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「イキらず・ハリボたず」。震災・持ち逃げ・コロナ…自分は猪木じゃないと自覚した起業家がたどり着いた経営の話

私は起業1年で経営に失敗して、その時いちど居場所も従業員も顧客も失って、「私なんて経営しない方がいいんじゃないか、私が事業をすることで誰か幸せになるんだろうか」と落ち込み、しばらく六甲山中をさまよったことがある。

恥ずかしいことに、創業10年となる今年の3月も資金繰りでいったん窮地というかほぼ死地に陥って、「私なんて経営しない方が」としばらく顔を上げられなかった時期があった。ほんま、経営にまったく自信がない。

<カラ元気も、元気も、出すけどさ!>

だからね! 今回のトークイベント「経営って、これでいいのだ」は、私がほぼ自分のためにつくった回だった…と、いまレポートを書きながら気がついたよ。

というわけで、私の人生変えちゃったかもしれないトーク、うまく伝えられますようにと思いつつ、力いっぱいレポート書きまっす。



■ りそな藤原さん、ワールド・ワン河野社長を丸裸に。

入社1年目の支店配属初日に「銀行辞めたい」と思い、いやそんな覚悟できたならいっそ銀行を変えようと決意し、りそなショックがいわば追い風になり…といいつつも、実際には組織内ほぼ孤軍奮闘(予算ゼロ)で約20年、地域共創モデル「REENAL(リーナル)」を続けてきた藤原明さん。(※もっと詳しい紹介はこちら

昨年ついに、そんなREENALをサービスの軸とする従業員14人のみらいリーナルパートナーズ株式会社ができ、またりそな銀行にも16人のメンバーを抱えるようになった。本当に銀行を変えちゃった人。

<AERA認定「日本を突破する100人」藤原さん。ホットな情熱とクールな分析力がすごい>

そんな藤原さんが「おもしろい」「いや、すごいです」「感動しました!」と言いながら、20年間リーナルで磨き抜いた凄腕で株式会社ワールド・ワン代表 河野圭一さんを丸裸にしていく。だって河野さんの人生ダイジェストからして、やばいんだもん。見てこれ↓

<とくに4行目!>

さあ、試合開始のゴングだ! カーン!!


■イキって、ハリボテった、経営者前半生。

 ●たまたま生きていた。それが、すべての原点

河野さんが神戸の中心・三宮で、飲食店の店長になったのは19歳。初めて人に認められ、店を任され、頑張っていたところに阪神・淡路大震災が起こる。そのとき河野さんはまだ店にいた。何が起こったかわからなかった。必死で店から脱出した。

人間って死ぬ時は死ぬんやなということと、そして自分はたまたま生きていたんやということを、強烈に感じました。…やっぱりそれが、すべての原点です。

震災3か月後。河野さんはスタッフと共に(神戸の震災なんて関係なく)キラキラ輝く大阪ミナミに打って出て、店を出した。それがうまくいった。すごくうまくいった。うまくいけばいくほど、「イキってもうた」。20代半ば、六本木にも出店し、ミナミの街をベンツで走っていた。

ただその奥底には、被災者として苦労した反動があったと、振り返って、そう思う。


●ハッタリ創作料理で大成功。でも半年で客足ゼロに

次は、キタに飲食店を出すことに。元有名料理店に勤務していたという若手をもちあげ、「”フレンチと和食の融合”とか言うて、…もうハッタリ創作料理です」、でも水槽が並ぶおしゃれな店舗。(←本当に河野さん、店舗づくりは天才的なセンスがある) するとテレビ取材も入り、店は大繁盛。

ハリボテったり”かます”と、人がくるんです。でもやっぱりウソはばれるというか…」 気づくと半年後、客はゼロになっていた。さらに従業員による持ち逃げという追い打ちが続く。

この「調子乗った」が、教訓になってますね。なので社員にも「ハリボテあかん、イキったらあかん」と言い続けてます。


●再び飲食店、株式上場を目指すも、コロナで「また来たわ」

小さい頃からプロレスマニアで、小学生のときに校内プロレス団体もつくったことがあった河野さん。大阪の店が閉店となった後、当時通っていた空手道場で誘われてプロレスラーになり、メキシコで修業し、全国を巡業する。(※詳しくは、前回の投稿を参照

<実はプロレスファンの藤原さん、現役時代の画像をガン見>

引退後、思い出したのは、全国巡業中に各地方の居酒屋で食べた郷土料理、それを楽しそうに囲む人々の姿だった。やっぱり飲食店をやりたいと、約20年前に三宮に沖縄料理店を出店。地域連携の新しいかたちは大成功し、神戸・大阪・東京・高知・青森と30店舗以上の飲食店チェーンを展開するなど、グループは急成長。株式上場にもロックオン!

<「あら、りんご。」とか生ドーナツとかクラフトビールも>


そんな上り調子のなか訪れたのが、コロナ禍。社員はもちろん、つながっている地域の人たちを背負う立場になったのに、どうにもならない。最初はすぐ終わると言われていたのに、気づけば第8波、3年間に及んだ。

思い出したのは、阪神・淡路大震災。個人でいくら努力していても、ある日突然、どうにもならないことがある。「また来たわ」 気が動転するなか、「会社は潰せない」「なんとか逃げんとこ」と踏ん張った。いや、社員が一致団結して支えてくれた。「お弁当やったり…あまりうまくいかなかったですけど(笑)」 新業態にも挑戦しながら長いトンネルを抜け、いま再発進したところだ。


■”儲かるから”とかじゃない、ってほんと? ー「迷わず行けよ、行けばわかるさ」    

さて、私からの質問。えっと、私はわりと他社さんの新規事業構築とか経営戦略策定とかにかかわるのですが、ワールドワンさんって、戦略がぜんぜん見えないんですよね。
聞いた話によると、社員がつないだ地域を徹底的に訪れて知り、その自治体とも連携をしながら、店舗を出していく。それだけ。
……いやいや! マーケット分析とかほら、あるじゃん! 4P分析とか(←やんないけど)! あと事業を属人化しないとか、セオリー、あるじゃないですか。

アホなんで、そんなこと言われても困るんですけど……。だって目の前にその地域の人がおると、ええかげんなことでけへんでしょ。そんで実際にその土地に行ってみたら、もうリンゴのことしか考えんと必死にやってる農家さんとかがおるわけですよ。そしたら、どないしたらええかって、やっぱりこっちも必死で考えますよね。
そんなかんじで、『儲かるから』とかじゃなくて、その輪がだんだんと広がってきたというか。

えーーー。そんなんで、本当にこんないいかんじでまわるの??? ほんまは裏に戦略とか、あるんちゃう?? 社員さん、どうなの? 

<右、奇しくも元銀行マンから転身した松波取締役>

▶松波さん(鳥取出身→「山陰・隠岐の島ワールド」のきっかけ):
「いやもう本当にその通りですよ。社長と社員の『地域をなんとかしたい』という思いで、会社全体が目指しているものに対してブレずに進んでいるのは、すごく感じますね」

▶古里さん(青森出身→「青森ねぶたワールド」「あら、りんご。」のきっかけ。現在ほぼ青森の奥入瀬で勤務):
「自分もですけど、地方の人って、故郷に対する思い入れがすごく強いじゃないですか。でもアイディアがないからできない。そこを一緒にしようと」

うーむなんか本当らしい。



■大事なのは、自分が猪木とはちゃうと知ること。

でも河野さんは、従業員に持ち逃げされたりした過去があった。従業員を信じること、ひとを信じることが、怖くならない?

なんていうか…常に「強くて豪快な自分」と「ヘタレな自分」の両方がいるかんじです。もちろん、お金を盗まれてガーッと落ち込むけど、何かの機会にパッと忘れる。コロナでもかなり落ち込みましたけど、「なにくそ!」と頑張って、それでもぜんぜんコロナ終わらへんからまた落ち込んで、でもなんとかまた起き上がって。

懲りない部分があるんでしょうね、アホなんで。でもやっぱり震災で「人間って死ぬ時は死ぬ」「たまたま生きていた」と感じたことが、「まぁもう、やれることやるしかしゃーない」と、良いように作用してるんかなと思います。

「社長」ってリーダーやから、そういう弱いところを見せるのも、セオリー的にどうなのだろう? って思うんやけど…

その「社長」っていうのが、危ない。イキってまうでしょ。自分も大阪のとき、それまで単なる店長でスタッフとも友達的な関係やったのが、銀行からお金借りて「社長」ってなった瞬間に「なんやお前、俺は社長やぞ」(笑)って、イキってもた。
あと、横文字とか、”先生”って呼ばれはじめたりすると、すぐイキってまうひと多いでしょ。服装とかも変わってきたりしてね。

もちろん、世の中にはそうやってイキきれる人もいっぱいおると思うんです。でも、自分は猪木とはちゃうんで。それをわかるのが、大事なことやと思うんです。だから、自分はですよ、そうやってイキらん方がええな、って。その方が、結果的に楽でもありますし。


あああ、わかる。私にはいまきっと、余計な「イキり」がいっぱいある。「ソーシャル・イキり」とか「地域貢献・イキり」とか、「イノベーション・イキり」とか。「官民複業・イキり」も、あったかもしれない。

きっと、それらの「余計なイキり」はすべて、自分を苦しめることになる。経営苦手だという前に、「余計なイキり」をすべて捨てて、経営に専念していただろうか? 経営者である自分にうっとりしたりしていなかっただろうか。

そんな中途半端な経営で、うまくいくわけない。猪木じゃないんだから(いや、猪木ですら、本気でプロレスやってたはずだ)。自分に闘魂注入ビンタだ!!


■ 悪戦苦闘から生まれた、覚悟・自戒・本質追求スタイル。

ぜんぶ、自分の失敗からですね。だから会社でもずっと言ってます。「イキったお店や会社しない、自分もイキらない」。あと「ハリボテにしない…ハリボタない」、情熱で中身をしっかり埋める。それと「ベタニッチ」。格好つけたりとか、自己満足にならないようにする。

下手でも愚直にやっていこうって決めて、社員にも言い続けてます。

藤原さんが、大きくうなずく。「本当にこれまで何百社も見てきていますけど、経営はそれぞれのやり方があります。でも、これだけは共通して言えるのは、経営がうまく行っている人は、全員本気だということ。本気かどうか、ハリボテかどうかは、すぐわかります」

ドキ。

そして藤原さんが、企業分析の際に使う「心技体」で、河野社長の経営を解説。なぜだ! お酒を飲んだとは思えない切れ味!!

<数日前にワールドワン新人社員研修で酒造り勉強に訪れた櫻正宗さんを飲みながら>

●「河野社長は、ターニングポイントの度に、『技』を出してはりますよね。ピンチの時には、使えるもの、リソースを全部使い切る。そのために、技がいるんです。それが”いきらない” ”張りぼたない””ベタニッチ”というキーワードと、 人を基点にした出店基準。人を中心にやっていったら、良い店になることが、経験からわかってはるんですね」

●「次に、『心』です。心の部分は折れない。いま”日本の食文化で豊かな未来を創造する”ということ、 消費者、従業員、生産者の絆を深めることに、グループ一丸で進んでいることが、社員さんの話からも伝わってきました。何か持っている人は、ここがブレないんです。だから社員の人もそれに共鳴して、自発的に動いている」

●「『体』は、やっぱり阪神・淡路大震災の経験、大阪での体験、プロレスラーのデビューから全国の郷土料理を体験したこと、さらに新型コロナの経験…すべてに嘘なく向き合ってきてはる」

「河野社長の話を聞いていて、”悪戦苦闘モデル”という言葉が頭に浮かんでいるんです。いわば、”溺れながら泳ぐ”、苦労も含めた経験から組み合わせてできたものだから、強いんですね」


経営って、どこかに「答え」とか「うまいやり方」があるのかと思ってた。だけど、逃げずにまっすぐに向かい合っていくしか、道はないんだよなぁ。そしてその道は、それぞれなんだ。自分の苦労、自分の失敗を、自分の道にしていくしかないんだ。逃げるな、オレ。

というわけで、今回はみんなで今日のキーワードを唱和して、お開きとなりました。さん、ハイ、

「イキらず」「ハリボたず」!


<プロレスのアイアンクローのポーズでね!>


▶次回はアンサーソング!

経営学者が、ヘタレ起業家・湯川カナに聞く10の質問「経営って、これでいいのか!?」でっす。」

会社をやれば倒産させかけるし、結婚したら離婚する。組織経営が苦手だと公言し、「弱みを軸とした組織作り」(TEDex神戸)や「他力資本主義宣言」(徳間書店)を経て、実際にフリーランス・コミュニティとしての企業経営に取り組んでいる湯川カナ。関西における女性活躍を研究する大学の先生から、気になる10の質問をぶつけられながら、失敗も悩みもぜんぶさらけだします。いつもホストの湯川を、今回はゲストの立場として、というか酒の肴として、昼から飲みながら語りましょう!

2023年10月21日(土) 14:00-16:00
ひょうご五国ワールド(三宮駅徒歩3分)にて

詳細・お申込はコチラから

※第6回「勝負する、って、これでいいのだ。」も同時に申し込み開始!
元サッカー日本代表監督オシム氏や稲盛和夫氏が惚れたGM・祖母井秀隆さん×初代女流最高位麻雀プロ「ヨーコ会長」・渡辺洋香さん。初対面のふたりが、「勝負」について語ります。

<ゲストもお互いにサッカーも麻雀も知らないので、予備知識ゼロで大歓迎!>

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