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俺の読書日記1「エンタテインメント法実務」(弘文堂)

エンタテインメント法

この本のはじめに,エンタテインメント法の定義のような意味で,エンタテインメント法とは「多彩なエンタテインメントの各ジャンルを対象とする多様な法分野およびその実務の総称」であると書いてある。もちろん,「エンタテインメント法」というひとつの法律が定められているわけではない。幅広いエンタテインメントの分野で出てくる,あるいは背後に潜むような法律や,そこでおこなわれる必ずしも法律とはいえないような慣習やパワーゲーム的な実務,やりとりなどを,現場の視点を踏まえて書いてあるのがこの本だ。意欲的で,中身も関心の持てる内容だった。

エンタテインメントの分野としては,各章の順番をそのままにいうと,映画・テレビ,音楽,出版・マンガ,ライブイベント,インターネット,美術・写真,ファッション,ゲーム,スポーツといったところが登場する。そして,そこにある法分野として,成文法でよく出てくるのが著作権法だが,そのほかにも意匠法、商標法、不正競争防止法、景表法、独占禁止法、民法、商法、労働法、風営法、その他の各種業法など様々な法律が登場する。成文法でなくても,業界の自主的な規制や慣習,力関係など,様々なものが実務に影響しており,中には法的な整備がおこなわれていない(新しい)エンタテインメント系の分野も存在するなど,なかなかに大変そうな業界である。

国際ツアー

本書では多くの具体的な例も紹介されているが,中でもとりわけ大仕事だと思ったのは,海外アーティストやミュージカルの来日コンサートや来日公演だ。もともとこのようなライブ公演には,舞台設定,チケット販売,観客の規律,消防法・風営法等への対応などややこしい実務があるが,これに海外から人を呼ぶための来日経費やビザ,保険など,細かいところまでを含む複雑な契約があったり,税務,公演の録画や商品化,権利関係の調整など,その後も山ほどこなさなければならない仕事があるだろう。これに今回のコロナ禍のような状況が加わると,公演の中止もありうるだろうし,それに伴うチケットの払い戻しなど,本当に大変そうだし,それを英語でこなさなければならないとなると,ますます骨である。

法と現場との架け橋

上の例はもともと大掛かりで複雑な分野であろうが,その分やりがいのある仕事であり,海外ツアーに限らず,こうしたエンタテインメントの遂行を法的側面からサポートし,分析し解決にあたる仕事も魅力的で楽しそうである。この本は法律事務所の弁護士達によるものだが,エンタテインメント法実務の最も専門的なプレイヤーは弁護士であろう。

本の中で印象に残ったのは,法務アドバイスをおこなう場合,それは法と現場の要請との架け橋であるべきという部分だ。たしかに違法となる余地など,法的にリスクがあればブレーキを踏む必要はあろうが,少しでもリスクがあれば常に許諾に走り,その許諾がとれなければ現場をストップせざるをえない,あるいは許諾を取りにいったばかりに余計に事態を複雑化させるようなこともあるかもしれない。本書は違法のリスクを冒せといっているのではなく,慣習などの知識を踏まえ,現場に寄り添った判断が必要だというようなことをいっている。たしかに法的判断の白黒のみで,その両極端の行動しかとれなくなると,回る現場も回らなくなり,法と実務が反目するというか,主客転倒のようなことになりかねない。俺も知的財産の分野でそんなような仕事をしているが,実務に寄り添った判断,アドバイスというのは大切な視点である。

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