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あの甘酒をもう一度

私には忘れられない甘酒がある。
壁のような箱根峠を登り終えて、呼吸が落ち着いたあたりにその甘酒茶屋はある。
店は木々に囲まれた山道にひっそりと佇んでいた。

「いらっしゃいませ、お疲れ様です。」
素敵な女性店員が労いの言葉をかけてくれた。
店内は薄暗いが客で賑わっている。
レジにて甘酒と磯辺餅を注文。

外にある赤いベンチに腰をかけてみた。
木々が穏やかに揺れている。
老夫婦が静かに会話をしている。
すべてが丁度よくて快適だ。
これまでの過酷な時間が遠い昔のように感じる。

ぼんやりと景色を眺めていると先ほどの女性店員が料理を持ってきた。

ひんやりと冷えた顔をしょうゆの湯気が包み込む。
まずはお茶を啜る。
うん、ただのお茶だが冷え切った体をじんわりと温めてくれる。
よし、味わう準備はできた。

甘酒を口へ入れた瞬間、驚くほどに熱い。
、、、、、
ん?
甘すぎない。
甘いんだけど、ただ甘いだけではない。
出汁だ!甘みと旨みが両立している!
上質だ。
日本人よ、旨みよ、ありがとう。
旨みを存分に感じられる日本人に生まれたことに感謝。

磯辺餅は普通の餅だったが、甘酒に合う塩加減であった。
はぁ、この時間が永遠に続いてほしい。
磯辺餅も甘酒も皿の上からなくならないでくれ。
そう願いながら咀嚼に夢中になった。
あっという間に平らげてしまった。
素敵な時間はつかの間。
重い腰を上げて下山へと向かう。

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