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「Asset Management Tools and Issues」感想・書評

きっかけ

今年発売された新書で「Asset Management Tools and Issues」という本を購入しました。購入理由としては、尊敬しているマルコス氏が書いたという理由が一番大きいです。マルコス氏はファイナンス機械学習の著者としても界隈では非常に有名でファイナンスの定量分析における根本的な問題なども主に指摘し、その解決策を提案したりしています。

本書の感想

ここではある程度大雑把に感想を書いていきます。というのも、500ページ以上あるので、細かく書くとキリがないからです。

本書の構成は合計18章あります。

第1章: 資産運用会社について
第2章: 財務諸表の基礎事項
第3章: 住宅担保関連証券の生成と証券化
第4章: 資産運用のための計量経済
第5章: 資産運用のためのモンテカルロアプリケーション
第6章: 資産運用のための最適モデル
第7章: 資産運用のための機械学習とその応用
第8章: リスク評価と資産アロケーション問題
第9章: 株式市場における証券の貸し出しとその代替法
第10章: 債券市場におけるレポ取引
第11章: 定量分析の実装可能性
第12章: 定量的な株式投資戦略
第13章: 株式ファクター投資戦略の実装における困難
第14章: トランザクションと取引コスト
第15章: ファンダメンタルファクターによるマルチファクターリスクモデルを用いた共通した株式ポートフォリオの管理
第16章: マルチファクターリスクモデルを用いた債券ポートフォリオの管理
第17章: 投資戦略のバックテスト
第18章: モンテカルロバックテスト法

ご覧の通り、本書で触れるテーマがかなり多く、全体像を把握するために、それぞれの章における目的について触れてから、最後に感想をまとめたいと思います。

第1章: 資産運用会社について

この章では、主に次の項目について話します。

・資産運用会社のカテゴリーとその役割
・資産運用会社とウェルスマネジメントの違い
・伝統的な資産運用会社とヘッジファンドの違い
・資産運用会社の特徴
・投資管理同意書の基本用語
・クライアントがポートフォリオマネジャーに何を求めるか
・資産運用のビジネスの変化と資産運用会社がどのように変化に対応してきたか
・将来の資産運用会社をどのように設立するのか

第2章: 財務諸表の基礎事項

この章では主に会計に関する話がメインです。

5つの財務諸表(損益計算書、包括利益計算書、バランスシート、キャッシュフロー計算書、株主資本等変動計算書)に関して、それぞれの財務諸表の読み方を解説したりします。

第3章: 住宅担保関連証券の生成と証券化

不動産担保証券に関する話です。ここは、あまり興味分野ではないので飛ばします。

第4章: 資産運用のための計量経済

ここから若干投資関連らしき話になりましたが、主に単回帰の線形モデルや重回帰モデル、主成分分析、株式リターンを断片的に説明できるファクターの推定、ボラティリティの計量経済モデル(ARCHとGARCH)について解説してます。結構詳しく解説しているので、学んだことある方々は復習するにも適しています。

第5章: 資産運用のためのモンテカルロアプリケーション

この章では、モンテカルロシミュレーションに関する話をします。モンテカルロシミュレーションに関する導入的な話から、具体的なステップまで書いてあります。また、なぜモンテカルロシミュレーションが将来の結果を評価する他の方法よりも優れているのかなどについても説明したりしています。

第6章: 資産運用のための最適モデル

ここでは、数理プログラミングの導入と主な種類、そして、債券と株式におけるポートフォリオの構築とアセットアロケーションに関する最適モデルへの応用について書いてあります。現代ポートフォリオ理論とその周辺に関する話ですね。

第7章: 資産運用のための機械学習とその応用

ここが正直、個人的には一番興味ある部分かもしれません。

この章では、機械学習が金融分野のどこに応用できるのかについて解説しています。また、機械学習を行う上で陥りやすいミスについても紹介しています。ここはファイナンス機械学習でもほとんど触れている内容ですが、結構まとまっているので読みやすいかと思います。

第8章: リスク評価と資産アロケーション問題

ここまででは、金融に応用できる計量経済モデル、数理モデル、そして機械学習モデルについて説明し、本章では、VaR(バリューアットリスク)やCVaR(条件付きバリューアットリスク)の導入方法などについて解説します。

第9章: 株式市場における証券の貸し出しとその代替法

CFDに関する話がメインです。

第10章: 債券市場におけるレポ取引

タイトルの通り、レポ取引に関することで、興味分野ではないので、ここは一旦読み飛ばします。

第11章: 定量分析の実装可能性

この章は結構面白いです。定量的な研究を行うプロセスを説明し、その研究をどのように執行可能な投資戦略にするかについて書かれています。バックテストの重要性はもちろんですが、説明変数の数であったり、良い推定と予測誤差のトレードオフ、そして統計的に十分であるからと言ってリターンを超えるとは限らない話など、ここは結構参考になる内容について記載もあるので、勉強になりました。

第12章: 定量的な株式投資戦略

ここは様々な定量的な投資戦略の紹介をしています。また、それらの投資戦略の構築方法や経験則による課題点などについても紹介があるので、経験者は後半の方が参考になるかもしれません。

第13章: 株式ファクター投資戦略の実装における困難

CAPMによるファクター投資戦略に関する話で、割と根本的な話をしたりしています。独立なファクターの存在やどのファクターが重要であるか、そしてなぜファクターによって価格が動くのかに関する質問に対する先行研究についてまとめています。勉強になる内容は多かったです。

第14章: トランザクションと取引コスト

コストやマーケットインパクト、最適投資戦略などに関する話です。

第15章: ファンダメンタルファクターによるマルチファクターリスクモデルを用いた共通した株式ポートフォリオの管理

ポートフォリオに潜在する様々なリスクに関するお話です。リスクを様々なファクターに分解して分析しています。

第16章: マルチファクターリスクモデルを用いた債券ポートフォリオの管理

15章と似たような話でした。

第17章: 投資戦略のバックテスト

ここはファイナンス機械学習でも紹介されたバックテストに関する話をまとめています。

いくつかのバックテスト手法(ウォークフォワード、リサンプリング、モンテカルロ)の解説と、あと、バックテストで陥る典型的なミスであったり、過学習に対する対処法などに関して触れています。

第18章: モンテカルロバックテスト法

ここではモンテカルロバックテスト法の優位性に関して説明しています。また、ちょっと面白い表現で、戦術的投資戦略と戦略的投資戦略の違いなどについて話したりしています。

まとめ(感想)

トピック自体は有名な話が多いですが、本書では有名な話から、現存する課題などについてまとめています。コードなどは無く、特にアプリケーションを開発出来るというわけではないので、ツールが欲しいだけ方にはあまり向かない本かと思います。話題の一貫性に関しては、実務家でも参考になる話は多かったですが、著者が複数人いるためか、話題の一貫性はあまり感じられませんでした。どのトピックも金融と関係はしているので幅広く学びたい方にはお勧めです。

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