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台所で本を読む

Aマッソ加納さんが毎週金曜日にアップしている、Artistsporkenという有料ラジオで話していた言葉にハッとして、聴き終わったあと本を読みはじめた。キッチンに置いている、IKEAで買った格安の黒いスツールに座りながら。

絶賛読みかけ中のハライチ岩井さんの著書「僕の人生には事件が起きない」が手元にあるが、なんだか買ったもののなかなか読みはじめられていなかった武田砂鉄さんの著書「マチズモを削り取れ」を手に取ってみた。おそらく、金曜の深夜でなければ読めなかっただろう。日曜の夜に読むことはおすすめしない。読むためにかなりのカロリーを使うことになるので、体力に自信がない方はご注意を。とはいえ、とても大切なことを取り上げてくれているので、興味がある方はぜひ読んでみて欲しい。この本の感想は読み終えたらまた何かの機会に話したいと思う。

第二章まで読み終えたところで、本を読む手を止めて、IKEAのスツールの上で体育座りのような格好でコンパクトにまとまりながら、この文章を書いている。

父がよく実家の台所で、換気扇の下で折り畳み椅子に座り、煙草を吸いながら本を読んでいたことを思い出した。

私が子供のころの実家は、リビングにもトイレにも父の灰皿が置かれていたものだが、父が一度煙草をやめてからはリビングとトイレから灰皿は消えた。

しかし数年後にまた父はタバコを吸いはじめ、結局のところ今は、電子タバコと、昔から吸っているメビウス(よくお使いで買いに行っていた時はマイルドセブンだった)を交互に吸っている。

そのころからだったと思うが、父は台所で本を読みながらタバコを吸うようになった。台所の奥には父が本を読むときに座る折り畳みの椅子が置いてあり、栞が挟まれた読みかけの本が無造作に置かれていた。

私はタバコは吸わないが、今日キッチンに置いたスツールに座って本を読んでみて気付いた。キッチンで本を読むのはなかなか効率的で合理的だ。
目の前のコンロですぐにお湯を沸かせるから、お茶もコーヒーもすぐ飲める。なんならコーヒーを淹れながら本を読むことができる。本を読む行為を途中で止める必要がないのだ。

それに、キッチンの場合は料理を作る行為以外で何もすることが無いので、嫌でも本と向き合うことになる。部屋の中にはデスクにパソコンがあったり、ソファやテレビがあったりと、色々とものが置いてあるので、少し注意がそれる。座り心地が決して良くないスツールは、部屋の中のソファよりも、本を集中して読むという行為との親和性は高く感じる。まあ、腰には良くなさそうなのでおすすめはしない。

あともうひとつ気付いたことは、台所の灯りは読書に向いているのかもしれない。リビングの少しオレンジががった灯りよりも、台所の蛍光灯の白い光の下で、父は本を読みたかったのかもしれない。

なぜ台所で本を読んでいるのか、気になるならば聞けばいいのだが、なぜだか私は聞けずにいるし、それが実家の当たり前の日常の風景になっているので、今さら聞くこともない。

ためしに今度、実家に帰ったときには話してみようか。

「最近私さ、キッチンで本を読んでるよ。けっこういい感じ。お父さんはなんで台所で本を読んでるの?」

父はなんと答えるだろうか。

「べつに、なんとなく?」

とでも言いそうだ。

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