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046 馬鹿な願望

社会から見れば私は馬鹿である。
社会の常識からすこし外れたことをする。
あたなから見れば私は馬鹿である。
あなたの常識からすこし外れたことを言動する。

絶対に私は馬鹿である。
客観的に見れば、確実にそう映るはずである。
だから私は「自分は馬鹿である」と考える。
その根拠を充分すぎるほど持っている。

しかし、本当に「自分は馬鹿である」と言い切れるのか。
そう思うことで考えなきゃいけないことを止める理由にしていないか。
いやちがう、このようなわかったような台詞を、はいちゃあいけない。
見方を変えれば、単なるカッコつけでしかないではないか。

大体、いつでも基本となる常識を押さえており、対して外れたことなどしていない。
決してナチュラル(自然)に馬鹿はできない。
それなのに「自分が馬鹿である」と、大袈裟に断言するのは恥ずかしいことである。
いるかどうか不明だが、本物の馬鹿に対して失礼になる。
 
だから正確にいえば「自分は馬鹿である可能性が高い」となる。
でも決して一番ではないが、一部の趣味において多くの人が知らないことを知っている。
それに私は誰も知られないことを知っている。
それは自分自身の歴史についてである。

私は自分のすべてを知ることは出来ないが、だれよりも自分のことを知っている。
私には、だれにもいえない秘密がある。
だから、私は自分について一番知っている。
私が一番自分と関わってきた人間だから当然である。

頭のいい科学者であっても、在る一部の分野でしか優れていることは証明できない。
いやそれだって突き詰めれば無根拠ということを哲学や数学は証明してしまっている。
だから一分野である自分という人間についての知識が一番ならけっして馬鹿とは言えない。
なぜなら私は自分について誰よりも詳しい専門家だからである。

学者馬鹿(世間知らず)ということばに習えば、自分馬鹿となる。
しかし、その「自分とは何か」と知ることが一番難しい。

となればより正確に表現するなら「自分は馬鹿であるかもしれない」となる。
いやそれでもそこにはすでに勝手な方向性(可能性)が入ってしまっている。
その方向性をとれば「自分は馬鹿であると思いたい」ではないか。
こうなると、私の馬鹿さは、ただの願望になってしまう。
そもそも、何を対象にして、なにより自分を馬鹿としているのか。
 
私はあなたのことをほとんど知らない。
それなのに、あたかもあなたより、私は馬鹿であるといえるのだろうか。
そんなこと到底いえない。
科学を持ち出すまでもなく、それを証明するのは原理原則的にいって不可能である。

いや、あなただけ知らないのではない。
正直にいえば、誰一人、正確に知っている人はいない。
だから、人間は比較対照にならない。
人間以外を対象にしている。

人間は社会的な動物である。
その人間の知識の中で重要とされるものは社会に集積される。
そんな社会から知識を引き出し学んでいる。
だから、私は社会より馬鹿なのである。
 
そうとわかれば、私より賢い社会に追従すればいい。
多くのことは社会に考えさせればいい。
馬鹿な素人が考えるより断然、合理的なはずである。
面倒なことを、だんだん考えないようにすれば、本物の馬鹿になれる、というものだ。
そんな無心で生きる姿は、機械のように、美しくも悲しい。

いや、悲しいのは似合わない。
そこまで、しぶい人間でない。
なにより私にとってもっとも重要な知識は社会から出てこない。
だからいくら勉強しようが、いつまで経っても私は自分について無知(馬鹿)なのである。
これでは「あはれ」な人生が、ただの「あわれ」な人生になってしまう。

社会から与えられる知識には社会への善意の意図がある。
それが個人には不自然で押し付けがましく辟易させる時がある。
いくら苦労して覚えた知識だろうが、不要であれば、なにも無かったように消えていく。
まったく頭は正直である。
悲しいかな自分の魂から欲し学んだものしか、生きる力にはならない。

毎日のニュースや学校の勉強や試験の勉強は大変な情報量である。
記憶させては、消去する、記憶させては、消去する、これはなんの訓練だろうか。
必要な知識も間違って消去され、馬鹿にならないようにと願う。
それに未使用の見える脳力はすでに使用済みかもしれない。

なら仕方がないので馬鹿を直そうかとも思う。
しかし、馬鹿は死ななきゃ直らない。
いや、死んで治ったら本当の馬鹿ではない。
本物の馬鹿なら、なにをしても治る筈はない。

なにを変えても変わらないところにあるのが尊厳である。
馬鹿には馬鹿の尊厳がある。
一旦は「自分は馬鹿である」と考えにも尊厳がある。
だから、簡単な話を難しく、難しい話を簡単にしているのだから。


#小さなカタストロフィ
#microcatastrophe

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