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「『異世界転生』して、一発逆転を試みる若者が多すぎる」という、教授の嘆き。

仕事で母校を訪れた。
よくあるOB訪問という業務だった。


自分の業務を終えて、久々の後輩たちとの飲み会。

宴も闌、お酒も大分回ってきた頃、
これから広大な社会に繰り出す学生たちに、

"今後どういう進路を送りたい、とかあるかい?"

と一先輩として、素朴に質問してみた。

とりあえず海外に行きたいです」
とりあえず起業したいです」
とりあえず○○(←某有名国立大)大学院に行きたいです」
とりあえず××(←某一流企業)に内定したいです」

彼らは思い思いに答えてくれた。

ただ、
〚とりあえず〛を矢鱈と枕詞に使うのが気になったので、
もう少しだけ話を訊いてみることに。

どうしてその大学院に行きたいの思ったの?
何を商品に起業しようと考えているの?

そう尋ねてみたら、

「う~ん。。。」
「いや、今はそこまで考えていないです」

と答えに窮する姿が印象的であった。

果てには、
「今は何も考えていないですが、
 とりあえず先輩のコネで御社に入社していい待遇受けながら、
 3年位で有名なところに転職したいです!笑」

と溌溂とした顔で言う子まで現れる始末。

ここまで正直に言われると…いっそ感心してしまう。

ともあれ全体を通して、

成功した人生を送りたい
こんな偏差値の低い大学(筆者は無名な地方大学出身)を最終学歴にしたくない
華々しい経歴を持つ自分でいたい

という漫然とした欲求はあるが、

その為に、一体何をしたらいいのか分からない。
そもそも何故上記の目標を抱くのか、自分でも分からない。

と悩む現代の20代前半の姿を垣間見た一日となった。


「"何者"かになりたいんでしょうね。今の世代の学生たちは。」

後日、私の大学では(珍しく)学生の事をきちんと慮る
恩師の教授の元を訪れた際に、その話を振ってみた。

しかしですね、とその教授は続けた。

今いる場所でコツコツ積み立てる努力もできない人が、現状から逃避する為に試みる『異世界転生』の夢は、往々にしてうまくいかないものですよ。

節約や貯金もできない人が、宝くじを当てて金持ちになろうと考えるくらい、およそ浅はかな計画です。」

現代の若者なら一度は抱くであろう悩みすらも、教授は容赦なく一刀両断する。

「そもそもメディアの影響なのか、
 皆さん何かにつけて西洋諸国に就職だのワーホリだの憧れていますけど、

カナダ人の営業マンだって、
自分が悪くないことにも頭を下げる時位ありますし、

フランス人のエンジニアが、
働く意味を見失って自分探しの旅に出るのを見たこともあります。

オーストラリア人の知り合いの教授も、
学会前の忙しいときは徹夜で残業しまくりですよ。」

更に思うのですが、と追い打ちを掛けるように口を開く。

「Youtuberやらインスタグラマーやらインフルエンサーやら、
表舞台で華やかそうに輝いている"一般人"が増えたことも関係ありそうですね。

彼らは特に何の苦労もせずに
今の地位を手に入れているように見えますけど、

一本の動画や投稿が大勢の目につく様になるまでに、
彼らは何千本をも超える、伸びない動画や記事を投稿をし続けていて、
きっと長い長い下積みの時期があったと思うんですよ。

そこの視点を欠いて、

"俺も偶然で一発当てて有名人の仲間入りを果たそう"程度の魂胆の人が、

何をしたってすぐに結果なんて出ないし、続くわけがないじゃないですか」

教授は過去に、
学内外の人達に自身の研究室やテーマに関心を持って貰う為、
動画撮影・投稿をしていた時期があったらしい。

その時の経験談だろうか。

何はともあれ、現在の学生達が迷う姿を見ていて、
教授も色々思うところがあったのだろうと察する。

最後に、
という前置きと共に、

「例えば"海外に行きたい"と願うなら、
 仕事をいきなり全部やめてワーホリに行くとかよりも、

まずは今の職場で海外勤務の機会がある部署に異動希望を出してみる、
仕事を通して得られたスキルを武器に、社内の上司や人事にアプローチしてみるなど、

あくまで今の『地続き』にある努力から始めるのが一番いいと思うんですよね。

その方がリスクも少ないし、
ずっと再現性があるというのが、
私の持論です。

『この会社では俺の実力が正当に評価されていないから転職だ』と
早とちりするのも構いませんが、

他人や社会は案外思っている以上に、
その人のことを適切に見て、
適切に評価しているものです。

殊にあなたの様な浮気性な方が陥りがちな思考ですので、
そこのところは十分留意するように。」

と、私にも(温かい?)喝を入れてくださった。

教授から受け取った言葉を何度も反芻し書き留めながら、
羽田行きの機内で思案を続け、東京に帰ってきた。


話を聞かせてくれた後輩達の姿は、嘗ての私そのものだった。

生きているからには何かを成し遂げたい。
夢の一つも語れない人生は、なんだか虚しい。


しかし、
一体どうすれば良いのか分からない。
何から始めればいいのか分からない。

さしあたり、
有名企業でも目指しておこう。
海外志向でも持っておこう。
起業とか言っておこう。

-迷える子羊の如き彼らの嘆きは、
いいねの数やフォロワー数、
年収や残業時間など、
数字での評価や情報に溢れる
現代人の複雑な心境を象徴していた。

しかし、
(以前別の場所で書いた気もするが、)

私は「自分の幸福の定義は、自分の中にこそある」と考える派なので。。。

何かを求めて
とりあえずインドに一人旅でもいいかも知れませんが、

まずは携帯やPCを引き出しにしまって
自室で自分の想いや本音と向き合ってみることを、
彼らにも勧めてみようかと思いました。

そうした結果、『とりあえず』が頭につかない
目標や指針が内側から一つでも生まれたのなら、
こんなに割のいいことはない。

というのを次は伝えようと思いながら、
今日も僕はベッドでダラダラしていた。



尚、ここでの話は飽くまで一個人の意見に留まる。

今後生きていく上で、
折に触れて思い出したいと感じた為に、
備忘録としてここに記します。


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