのはかなり厳しいと思います。

しかし、この3人が切磋琢磨すると同時に、八田直樹がフィールドプレーヤー、特に若手選手にその背中を見せ続けることはジュビロ磐田にとって大きな財産なのかもしれません。


八田直樹が登板したいわきFC戦の勝利は、忘れられない一戦となりました。


最後までお読みいただきありがとうございました。
ジュビロ磐田と八田直樹のファン・サポーターに歓喜が訪れることを願って。





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