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東京ハロウィン

神保町に着いたのは午後5時前。

神田古本祭りをぶらり覗いてみた。
後で聞いたところによると3年ぶりの開催だそうで、なるほど、通りで静かな熱気に包まれていた。

2日目である最終日は午後5時までと掲示物には書かれているが、まだまだ本を物色する人たちの勢いは衰えない。

たくさん人がいる中でゆっくりと本を吟味するのが苦手な私は、暫く人々の様子を観察した後、そそくさと神保町の交差点を渡った。

「二冊100円」と書かれたポップの目立つ古本屋で、背表紙が日に焼かれた本が立ち並ぶ棚から、
落合恵子と室井滋の本を一冊ずつ手に取り、レジへ向かった。

店内入ったすぐ正面の棚には、裸の女性の写真が表紙の本が何冊もこちらを向いて並んでおり、本来はそういった本をメインに扱っている店なのだと悟った。

三十路も過ぎた神経図太い系女は気まずさこそ感じないが、店内にいる男性客になんだか申し訳ない気持ちになり、入り口近くのレジ以外には視線をずらさず、さっさと会計を済ませて店を出た。

レジには大学生くらいの爽やかな男性店員が1人だけいた。
彼はこの店で店番をしながら1日どんなことを考えているのだろうか。
そんなことに思いを巡らせながら白山通りを水道橋方面へ歩いて行った。

かつては出版社か書店だったであろう、大きく「海文堂」と書かれた年季の入ったビルの1階はコインランドリー。
ガラスの自動扉をくぐると、右手に、幅の狭く少し急な階段が現れる。

2階に上がるとそこは、同年代の女性店主が1人で切り盛りする、美味しいコーヒー屋さんだ。

カフェラテとブラウニーを注文して席に着く。
買ってきた本をパラパラとめくって少し読んだり、お店に置かれた本を手に取ったり、店主と近況報告をし合ったり、静かでゆっくりした時間を過ごす。

カフェラテとブラウニー

このお店は静かで良い。
本を読むのに最適だ。
美味しいコーヒーもあるし、ほどよい甘さのケーキやプリンもある。
木の温もりと柔らかい雰囲気の店主もいる。

1時間ほど滞在してすっかり満たされた頃には、外は陽が落ちて暗くなっていた。

お腹も空いたし遅くならないうちに帰ることにする。

たまにはこんな文化的な1日を過ごすのも良い。
帰ったらまたゆっくり家で本を読んで過ごそう。

帰りの電車で落合恵子の「セカンド・カミング」を開き、ワシントンD.C.の街並みに想いを馳せていたが、ふと車内が騒がしくなってきた。

顔を上げると、全身銀色のタイツに身を包んだ、男性3人組がいてギョッとした。
銀色スーツをギラギラと輝かせながら、インスタアカウントのQRコードをA3サイズに印刷した紙を持って歩き回っている姿は滑稽だった。

とんねるずのモジモジくんみたいだったな。
いや、あれは真っ黒なタイツだったか。

半蔵門線が渋谷に近づいていくにつれて、段々とおかしな格好をした人が車内に増えていく。

そうだ、今日は10月30日。
ハロウィン当日の10月31日を目前にした、日曜日。

彼等は、「渋谷ハロウィン」と呼ばれている、大人の仮装イベントに繰り出すのだろう。

本来ならば、子供たちがお化けやモンスターに扮して近所をねり歩き、大人からお菓子をもらう可愛らしいイベントのはずだ。
それがここ数年、日本では大きく形を変えて、良い歳した大人が仮装やコスプレをして道端でたむろし騒ぐイベントになってしまった。

しかも、渋谷に関しては街が主催してハロウィンイベントを開催しているわけではなく、どこからともなくただ人が集まってきているだけである。

ついさっきまで神保町で文化的な1日を過ごしていたというのに、私は今、おかしな格好をした大人に囲まれている。

なんだかその振り幅にとてつもなくゲンナリした。

ある種、ホラー映画よりも恐ろしい現実に憂いを感じながら、帰路に着いた。

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