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063 大事をとって大事ない

生きるためにすることが仕事である。
その仕事はなんらか、社会に役立っている。
だから仕事として成り立っている。
しかし、仕事する自身が社会に役立っているという有効感を得るのはおかしなことである。

ここでいう社会は、夫婦、家族、会社、国家、世界などのあらゆる社会である。
その有効感を自身の属する社会での存在意義としている。
自分はこの社会にとって有用な人間であると定義している。
社会が主であり、自身が従の位置である。

仮に自身がやりたくてしている仕事・やらなくてはならない仕事では効力感は発生しない。
よくもわるくも、自分自身に対するただの自己満足と自己不満だけである。
有効感は他者の存在を前提としている。
有効感の度合いとは、その裏にある徒労感の度合いである。

有効感というやりがいを感じるのは、やりたくないことをやっているからである。
自分はやりたくないが、求める人がいるからやっているという苦労感である。
その苦労感があるから、確実に役立っているはずだと考える。
また、その役立った対価が、収入であったり、社会的な地位だと考える。

しかし社会にとって、どんな組織も個人も不要なのである。
少し広い目、長い目でみれば、代わりはいくらでもいる。
仮にいなければ、育てればいいだけである。
社会は、組織や個人を求めてない。
これが社会の尊厳である。

苦労を徒労と言われれば、怒りや焦燥を感じる。
全く無関係に思っているのであれば、なんの感情も発することはない。
そういう深刻な心境になるのであれば図星となる。
すこし冷静なときに、振り返ってみればわかる。
過去の経験を振り返ればわかることでもある。
そこに、恐怖にも似た、大きな「をかし」がある。

社会に喜ばれる仕事は、社会に悲しまれる仕事である。
それがないと社会が回らなくなり、一時的に社会の上に立つような仕事でもある。
その仕事は有用だから在って当然のもとなっていく。
在って当然となれば、重大な価値を感じなくなってしまう。
ついには無価値のように、あって当然、あって自然になっていく。
もともと不自然な仕事だったものがあって自然になる。
今の自然な人間社会はそんな不自然の重なりである。
そこには何人の想像をも絶する肥大した存在価値がある。

大事だと思うのは、それが大事だからではない。
それがではなく、自分自身で決めているだけである。
よくよく心の声を聞けば、そこには本来は小事ではないかという疑念がある。
面倒だがもともとをたどってみる。
そこにはやりたくないことやったという事がただ横たわっているだけである。

その当時その経緯その能力その知識その立場にいれば、だれもが同じ選択をする。
ただそのことを自覚すればいい。
そうすれば、それが大事という呪縛は外れる。
大事の下にいた自分自身を取り戻すことができる。

逆の論理を使えば、小事もないということになる。
万事は中事となる。
中を換言すれば真である。
中事とは真事(まこと)でもある。

まずは万事を自身の下におく。
これで自身により万事の管理、制御が可能な状態となる。
特に社会の常識的価値への従属を避けるためには、反常識的価値を持つ必要がある。
それで常識を常識として制御でき、常識の尊厳が保たれる。
また、何事にもよらない自己尊厳も保たれる。

「大事をとる」といえば、休むこと・大切にすることである。
「とる」とは、なくすことである。
「大事をとる」とは「大事をなくす」ことである。
そうすれば、しっかり休み、大切にすることが出来るのである。

「大事をなくす」とは「大事ない」ことである。
「大事ない」といえば「心配しなくてもいい」という意味である。
大事を減らせば、心配は減り、自分を大切に出来るのである。
すべての大事こそが、そうではないと考える糧なのである

人生の前半の醍醐味は価値観の積み上げにある。
人生の後半の醍醐味はその価値観を崩すところにある。
ただ、それを早くやりすぎてはいけない。
人生の間が持たなくなる。

死ぬ直前にゼロにするのが丁度いいのである。
過去の多くの先人に習えば、人生はほぼ無価値なのである。
ほとんどの人がなにも残していないから今があるのである。
無価値な人生を唯一無価値に戻すための合理がそこにあるのである。

人生が無価値で無いということは、なんらかの価値を残すことである。
それはどんなものであれ未来へ遺恨を残すことである。
すなわち始末が悪いのである。
それでは、それが心配となり死に切れなくもなる。

苦労して積み上げた価値観を壊していく。
まるで落ちていくようである。
それは、仕様が無くやったが、無駄であったと了解していく作業である。
それでやっと滑稽で洒落た人生の最初のオチをつけることができる。


#小さなカタストロフィ
#microcatastrophe

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