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インタビュー編: 兼業システムトレーダーのためのビギナーズガイド - Kory Hoang Part 2/2

前回のインタビュー動画[インタビュー編: 兼業システムトレーダーのためのビギナーズガイド - Kory Hoang Part 1/2]では、全部書こうとすると文字数が多すぎるのではないかという懸念で二部に分けました。

今回は後半の説明をしたいと思います。

インタビュー内容

どれくらいのシステムまたは戦略を稼働させておりますか?

私は今2つのシステムを稼働させております。一つ目は、双眼鏡で、二つ目はライフルです。

一つ目では市場を調査して、アノマリーを見つけております。これを価格アノマリー検知アルゴリズムを私は呼んでいます。具体的には、上場銘柄全部に対して、価格が平均回帰性を持つのか、それともモメンタムやトレンドが維持されているのか等について検知します。このアルゴリズムはどの銘柄がランダムウォークしているのかを発見するのにも役立っています。私はランダムウォークする銘柄は取引しませんが、マーケットを理解するのに役立てています。私のアルゴリズムによると市場の95%~96%の銘柄はランダムウォークで、それらはランダムなので、他の市場参加者から優位性を得ることが出来ません。なので、中々勝てないのです。しかし、残り5%は確実なトレンドだったりアノマリーが存在します。

銘柄が双眼鏡によって絞られたら、次はライフルの出番です。ここで、アノマリーがある銘柄に対して狙いを定めポジションを取ります。獲物を狩るように(笑)

あなたは先ほどフレームワークと仰っておりましたが、もう少し詳しく教えていただいてもよろしいですか?

3年と半年の間で私がトレーディングで学んだことは市場は大体効率的です。フレンチ・ファーマー現代ポートフォリオ理論によると、価格は全ての情報をすべて織り込んでいるからです。なので、最も良い方法はインデックスを購入することだということです。

私がインターンシップに参加して気付かされたことは、それは必ずしも正しくなく、非効率的なところが必ずあることです。株価では同じようなパターンは繰り返され、それを市場参加者が取っていない状態を私はアノマリーと呼んでいます。私がフレームワークと呼んでいるのは、こういった状態を探し、獲物を見つけて他の人に取られていなければ自分が取りに行くということです。

あなたが双眼鏡と呼んでいるのは、純粋にスキャニングしているだけですか?

はい、そうです。私はオシレーターを用いて、モメンタムがあることや平均回帰性を探しています。

例えば、私はこれを全てのETFについて使いますと、ある種のマーケットの地図が出来ます。これは平面で、x軸は、モメンタムの期待値、縦軸は平均回帰性の期待値です。地図の真ん中の点が中心で、そこはランダムで、そこから左下でランダムウォークゾーンとなります。しかし、右下ないし左上は、モメンタムないし平均回帰性を期待出来ます。

価格アノマリーと仰っておりますが、具体的に一つアノマリーを挙げていただくことは出来ますか?

私がアノマリーと呼ぶときには基本的に二つのことだけを指します。

それは、モメンタムと平均回帰性です。

この方向性で考えた理由は、2016年にニューヨークでQuantopianが主催するクオンツの会合がありまして、私はそれに参加するためにニューヨークへ行きました。

そこで業界の有名人の講義や発表を聞いていて、その中で印象的な発表者がいました。

その人は遥々インドから来ていて、SGアナリティクスのManish Galan(恐らく)という方でした。その方が、価格アノマリーについて話していたのです。当時は完全には理解出来ませんでしたが、帰宅してから彼が何を話していたのかについて考え、理解し、そして、今のフレームワークに辿り着きました。

彼は、ある銘柄にはある戦略を用いなさいと言っており、同じ戦略を全ての銘柄には使えないと言っていました。彼はプロジェクターにRSI指標をプロットしましたが、誰しもがRSI指標については知っておりましたが、彼はこういう問いかけをしました。「RSIで買われ過ぎの時に売り、売られ過ぎの時に買うという戦略ではどういったことを期待していますか?」それを聞いて、私はしばらく閉口しました。そして、彼はこういったのです。「これは平均回帰性を期待しています」と。

これには納得が行きました。次に、「モメンタムとは何でしょうか?」と聞き、「RSIが買われ過ぎた時に買い、売られ過ぎた時に売る」という風にその人は回答しました。つまり、数学的には真逆のことをしているのです。

帰ってから考えました。銘柄によってはモメンタムが効く銘柄では、平均回帰は寧ろかなり悪い戦略であることに気付きました。そして、ランダムウォークであるような銘柄では、どちらも良い戦略ではないということです。

そこから、平均回帰性を持つような銘柄やモメンタムを持つような銘柄を検知するようなフレームワークを考え始めたのです。

こういったリサーチは毎日やるのですか?それとも最初に一回やるのですか?

私は4ヵ月に一回にやります。全てのETFで30分、1時間、2時間、日足、週足で探します。どの足でも沢山の結果が返ってきますが、先ほど申し上げた平面上に全ての銘柄をプロットし、どの銘柄が平均回帰性やモメンタムを持っていたのかについて見ます。そして一番儲かりそうな銘柄を取引するわけです。

では、あなたがモメンタムや平均回帰する銘柄を見つけたとして具体的にどのように取引するのですか?もしくはどのように戦略を思いつくのでしょうか?

これは私の個人的な話になるのですが、私の両親はベトナム人で、私は12歳の頃にアメリカに来ました。それでベトナム戦争に関して教養として学びました。私の投資戦略は戦争の知識から思いついていると思います。

ゲリラ戦略というのがあるのですが、その戦略の一つに、強い敵の前には決して現れないというのがあります。

私が投資戦略を作る時は、全ての場面において取引しようとはしません。そうではなく、勝てると思った局面だけ戦うのです。

最も傷ついている敵を探し、成果に見合うと思った時だけ戦うのです。

そして、私の戦略はとてもシンプルです。理由は、ベトナム戦争の時は、一つは技術を用いた国、もう一つはジャングルの中で竹の罠等を使った原始的な国です。結果は明らかで、これが私が戦略を複雑にしたくない理由です。

注文を決済するときはどうするのですか?

目標利益はありますが、しかし、そこで決済することはありません。例えば平均回帰でRSIが70以上で売って、30以下で買うという戦略を実行するとしたときに、シグナルが反転するまで決済しません。ストップロスをやって、不必要な損失を出したり、利益を取り損ねる等のリスクがあるからです。

あなたがライブ運用してからシステムを上書きしたり変更したりしましたか?

何度かありました。特に2016年の米大統領選の後ですが、マーケットがかなりリスクオンになり、私の考えとは真逆でした。そこでシステムの戦略を変えたり、止めたりしましたが、その結果2017年3月時点でそのまま動かしていれば得られた30%~40%の利益を取り損ねたのです。

良い年はどれくらいのリターンですか?

バックテストの目標では60%~70%位が良い年です。

なるほど(笑)まぁ、10億円とか運用しているわけではないので、ばかげた数字ではないでしょう(笑)どれくらいの頻度で監視しているのですか?

私は会社員で、システムは自宅のリモートパソコンで動かしています。なので、確認するときはリモートデスクトップを使って、毎日チェックしてます。

どのように兼業でシステムトレーダーをやっているのでしょうか?大変ですか?それとも良いライフスタイルだと思いますか?

良いライフスタイルと思います。勝っているからっていうのもありますが、今は自分のお金だけを運用していて気も楽ですね。あとは、毎日帰宅して、スクリーンが黒字になったり、赤字になったりして、それも楽しみの一つです。

今後専業でトレーディングしようと思いますか?それともこのまま兼業でトレーディングするのでしょうか?

私の最終的な目標はヘッジファンドで資産運用することです。それにはまず成績が必要なので、今成績を築いているという感じです。

あなたは利益の一部を慈善団体に寄付しているそうですね。具体的には何をしているのでしょうか?

私はQuant profitというスタートアップを起業しています。事業内容は、弊社で投資戦略のプラットフォームがあり、良い戦略を弊社で選び、そこで戦略を再構築、実験等をしてお客様にお届けします。サードパーティーによる投資戦略も弊社のプラットフォームでそのまま個人が利用できるようにします。(中略)利益の一部を慈善団体に寄付しています。

解説

ここまでお読みいただきありがとうございました。

個人的に聞いていて、確かに私も最初はこのようなアプローチで戦略を考えていたと思います。ただ、このようなアプローチがロバスト性(今後も持続する)とは限らないと思います。

彼がここで伝えたかったことは、RSIという指標があって、その指標である基準で売って、買ってという条件で取引した場合に、どの銘柄の成績が良かったかが大枠だと思いますが、それが今後も同じように続くとは限りません。

ここで、3000銘柄あって、取引期間が1000営業日あったとします。

ここで、ある戦略をこれらの中で1000銘柄に対して行って、ある銘柄で年間シャープレシオが2出たとしましょう。そして残りの銘柄で同じような実験をして今度はシャープレシオが3の銘柄が発掘されたとしましょう。

これらのシャープレシオはすぐには信用しない方いいです。ある戦略があってそれらを実験すればするほど、シャープレシオはインフレが起きるからです。

なので、実験回数に応じて、妥当な最大シャープレシオはいくらかについて知っておく必要があります。そして、それが分かれば、それに対して大きすぎる銘柄は統計的に信用できる等の結論が初めて得られます。

Deflated Sharpe Ratioという概念があり、具体的な検定方法についてはこちらの論文[The Deflated Sharpe Ratio: Correcting for Selection Bias, Backtest Overfitting and Non-Normality]をご参照ください。

この方の言い分は初めての方には参考になるとは思いますが、正直怪しい部分もあったので、こちらで私が補足させていただきました。

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