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文化を紐解く 金沢ひがし地区「七つ橋渡り」

 金沢市には、浅野川にかかる七つの橋を渡る風習があります。明治ー大正頃から始まったとされ、文献はなく、口伝、行為により伝承されてきました。


「七つ橋渡り」とは

時期:お彼岸の中日(春分、秋分)の午前0時
渡る橋:常磐橋、天神橋、梅の橋、浅野川大橋、中の橋、小橋、昌永橋の順
服装:白い下着、数珠
渡り方:
 1/ 七つの橋を渡り終えるまで無言
 2/ 戻る、振り返り禁止
 3/ 各橋の始めと終わりに合掌
参加後:
 1/ 着用した下着を7日間毎日洗濯
 2/ その後、和紙で包み水引で結ぶ
 3/ 箪笥の奥にしまっておく。

「七つ橋渡り」を紐解く

 文化、風習を理解するためには、なぜその場所で行われるのか、なぜそのような行為が行われるのか、禁忌といった背景や理由を紐解き、本質を探ることで、その地域や人々の生活、価値観を理解することができます。

 七つ橋渡りのキーワードをひとつづつ紐解いていきます。
 キーワードはお彼岸の中日、午前0時、橋、無言、7、合唱、数珠、白い下着、洗濯、和紙、水引、箪笥、ひがし茶屋街

1. なぜお彼岸の中日に行なうのか?

 七つ橋渡りはお彼岸の中日に行います。
 お彼岸は先祖を供養する期間であり、その中でも、中日(春分、秋分)は、昼と夜の長さが等しい日です。昼と夜の長さが等しいこの日は、現世と来世の境界が曖昧になるとされ、想いや祈りが届けやすいとされています。

2. なぜ午前0時に行うのか?

 昼は陽、夜は陰の気が巡るとされ、夜は陰の妖気が強まるとされています。また、この風習が始まった江戸時代は時刻は干支を使用しており、午前0時は「子」は「ふえる」意味が込められていることから、祈りを増幅させる意味、もしくは、新しい日を迎える瞬間に行うことで、過去を清算し、新たなスタートを切る意味もあったのかもしれません。

3. 「橋を渡り、川を越える」という行為

 日本の文化において、橋を渡り川を越えるという行為は非常に象徴的です。川には境界線の役割があり、橋を渡ることで「別の世界へ移行する」という意味が込められています。

神橋
神社や寺院にある橋は神橋と呼ばれ、俗世と神域を分けています。
この橋を渡ることで、神聖な空間に足を踏み入れることができます。

三途の川
仏教の教えの中にある三途の川。三途の川を渡るという概念は、死後の世界への移行を象徴しています。この川に架かる橋を渡ることで、亡者は現世から来世へと旅立ちます。橋を渡る行為は、魂の浄化や再生を意味し、仏教の輪廻転生の思想とも深く結びついています。

4. 数字の「七」

 七福神、初七日、四十九日など。仏教では七の数字が非常に多く関係しています。その理由の一つが、生命に関わる数字が七だからと言われています。
 ニワトリは七日を三回重ねた二十一日でヒナになり、七面鳥は七日を四回重ねた二十八日でヒナになります。さらに私たち人間の妊娠期間は9か月の266日、7日x38週で生まれます。四十九日も、初七日から七日ごとにお裁きを受け、来世の行き先が決まるもっとも重要な日とされています。また、月も朔日(さくげつ)、上弦、満月、下弦と七日ごとに周期で巡っています。

5. 白い下着

 この風習の一説では、白い下着を着用するということから、「下の世話にならないように」ともありますが、少し違うのではないかと考えます。
 日本のお正月には新調した着物や下着などを身につけて初詣に行く「着衣始(きそはじめ)」という風習があります。これは、神聖な儀式となる初詣の前に身体を清め、てから、お詣りする習慣からきています。
 もしかすると、新しい下着を買うことが難しいく、白い=新品として、白い下着と伝えられたのではないかと考えます。

6.数珠

 数珠は念珠(ねんじゅ)とも呼び、 煩悩を消して身心を清浄にし、仏さまへの帰依をあらわす法具で、念仏を唱える時に使用する仏具です。
珠(玉)の数は正式には108珠あり、 その一つ一つが108の煩悩を司る仏様を表しているとされ、常に数珠を持って仏様に手を合わせることで煩悩が消滅し、功徳を得られるともいわれています。

7.合掌

 右左両方を合わせることにより仏の世界と現世が一体となり、成仏を願う気持ちを表しています。 アジア諸国では、敬意を伝えるために合掌をすることがあり、葬儀から日常まで使われています。
 今回は橋に対して、敬意を示していると考えます。

8.無言

 無言で行うのは余計なことに気を取られず、一心に祈りを捧げる意味を持つと考えられます。無言で行う祈りの風習として、「百度参り」や京都祇園の「無言詣り」などもあります。

9. 7日間洗濯

うーーーん。これはなぜだろう。どうしてでしょうか?
洗濯をすることで、洗浄する意味を込めたのだと思います。
初回の洗濯は分かりますが、やはり「七回」というところで縁起を担いだとしか分かりませんでした!

10. 和紙で包み水引で結ぶ

 白い和紙で包むことは外界のけがれと遮断する意味があります。また、水引には3つの意味があるといわれています。1つ目は開封されていないという未開封を保証する意味、2つ目は魔よけの意味、3つ目はひもを引いて結ぶということから人と人を結びつけるという意味です。
 祈願の際に身につけた下着を7日間洗うことで、清浄し、和紙で包み水引で結ぶことにより願い事を成就する御守りに見立てたのではないでしょうか?

そうだとすれば、御守りは願いが成就した暁には、寺院へ返納しますが、今回は自分の持ち物なので、自分に返納すればいいのでしょうか?
ここは現地リサーチがもっと必要ですね!

「七つ橋渡り」の本質を探る

七つ橋渡りが行われている浅野川周辺は、金沢城下町やひがし茶屋街に近く、昔から賑やかで、多くの人々が集まっていました。京都祇園の舞妓さんたちが、誰にも言えない願いごとをするという「無言詣り」にもあるように、金沢の茶屋街でも、芸妓さんたちは誰にも言えない悩みが多く、この願掛けが生まれ、庶民へも広がったのではないかと考えます。

  1. 身体を清め(白い下着を身につける)

  2. 祈りが届きやすい日時を選び(春分、秋分の日の午後12時)

  3. 一心で願いを捧げ(数珠を持ち、七つの橋を無言で渡る)

  4. 御守りとして保管する(七日間洗い、和紙で包み水引で結び保管する)

まとめ

「七つ橋渡り」は、金沢市東山地区の重要な民衆文化です。その動作一つ一つに込められた意味を紐解くことで、当時の人々の信仰や生活習慣、心の内を垣間見ることができます。地域の歴史と深く結びついたこの風習は、現代でもその価値を再認識されるべき貴重な文化財です。単なる観光名所ではなく、人々の心の繋がりを感じられるこの風習の魅力を、金沢を訪れた際にぜひ感じ取っていただければ幸いです。

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