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人にやさしく、自分にはもっとやさしく

新任刑務官に教えること

刑務所と少年院で27年勤務してきて痛感するのは、彼らは他人を自分にとって、「役に立つ」か「役に立たないか」で判断することです。
当然、刑務所の中は犯罪者ばかりなので、お互いに疑心暗鬼です。
利用できるかできないか、職員に対してもそうで、「この職員は利用できるかどうか」で対応を分けます。
だから、新任職員に対しての指導は、「嫌われるような態度をとる」ことを一番に教えます。
そうすることで、利用できない職員として認知させるのです。
具体的には、願い事については、「3回断れ」と言ってます。3回を超えて願い出るようであれば本当に困っているだろうと推測できるからです。
そのくらいの心構えで、やっと「ちゃんとした刑務官」になります。
親切な職員はだいたい最初の1年でいろいろと付け込まれて心を病むか、「俺は懲役の召使じゃねぇ!」などと逆切れして辞職します。

叱られっぱなしの人生

原因はいろいろあるのでしょうが、特に少年院で感じたのは、ほとんどの少年が他人から大事にされたことがないということです。
私が少年院にいた時期は、ちょうど2000年の西鉄バスジャックの頃で、少年院が過剰収容になっていた時期で、子供たちが荒れていた時代です。
そんな時代でも、少年院に入るのはかなり高い倍率の大学に入るより困難なことです。
具体的には説明すると、こんな感じです。地元で大人の言うことを聞かない悪ガキは、近所の鼻つまみ者です。教師や大人たちからも悪く言われます。
そんなことが続くと、いずれは警察に突き出されます。しかし、子供ですから本人と親への指導ということで帰されます。
そんなことが何回も続いて、次は鑑別所です。
健全育成を旨とする家庭裁判所は、できる限り少年を社会で立ち直らせようと努力しますので、説諭や保護観察を付けます。
そんな状況が何度か続いて、やっと少年院に入所するのです。
この間に、本人は全く褒められません。叱られっぱなしの人生です。

生きていくのに必要なもの

まぁ、本人が悪いことをしていのだから当然ですが、起こした騒動にばかり目が行くので、大人としては褒めようがないのです。
「なぜこんなことになったのか」を考えた時に、親を責めるか本人を責めるかしかないのですからどっちかを叱るしかないのです。で、どっちも責めて、責められた親は子供を叱り上げます。
そんな育ち方をすれば、当然、叱られたくない。責められたくない。と考えるので、生きていくためにもう疑心暗鬼ですよ。
そのためにこの人間は、「利用できるか」「利用できないか」の二択になるのは当たり前と言えば当たり前なんです。
少年院がわかりやすいので例にとりましたが、刑務所も同じようなもんです。
あ、刑務所の方は「金になるか、ならないか」という価値基準もありますが、職員は関係ないのであまり問題になりません。というか、あえて言うこともないでしょう。

やさしさに意味が必要なのか

そんな殺伐とした職場で生きてきたのだけれども、今思えばいい勉強になりました。ありがとうございました。
で、豊後高田市という田舎に3年前に移住してからなのですが、やっぱり、自分はおかしいと気が付くのです。
染み付いてるのでしょうね。ものの見方が受刑者と同じで、人を「利用できるか、できないか」で見てたことに最近気が付きました。
「やさしく」することや「やさしく」されることに、いちいち意味をつけてるのに気が付いたのです。
気が付いたのは、他人が自分を利用しているのではないかという疑心暗鬼の反対側で、自分が人に親切にする時に、いつでも見返りを求めていることの投影だったことに気が付いたのです。
うーん。最低。
つまり、やさしい人というのが信じられないのです。こりゃ重症じゃん。

返せない借り

気が付いた原因はすごく簡単なことです。
ここ国東半島に引っ越してきてから、とにかく気持ちがいい。
いつでも海が見えるし、山も近い。星もきれいだし、水もうまい。
人はやさしくしてくれるし、子供たちは面白がってくれる。
で、どこからも誰からも借りを返せとは言われない。責められない、怒られない。それどころか褒められたりする。
いいのかしらこんな人生で。調子に乗っちゃうよ。
どっちにしてもこれだけの借りは返せませんし、もう返しません。
そんなことを考えているときにこの言葉に出会ったのです。

「人にやさしく、自分にはもっとやさしく」

ああ、それで良かったんだ。

もらっときなさい

誤解されてもしかたないのだけれど、なんだか最近の世の中が殺伐としていて、ここから見ていると、皆さん刑務所の中の人みたいに見えますよ。
大丈夫ですか?
たまに田舎に来てみたらいいですよ。
ないものを数えればきりがないですが、それって、全部あなたが何かを犠牲にして勝ち取らなければ得られなかったものでしょ。
ここにあるものは、もう何千年も何万年も前からずーっとあるものです。
あなたが受け取ろうと思えば、いつだって、どこにいたって、平等に与えられて対価を求められることのないものです。
人間だけではなくて、生きとおし生きるもの全てに与えられているのに、あなたは受け取ろうとしない。
手に入らない、もらえない、足りない、人より少ない・・・・まぁ勝手なものです。欲ですね。
あなたが変われば、努力しなくてもこの世界には、もらえるものがたくさんあります。
長く生きても100年です。もっと自分にやさしくしてあげましょう。
で、もらえるものはもらっといたほうがいいですよ。
というお話でした。

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