【書評】野口憲一『1本5000円のレンコンがバカ売れする理由』

数多の食材が溢れる現代で好きな食べ物欄にレンコンと書く人は少ないと思います。そんな目立たないレンコンに情熱を注ぐ農家のお話をご紹介します。

野口農園について

野口農園は1926年からレンコン栽培を続けている老舗レンコン農家。全国有数のレンコン産地である茨城県かすみがうら市で約100年間レンコンを栽培しています。
さっそく販売商品を見てみましょう。

野口農園オンラインショップ

えっっ、0一つ多くね??ってなりませんか?スーパーで数百円で売ってるあのレンコンだよね?ってなりませんか?
というか1本5000円どころか5万円で売っています。
こんな高いレンコン誰も買わないでしょと思いきやフランスやドイツの高級レストランでも取り扱われているようです。
さて一体どのような手法で高級レンコンを販売しているのでしょうか。

バカ売れした理由

1本5000円のレンコンがバカ売れした理由は2つ。

①松竹梅の法則

松竹梅の法則とは質や価格を3段階に分ける販売方法。選択肢が3つあると人は真ん中を選ぶ傾向があるそうです。(松は高くて手を出せないが、梅はケチってると思われそうで嫌だ、、、)という心理。この法則を活用して野口氏は1本5000円の竹レンコンを販売しました。
ただし、これだけではバカ売れはしなかったそうです。

②先祖の苦労を引き継ぎ、乗り越えていくという信念

民俗学者でもある野口氏らしい理由ですが、本書が伝えたいのはここ。
周りからバカにされながら泥だらけで作業をしてきた先祖の苦労を背負いながら生きるという信念。
先祖代々守り続けてきた野口農園のレンコンを決して安い価格で売りたくないという信念。
そんな強い想いが5000円の竹レンコンをバカ売れさせた大きな理由だと述べています。

野口氏が考えるスマート農業

本書は現代の農業についても言及しています。
最近の農業界の動向としてスマート農業があります。無人トラクターやドローンを使った農薬散布など最新技術を利用してコストや労力を軽減するというもの。おそらく今後もこのハイテク化の波は大きくなっていくことが推測されます。
しかし、野口氏はそれはスマート農業ではないと言い切ります。ハイテク化によって作物の供給量が増え、価格が下がり農家の収入が減る。そんな危険性があると。
では真のスマート農業とは何か。

余計な設備投資をせずともしっかりと利益を上げられる農業。なおかつ、時には汚れ、辛い仕事にも耐えなければならないこともある、ありのままの農業。
本書

一般的なスマート農業と正反対の状態こそスマート農業だと述べています。
たしかに。新品農業機械は数百万円〜数千万円、収穫した作物は安く叩き売りされる、そんな今の農業は全然スマートじゃないですよね。
野口氏が考えるスマート農業は今はまだ夢物語ですが、実現しなければいけないことだと思います。
課題がてんこ盛りで何から手をつければよいか分からなくなる農業界ですが、しっかり現実を見つめ自分ができることをひとつひとつやっていくしかないですね。
襟を正すきっかけになった本書の締めくくり部分を添えて終わります。

農業には、何もしないで維持できる「現在」さえもないのです。言い換えれば、農業には常に「未来」しかないのです。
本書


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