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アブストラクトの最小ボードは何マスか

ゲームマーケット開催前の先日、後掲のダイキチさんのつぶやきをきっかけに、複数のゲームデザイナーさんが極小ボード(8マス以下)の自作アブストラクトゲームを(それとなく)プレゼンしあう、という出来事がありました。私自身にはいまのところ極小ボードのゲームはないのですが、この話題をきっかけに極小ボードをつかう過去のアブストラクトをTwitterで紹介したりしています。

アブストラクトゲームを好む人にとって興味深い話題だと思い、流れてしまうのがもったいなかったので、時系列順ではありませんがここでまとめてみました。後でみつけて付け加えたものもあります。

注意点:

  • ここでは「アブストラクトゲーム」は「運要素や隠蔽要素をある程度厳密に排したボードゲーム」として扱っています。

  • 「マス」は方形のイメージがあるので、以下では駒を置くために区別されるスペースということで一律「スペース」と表現しました。

  • ボードを使わないアブストラクトやモジュラーボードを使用するものは(珍しくないので)考慮に入れていません。

※ツイートの引用はツイッターの規約に基づいて行っていますが、引用の仕方などに問題がありましたらお手数ですがご一報ください。

8スペース


・セカンドベスト! (2019) 

複数の出版元から同時期に出版されるなどして話題になったボードゲーム帝国(ダイキチ)さんの代表作。基本は円周ボードを使う立体4(3)目並べですが、相手の指し手を毎手番1回指し直させることができる「セカンドベスト」ルールが独創的。こういう一種のメタルールは作ろうとしてもなかなか思いつきません。


じつはこのセカンドベストと同じ構成のボードを使用するゲームが過去にもありました。それがこちらの

・ディアム (2003)

スタッキングを使用するところなどもセカンドベストに似ていますが、こちらは一人2色の駒を使用します(2人プレイの場合)。N目並べではなく、向かい合っているスペースの同じ高さに同じ色の駒を置ければ勝ちというゲームです。

7スペース


・Fano330-R-Morris (2015)

ウェブサイト「アブストラクトゲーム博物館」を運営されている中島雅弘さんによる作です。Fano Planeと呼ばれる図形を使用したボードで、「同じ色か形を直線で3つ並べてしまうと負け」という「逆三目並べ」のようなゲーム(こういう通常とは逆の勝利条件は「ミゼール」などと呼ばれています)。短時間ながらヒリヒリしたプレイ感です。


6スペース

ここからはタイル工芸の技術を生かして長年オリジナルゲームを製作されているLOGY GAMES(山本光夫)さんのほぼ独壇場です。

・JumPico (2007)

・Skips (2008)


どちらもサイコロを使用しないすごろくタイプのゲームです。一直線で互いの駒が向かい合うゲームは割と例があり、原型はバックギャモンだと思いますが、準古典と言えそうなのが下のゲーム。

・カエルとヒキガエル (1980)

こちらはボードゲームというよりは数学ゲームで、一直線のボードに一方はヒキガエル(Toads)、もう一方はカエル(Frogs)を置き、手番で相手側へ1マス進めるか相手を1匹飛び越える、手番で動くことができなければ負け、というものです。

決まったセットアップはないのですが、6マス以下だと手番の選択肢がなくてゲームにならないので、ゲームとしては最小6マスと考えていいかなと思います(6マスもゲームと言えるかかなり怪しいですが)。

・マイソールの虎のゲーム

こちらは下のような5交点のボードを使用するインドの伝承ゲームです。クリシュナ・ラージャ3世の写本に記載されていたと解説されています。(参考ページ

Mysore Tiger Game

ハンティングゲームと呼ばれる先手と後手が非対称なゲームで、一方が人の駒3つ、他方が虎の駒1つでプレイし、前者は虎を動けないように追い詰めれば勝ち、後者はジャンプによる捕獲ですべての人を捕えれば勝ちです。ひとつ交点の多い(中心の線が下まで通っている)Sher Bakrというゲームもあるようです。(参考ページ

5スペース

・絵揃 (2015)

配置できるのは5スペースですが、2色のキューブ駒と3種類の絵柄があることで選択肢の広いゲームになっています。

アジリダージ (2006)

ユニークなコンポーネントのアブストラクトが多いFred Hornさんのゲーム。こちらも立体三目並べで、同じ高さで3つの駒を直線でそろえるか、同じスペースに3つ積み上げれば勝ちになります。

ちなみにこのゲームには、Fredさんがパーティの余興で「5分以内にゲームが作れるか」という賭けに挑戦してできたという、売ります。赤ん坊の靴。未使用みたいなエピソードがあります。(参考ページ


・ホースシュー

中国発祥とみられるアジアの素朴な伝承ゲームで、ほぼ同じゲームがアジア各地にあるようです。

順番に駒を隣接ポイントへ動かしていって動けなくなったら負けになるのですが、ほとんどの状況で行動の選択肢が1手しかなく、お互いが危険を回避しつづけると永遠に終わらないので、ぎりぎりゲームになっているゲームという印象。ごく幼い子供向けのゲームだと思われます。

4スペース

以下2作もLOGY GAMESさんのゲーム。

・Swap Swop(2012)

・Dr. Sue (2010)

どちらも数が書かれた駒を使う算数をベースにしたゲームですが、とりわけ奇数・偶数や数の大小で移動と捕獲が決定されるSwap Swopは似たゲームを見た記憶がなく、いろいろなタイプのアブストラクトがあるLOGY GAMESさんのラインナップのなかでも特に独創的なゲームではないかと思います。


・ミニマ (2019)

直近のゲームマーケットで、複数種類の駒のやり取りだけで成り立つ独創的なアブストラクト「ゴール・フォート」を出展されたパタタイカ(狂道化)さんのゲーム。わずか4マスからなるチェス風アブストラクトです。

こちらは再デザインの予定があるとのことで詳細は控えますが、4マスでしっかり手番の選択肢があるようにできていて驚きました。興味のある方は再販売の機会を待ちましょう。


以上のほか、マンカラの一種のKhrour (Hrur) は4ピットでプレイできるゲームのようです(参考ページ)。Christian Freeling氏のゲームにも4ピットの「ミニマンカラ」があります(参考ページ)。

(追記)この記事を公開した後で以下のようなゲームも見つけました。

・Due Conga (2005)

見た目はまるきり4ピットのマンカラなのですが、マンカラ特有の種まきのアクションはありません。駒の所有のないインパーシャルゲームで、共有の3色の石を一定のルールのもとにくぼみのどれかに入れていき、自分の手番で合法手がなければ負けるというゲームです。


3スペース

・サンタシ (2005)

筒状のピースを交互に置いていって3つの塔をつくり、外からみて露出しているパーツが多い方が勝ちというもの。置く順序によっては相手の筒をより大きい筒で覆うことができます。


2スペース

・武士将棋 (2000) 

キューブ状のコマ2つを向かい合わせて置き、一定の規則に従って前後左右に回転させ、相手が規則どおり動けなくなれば勝ちというゲーム。底面が見えないので軽い隠蔽要素があると言えばあるのですが、これくらいなら暗記できるし確認してよいルールにもできそうなのでここで扱って良いかなと思いました。(参考ページ


最小は2スペースか?

というわけで、みるかぎり「武士将棋」の2マスが最小かな・・・と結論しかけたのですが、よくよく考えてみると武士将棋は2つのキューブ駒を向かい合わせて置いているだけなので、別にボードがなくてもプレイできるんですね。おそらくただ「将棋」のフレーバーを残すためにボードを付けているんだと思いますが・・・。

そういう点では3スペースのサンタシも同じで、3つのスペースの位置関係はルールに関わらないので、純粋にゲームとして考えると位置を指定するボードは(少なくともルール上は)必要ありません。そういうわけで、いまのところ4スペースのゲーム群がアブストラクトでは最小ボードのグループと言っていいのではないかなと思いました。


なお本題では取り上げませんでしたが、明らかにゲームとして成立していない Nano-Wari という、2ピットのマンカラが存在することもこの流れで知りました(参考ページ)。ゲームになってないものでは、以前虚構新聞さんが「2マス将棋」の記事を投稿したりしたこともあります。

極小ボードへの挑戦は、ゲームとゲームでないものとの境界線に対する挑戦であるのかもしれません。




アブストラクトゲーム Advent Calendar 2022に参加しています。



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