浅草芸人列伝 　この芸人はスゴイ！ 〜小池百合子

漫才協会のメンバーを勝手にご紹介している連載「浅草芸人列伝 　この芸人はスゴイ！ 」。 今回は特別編として小池百合子都知事を取り上げたいと思います。

先日の都知事選で圧勝した小池さん。 「なぜ圧勝したのか分からない」という意見も多いですが、「政治家・小池百合子」ではなく「芸人・小池百合子」の実力で勝った。 と考えると腑に落ちる部分があるかも知れません。

そこで漫才協会所属の芸人である、わたくし金谷ヒデユキが、小池さんの芸人としての実力を分析してみたいと思います。

「芸人・小池百合子」の実力

受け答えの上手さ

まず注目したいのは、受け答えの上手さ。
笑いの神様「欽ちゃん」こと萩本欽一さんの著書によく出てくる言葉。 それは「会話はズラさなきゃダメだよ～」です。

例えば「君、うどんは好きですか？ 」と聞かれて「はい、好きです」と答えると「ダメだよ～、それじゃ会話終わっちゃうよ～」と怒られます。 「そうじゃないのズラすのよ～」

「君、うどんは好きなの？ 」「はい、パンは好きです」「いや、パンの事は聞いてないの。 うどんの事聞いてるの」「あー、メロンも好きですね」「メロン関係ないでしょ」「てことは一番好きなのはメロンパンかな」「だーかーらー、うどんはどうなの！ 」「そうカリカリしないでくださいよ。 メロンパンみたいに」「またメロンパン！ 」

欽ちゃんいわく「こ～すると会話が続いて楽しいでしょ」。
この教えをしっかり守ってるのが小池さん。

当選後に行われたインタビューで、池上彰氏の「これから4年間任期を全うされるおつもりなんでしょうね？ 」という質問に対して「あの、今日改めて都知事に選んでいただいたばかりでございます。 しっかりと都知事の仕事を重ねていきたいと考えております」。二択の質問にイエス・ノーで答えない。 答えをズラす。

もういちど池上氏が「4年間の任期を全うされると、約束されますか？ 」と聞くと「自分自身の健康をしっかり守っていきたいと考えております」とまたズラす。 欽ちゃんの教えをしっかり守る優等生です。

フリとオチ

続いてフリとオチ。分かりやすく言うと「吉本新喜劇」の名物、乳首ドリル。「ドリルせーへんのかーい」です。 やると見せかけてやらない。 やらないと見せかけてやる。 これも小池さんの得意技。

「豊洲行く思たら行かへん言うてやっぱ築地に戻す言うたら戻さへんで両方生かす言うたらやっぱ豊洲行くんかーい！ 築地来－へんのかーい！ 」フリオチがしっかり効いてます。

「7つのゼロやる言うてせーへんのかーい！ 」「山手線の電車二階建てにする言うてせーへんのかーい！ 」すべてフリオチ。

持ちネタ

そして持ちネタ。 持ちネタはもちろん「フリップ芸」。
記者会見でのフリップの見せ方。 これも上手い。「IPPONグランプリ」などを見てても分かると思うんですが、フリップ出すタイミングとか見せ方って大事です。 小池さん、一番見やすい出し方してます。

「東京大改革2.0」とか「東京アラート」とかスベる事もあるけど、「ステイホーム」とか「ステイ東京」とか「夜の街」とか、とにかく手数が多い。 ピンの時の霜降り明星粗品のフリップ芸くらい手数が多い。 スベった事に気づかせる前に次のフリップ。手数の多さでスベりをごまかす。高等技術です。

立ち回り

「女帝小池百合子」を読んだら、小池百合子の立ち回りの見事さに舌を巻きました。 日本新党旗揚げの時は細川護熙にすり寄り、利用価値がなくなると小沢一郎に乗り換え自由党へ。 次には小泉純一郎にすり寄り環境大臣に就任。

まるで大物ＭＣのふところに入り込み立場を上げていくひな壇芸人のよう。

セルフプロデュース能力

これが一番スゴイ。 元々ニュースキャスター出身だけに声も聞きやすい。 コロナで不安な人々に対してソフトな口調で語り掛ける。 表情も口角を上げて印象を良くする技も使う。 アシスタントをつとめた「竹村健一の世相講談」で竹村氏から言われた言葉「テレビは何を言うかやないんや、視聴者は、そんなことよりネクタイがどうだ、とか、髪がはねているとか、そういうところを気にするんや」。その教えをしっかり守ってます。

選挙戦でもSNSを駆使、YouTubeでは「港区のみなさん」「足立区のみなさん」「小笠原のみなさん」とおだやかな口調で個別に語り掛け、インスタライブでは質問に答えて親しみやすさをアピール。

衣装にも細心の注意を払い、コロナ対策の時は作業着、当選後のインタビューでは「緑の葉っぱに書かれた都民の声」をバックに白のスーツ。

見栄え重視、インスタ映えもバッチリ。

これはホントにアンチ小池派の人々も見習った方がいいのかも知れません。視聴者のみなさんには「ちょっと上品な上沼恵美子」に映ってる気がします。

ここまで「受け答え」「フリとオチ」「持ちネタ」「立ち回り」「自己プロデュース能力」と見てみましたが、すべてが完璧。 芸人としての小池さんは100点満点。 相当な実力者です。

ただトップを走る芸人、とくに爽やかで好感度の高い芸人ほど、たった一度のスキャンダルで内面が暴かれ、表舞台から消えてしまうのも昨今の流れ。 当選後のインタビューで、小池さんの笑顔の裏にある本性がチラッとかいまみられる場面に遭遇しました。

東京MXテレビの選挙特番を見ていた時の事。 「都民のみなさんの声として、なぜ分かりにくいカタカナを使うのですか？ という疑問を頂いたのですが、お答えいただけますか？ 」というメインMC平井理央アナウンサーの問いかけに対し、若干表情を曇らせながら返した都知事の言葉。耳に付けたイヤホンを触りながら「MXさん、声が割れて聞こえませーん」「割れてまーす」「聞こえませーん」と繰り返す都知事。怯える平井理央。 見てて戦慄が走った。

その後親交のある様子の政治ジャーナリスト、鈴木哲夫氏に代わると「鈴木さんの声は割れていません。 よく聞こえます」露骨。

とにもかくにも芸人的には実力者の小池さん。次のクールも東京都のメインMCをつとめます。ただし実力があるだけに東京ローカルじゃモノ足らず、全国ネットを狙いに行くかも知れません。要注目！

★金谷ヒデユキ

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