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時間の欠乏のアリジゴクから抜け出す方法を思いついた|『いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学』(早川書房)

前々から締切に追われまくる生活は、借金取りに追われまくる生活によく似ているなと思っていた。実際に借金取りに追われたことはないので小説やドラマから想像するイメージでしかないけれど。

締切が近づいてくると心臓の鼓動が早くなり、ドキドキして何をしていても上の空になる。ガンガンとドアをノックされて脅迫されているような気がする。複数の借金取りに追われているから、期日の早いものから必死で返していく。借金を返すために、また別のところから借金をする。すぐに返せばそこまで膨らまなかったのに、そうやって目の前の別の借金を返し続けているうちに、延び延びになり、気づいたときには巨大な借金になっている。

もうずっとこんな生活をどうにかしたいと思っていた。仕事があるのは感謝しなきゃとよく言われるけれど、生きた心地もせずに毎日走り続けている日々は、体にも精神にもきっと悪い。じゃあ、仕事を受けなきゃいいのに、とも言われる。受けないようにはしている。でも一度受けてレギュラー案件になったり、他に書ける人がいなくて月に1本だけと頼まれて引き受けたらなぜか月4本になってしまったり、半年に1回くらい「やってみたいかも」と思えて引き受けちゃったり。ものすごく心を律して増やさないようにしているのに、じわじわ増えてくる。そして断らなきゃと思い続けている生活もしんどい。

友人や知人からの誘いを断るのもしんどい。もうわたしを誘わないでくれ、放っておいてくれと思ってしまう。そんな自分が嫌になる。

なぜしんどいのか。この本を読んでわかった。

『いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学』(早川書房)

貧乏だったり借金取りに追われたりするのはお金の欠乏状態だ。そして、締切に追われているわたしは「時間」が欠乏している状態だ。欠乏は単に足りないというだけではない。お金や時間は生きるために必要だから、欠乏していると、常にその問題にとらわれることになる。何をするにも「やりくり」を考えなくてはいけないし、我慢したり心配したりしなくてはならない。

充分にお金があれば、1200円のケーキセットを食べるか我慢するか悩まなくて済む(そして充分に運動してカロリーを消費していれば、今日の摂取していいカロリーを考えて食べるか我慢するか悩まなくて済む)。

充分に時間があれば、心に余裕をもっていろいろなことができる。ちょっと寄り道することもできるし、人の誘いを断って罪悪感に落ち込まなくても済む。

貧しい人は、ひっきりなしに生まれるお金の心配と闘わなくてはならない。多忙な人は、ひっきりなしに生まれる時間の心配と闘わなくてはならない。欠乏はまずまちがいなく、ほかのあらゆる心配のうえにさらなる負担を加える。そしてまずまちがいなく、つねに処理能力に不可をかける。

『いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学』(早川書房)

この本にはいろいろな実験が紹介されている。欠乏状態の人の脳には負荷がかかり能力が落ちる。欠乏にとらわれているせいで、すべての処理速度が落ちてしまうのだ。そうなるとますます作業に時間がかかるようになり、ますます時間は欠乏する。負のスパイラルが起こる。

ああこれ、まさにわたしのことだ、と、この本を読みながら、ぞっとした。まるで、もがけばもがくほど落ちていくアリジゴクの巣みたいだ。抜け出したい。どうしたらいいのかを、お金にたとえて考えてみた。

①節約
少しずつ節約してやりくりする生活は、結局、何をするにも常にお金にとらわれている状態になってしまうので、わたしには、あまり心地よくない(節約自体が好きな人はいいけど)。これを時間にあてはめると、スケジュールのやりくりだ。これは、現状、手帳にちまちま執筆時間の予定を記してがんばっているが、もう限界までやりくりしている。余地はない。無理。

②固定費を削る
家賃の安い家に引っ越すとか、スマホを安い会社に変えて通信料を安くするとか。これは一度やってしまえば、あとは意識しないで済むから、有効な方法だ。時間にあてはめると、大きなレギュラー仕事をやめるということ。これは去年決断した。予備校講師をやめた。週2回の授業がなくなり、今年は何だか人間らしい生活ができている。しかし他は削れない。ずっと任せてもらっていて愛着のある仕事ばかり。(予備校講師の仕事も、仕事には愛着があったけれど、組織のシステム的にどれだけやっても能力を報酬額として正当に評価してもらえないと感じたので、もうわたしがやらなくてもいいなと思ったのでした。)

③収入を増やす
お金の場合、わたしはこれが一番良い方法だった。仕事をするといろんな人に出会えて楽しいこともたくさんあるし、自分も成長できるし、人に喜んでもらうこともできる。残りのお金をやりくりするより、増やす方が楽しい。

じゃあ、これを時間にあてはめるとどうなるのかが難しい。だって、時間は誰でも1日24時間。増やしたりできないし。

しばらく悩んで、わかった。仕事を短い時間でできるようになれば、時間を「稼ぐ」ことができる。これっていいことだらけだ。時間が増えるだけじゃない。どうやったら製作期間を縮められるかを考えて試行錯誤していくことは、いつもの仕事に少し負荷がかかるから、トレーニングにもなり、腕を磨くことにもつながる。きっとクオリティも上がっていく。そして鍛えていけば、さらに短い時間でできるようになって、どんどん時間は増えていく。

仕事を断って時間を節約する作戦は、そこで行き止まりというか、断るのをやめたとたんにもとに戻ってしまうけれど、1つ1つの仕事の制作時間を意識して自分を鍛えていく方法は、やればやるほど、より時間を増やせるようになっていく。

この本には、欠乏の良い面についても書いてあった。「集中ボーナス」と著者らが名付けた効果だ。欠乏すると1点に集中できる。締切まで時間がなくなるとスイッチが入る、あれ。(ただし、そのこと以外は思考から外れてしまうので、いろいろポンコツになり日常生活に不具合が起こるし、脳に負荷も大きい)。

締切に追われまくって書いているうちに、たぶんこの集中ボーナスを使いまくって、わたしの腕は鍛えられていったと思う。だから、忙しすぎる生活が嫌だからって、単に仕事を減らして、1つ1つをだらだらとやっていたら、腕は落ちていくのではないだろうか。

そんなこんなでたどりついたベストアンサーを発表しましょう。

夕飯後に、ジムに行って泳いでサウナして癒されて帰る生活を続けながら、これまでどおりの仕事をこなしていく。

これで夕飯までに仕事を終わらせなくてはならないという強制力が出て、なるべく短い時間で仕上げられるように工夫していくはず。家から離れて、泳いでいたら、仕事を忘れられる。帰ってきたら、もう眠たくて仕事するモードに戻れない。

体力もつくし、メンタルにもよさそうだし、素晴らしい作戦だな。

ツイッターではつぶやいているけれど、8月からジムに通い始めたのです。絶対続かないだろうと思ってたけれど、アップルウォッチとサウナのおかげで楽しく続けられている。人に話しかけられるのが面倒だから、水泳だけにしているのだけど、アップルウォッチが何m泳いだかをカウントしてくれるので、何だかやりがいがあるのです。いやあ、たとえ機械でも見守ってもらうの、大事。あとサウナもライター仲間の堀さんに楽しみ方(※)を教えてもらって以来、好きになったので、もはやサウナをするために泳いでいるという感じ。

持続可能なフリーランス生活をしていくために、40代では、目の前の「稼ぎ」よりも、自分の健康と体力のベース作りと、腕を磨いていきたいなと思う次第であります。あと、旅行とか遊びの予定も入れよう。そうして仕事時間を短くして自分を鍛えよう。遊びの予定を入れるのは何だか後ろめたかったのだけど、これもまた腕を磨くトレーニングの一環と思えば、心置きなく遊べる気がするよ。

※サウナの楽しみ方
サウナのあとに水風呂に入って血管をぎゅーって収縮させて、そのあと外気浴(椅子に座って休憩)すると、血流がざざざーって戻ってくる、その戻ってくる時間こそがサウナの至福のひととき。今まで、熱いのを我慢して、水風呂に入れず終わりにしてたから、サウナの良いところを全然スルーしていたよ。


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