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時間切れ!倫理 80 スコラ学(ヨーロッパ中世キリスト教神学)

 アウグスティヌスの時代、西ローマ帝国が滅びるころまでが西ヨーロッパの歴史では古代といいます。

 西ローマ帝国滅亡後、西ヨーロッパには(ローマ人から見れば未開の)ゲルマン人が侵入してきて、彼らが様々な国建て、大混乱に陥ります。この時代に、ローマ帝国は滅んだもののキリスト教の教会だけは存続し続け、ゲルマン人たちにキリスト教を布教していきました。ローマ教会は西ヨーロッパの人々(つまりゲルマン人)を信者にすることに成功します。

 混乱の中からやがてイタリア、フランス、ドイツなどの国の原型が形成されます。こうしてヨーロッパ中世、封建時代が始まります 。 中世ヨーロッパ時代のキリスト教神学のことをスコラ学といいます。

 たくさんの神学者がいますが、一人だけ、トマス=アクィナスを覚えておいてください。トマスはドミニコ会という修道会の修道士でした。ドミニコ会は神学理論に対して非常に積極的な修道会でした。トマスはイタリア出身ですが、ヨーロッパの神学の中心であるパリ大学で教授をします。

 彼の主著が『神学大全』。思想の特徴は、キリスト教神学にアリストテレス哲学を取り入れたこと。ここが最大のポイントです。中世キリスト教神学にもギリシア哲学は取り入れられていましたが、アウグスティヌスのところで述べたように、それは新プラトン主義でした。

 西ローマ帝国が滅んで以降、西ヨーロッパではアリストテレスの哲学はすっかり忘れ去られていました。ところがトマスの時代の少し前に、イスラーム世界を通じて西ヨーロッパに再びアリストテレス哲学が紹介されるようになります。アリストテレスの哲学はギリシア哲学の最高峰です。幅広い分野を網羅して体系として整っていました。そのために大変面白い。アリストテレスが13世紀くらいから、西ヨーロッパで流行します。

 アリストテレスは哲学ですから、神は出てこない。しかもキリスト教以前の人物です。一方キリスト教神学は、どんな理論も最後は神の恩寵、神の奇跡、ということで理論的な問題を決着させてしまう。これに対して、理性によって理論を組み立てるアリストテレス哲学に、当時の若者たち・大学生たちは非常に魅力を感じました。アリストテレスを取り入れないと、キリスト教神学は若者たちにソッポを向かれてしまう。トマスはこういう流れの中で、アリストテレスの哲学を自分の神学に取り入れたわけです。

 トマスは、アリストテレスの哲学の「形相」と「質料」、「可能態」と「現実態」という理論を取り入れている。ただアリストテレスは世界には始まりも終わりもないといっている。しかしキリスト教では、神がこの世界を作った、世界には始まりがあり終末があると考える。この考え方はアリストテレスの理論とは相いれません。

 このことに関してトマスは、世界に始まりがあるかないかは、人間にはわからないといいます。しかし聖書に神が作ったと書いてあるから、そちらが正しいのだといいます。

 つまり、トマスはアリストテレス哲学を取り入れたけれども、スコラ学にとって、結局、神学と哲学とどちが上かといったら、哲学よりも神学の方が上です。これを難しい言葉で言えば、「神の光・恩寵の光」(神の啓示による信仰の真理のこと)は「自然の光」(理性による哲学の真理)にまさる、ということになる。

 いくら理性で理屈を重ねていっても最終的には信仰によって決着がつけられます。これがスコラ学、神学というものなのでしょう。「恩寵の光」「自然の光」という単語を覚えておけば、試験では対応できると思います。

 この回の授業は内容に乏しいので、以下に参考図書をあげておきます。一応目を通しました。しかし、悔しいけれど、わからない。生徒に解説できるほどに核心をつかんだ気が全然していません。唯名論と実在論というスコラ学で必ず出てくる用語も理解できませんでした。ウナギのようにつかんだと思ったらするりとすり抜けていく。これらの本を読んでわかった人、本当に教えてほしいです。
【参考図書】
稲垣良典『トマス・アクィナス 『神学大全』』講談社選書メチエ 2009
ジャック・ルゴフ『中世の知識人―アベラールからエラスムスへ』岩波新書 1977
水野宗明・山口義久・堀江聡編『新プラトン主義を学ぶ人のために』世界思想社、2014
八木雄二『中世哲学への招待』平凡社新書 2000
八木雄二『天使はなぜ堕落するのか―中世哲学の興亡』春秋社 2009
八木雄二『神を哲学した中世―ヨーロッパ精神の源流』新潮選書 2012
八木 雄二『カントが中世から学んだ「直観認識」: スコトゥスの「想起説」読解』知泉書館、2017
山田晶『神学大全I (中公クラシックス)』中央公論社 
山本芳久『トマス・アクィナス 理性と神秘』岩波新書、2017

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