僕の「電カル」奮闘記 その10

弁護士への相談

診療業務に支障を来さないために、RXを再び契約すると決めたものの、富士通に対して割り切れない思いが続きました。

「一体型」の開発をなぜ中止したのか。
「一体型」にならないなら、なぜもっと早くに教えてくれなかったのか。
「一体型」になるまで、保守料を請求しないといった言葉をなぜ覆したのか。

こうした僕の疑問は解消されませんでした。そして、今後も答えてくれる気配はありませんでした。

とはいえ、相手は世界に名だたる大企業。一介の開業医など、吹けば飛ぶような存在でしょう。どうしたらいいのか、誰かの知恵を借りなくては。

でも、開業当初、医師会や医療者団体に電カルのことを相談したときは、どこも相手にしてくれませんでした。役所も業界団体もその役割ではないでしょう。

そこで思い浮かんだのが交渉の専門家、弁護士でした。一人あてがありました。

診療所を開設すると新規個別指導があります。僕は開業1年後の2012年に指導を受けました。医師一人でも指導は受けられますが、万全を期するために弁護士を帯同することができます。僕は医療者団体から紹介してもらい、弁護士に帯同してもらいました。

あの時の弁護士の先生に相談することを思い立ち、連絡をとることにしたのです。そして、これまでの経緯をメールで説明した上で、2018年1月22日に面談する事になりました。

面談の当日、「とにかく富士通から誠意のある説明がほしい」という僕の思いを伝えると、弁護士が教えてくれたのが「通知書」によって富士通の回答を引き出すという方法でした。

通知書は、訴訟を起こす以前に、トラブルや紛争を柔軟に解決するための手段で、相手を話し合いや交渉のテーブルに引っ張り出すことが可能になります。弁護士を代理人にたてて、質問内容を通知書にして内容証明郵便を送れば、富士通が僕の質問を無視することはできなくなり、回答を引き出せるようになるとのことでした。

そこで、弁護士に通知書を作成してもらい、2018年2月9日付けで富士通に通知書を送ったのです。

通知書には、このブログで書いてきたように、RXを購入した経緯や一体型ではなかったこと、定例会での富士通担当者の発言、買い替えの経緯と見積りの内容などを盛り込んだうえで、次の6つの質問を記載しました。

【僕の富士通への質問】
① 今後一体型電子カルテの開発の予定はあるか
② (一体型の開発予定が)ない場合、一体型の開発を止めた理由
③ 担当者がRXの次期モデルは一体型になると明言したにもかかわらず、SXもやはり一体型でなくなった。その事実を説明するのが遅くなった理由
④ 約束の反故があり、その説明がおそくなったために、一体型電子カルテへの切り替えを検討する機会を失ったことについての見解
⑤ 「一体型になるまで保守料は支払わない」旨の約束があったにもかかわらず、今回のRXの購入に際して保守料を請求されている理由、及びそれについての見解
⑥ システム・ベンダー(※通知書では企業名)の見積もりにおける割引率の低下は、富士通の意向を受けてのものか。その場合、割引率を下げた理由

そして、結語はこう結びました。

以上は、電子カルテの重要性に鑑み、一医療従事者として憂慮の思いから質問するものです。この分野においてシェア1位を誇る貴社において、質問に対して真摯にご回答くださるようお願い申し上げます。ご誠実なる回答をいただけない場合、訴訟等の法的措置も検討せざるをえません。以上、通知いたします。

僕は訴訟までは考えていませんでしたが、こう結ぶのはよくあることだそうです。これまで、明確な返答をくれる事のなかった富士通も、弁護士からの通知書を無視することはできなかったのでしょう。3月27日付けで、弁護士事務所に回答書が届きました。

システム・ベンダーや富士通の営業マンなどに、何度お願いしても得られなかった富士通からの回答が、弁護士の手を借りることで、ようやく手に入れることができました。その点は一歩前進ですが、回答の内容は、納得できるものではありませんでした。

【富士通からの回答】
① カルテのオーダと会計を同一テーブルで管理するシステム構成(以下「一体型」)を開発するか否かは未定。なお、貴院は「次期カルテは一体型になると担当者と何度も確認した」と主張するが、一度書面で説明はしたが「何度も確認した」との認識はない。
② SXでは、カルテと会計のデータを一体型とする事のメリット・デメリットと、テーブルを分けた場合のメリット・デメリットを勘案して最終的に別にする構成を採用した。データを一体型とする場合、カルテと会計で同一の情報は一元化されるというメリットがあるが、テーブルを分ける方がメリットがあった。
一体化する事のデメリットは解決できなかったが、テーブルを分けた場合のデメリット(RXで生じていた不具合)は改善できたと判断して、分ける構成を採用した。
③ 開発中の新製品に関する情報は秘密情報であり、対外発表した2016年3月16日までは社外に説明できないもの。2016年4月21日に担当者が貴院を訪問し、カルテと会計が別である事を説明している。
④ 2016年4月21日に担当者が貴院を訪問し、カルテと会計が別である事を説明しており、最新版のRXを購入した2018年1月24日までは十分な時間があった。「一体型電子カルテへの切り替えを検討する機会を失った」と言う認識はない。
⑤ 弊社としては、「一体型になるまで保守料は支払わない」旨のお約束があったという認識はございません。
⑥ 弊社の意向ではございません。

大体このような内容です。
なお、回答書の頭書きには、機密情報が含まれているため回答書の内容は当院限りで使用するようお願いされていました。そのため、機密情報(というほどのものはありませんでしたが)や技術的なことは省略して、僕なりにわかりやすくまとめました。⑤と⑥は、よくニュアンスが伝わるよう、そのまま書きました。

納得できなかったのは、次期モデルが一体型になると何度も説明していことを自分たちの都合で覆したにも関わらず、そこに反省も謝罪もないことでした。

質問①に対して、富士通は「一体型を開発するか否かは未定」と回答した上で、あえて、質問には書いてないのに、次は一体型になると「何度も確認した」という僕の主張を否定しています。

たしかに書面でもらったのは1度でしたが、定例会のたびに担当者は「一体型にします」と言っていました。それも自己判断ではなく、社内に持ち帰っての返答でした。僕としては富士通の技術者たちと信頼関係があると思っていたため、録音などはしていませんでした。そもそも書面で一度説明したのならそれで十分だと思いますが、なんと情けない言い訳だろうと思いました。

回答②では、「データを一体型とする場合、カルテと会計で同一の情報は一元化されるというメリットがある」と一体型の利点を述べています。僕がRXを購入した理由は、富士通が「RXは一体型の電子カルテ」だと宣伝していたからで、まさにカルテと会計の情報が一元化される点にメリットを見出していたからです。ところが、富士通は、技術力不足によって、それを実現できなかったうえに、虚偽記載して広告を出し、一体型であるとごまかして販売していました。定例会でも当初、RXは一体型であると強弁していました。

回答②をみると、RXは一体型ではなかったばかりか、連動型でのデメリットを技術不足で改善できぬままに、あるいはその不具合に気付かぬまま販売を開始した事が分かります。僕は不誠実だと感じました。

また、質問④に対する回答は、事実関係と大きく異なっていました。

富士通は、2016年4月21日に、SXが連動型である事を説明しており、最新版の2018年1月24日にRXを買うまでは十分な時間があったので、一体型電子カルテへの切り替えを検討する機会を失ったとは考えてないというのです。

このブログのその8で詳しく書いたように、2016年4月21日の最後の定例会で富士通担当者と面談した僕は、「後継機種が一体型にならなかった理由」「一体型にするという約束を反故にしたことに対する富士通の見解」「今後も保守料の一部免除が続くのか」という3点に加えて、「RXのサーバー保守契約が終了したあと、どのような選択肢があるのか」について質問しました。彼らはその場では答えることができなかったため、後日、回答をもらえるようにお願いしました。

ところが、その後、富士通から一切の連絡はありませんでした。システム・ベンダーを通じて、何度も回答を催促しましたが、それを無視し続けたのは富士通です。

ようやく富士通側と面会できたのは、最後の定例会から1年8カ月後の2017年12月8日。やってきたのは、これまでの事情を何も知らない営業マンでした。この頃、僕ははじめて2018年1月でRXが販売終了になることを知らされています。電子カルテの移行は、そう簡単にはできるものではありません。連動型とはいえ、手に馴染んだRXは有力な候補でした。他の電子カルテをゆっくり吟味していると、RXは販売終了となり選択する事ができなくなります。時間切れが迫るなか、診療業務を混乱させないためRXを選ぶしかなかったのに、それでも「十分な時間があった」というのでしょうか。

保守料をめぐる質問⑤に対する回答は、富士通の不誠実な態度を垣間見ることになりました。富士通は、「弊社としては、『一体型になるまでは保守料は支払わない』旨のお約束があったという認識はございません」という木で鼻をくくったような回答をしてきました。

たしかに、このブログのその7で公開している画像にあるように、富士通は「プログラム障害による貴院運営に多大な影響が及ぶ不具合が無くなるまで」システム・ベンダーに対して「請求致しません」と書いています。

でも、定例会に何度も同席していたシステム・ベンダーの担当者も、僕と同様に一体型になるまで保守料は支払わないという認識でしたし、その場にいた富士通担当者も同じように表現していました。だから、僕の中では、「一体型になるまで保守料は支払わない」という約束があったと思っていました。

あの通知書に、そうした意図が隠されていたとは気付いていませんでした。不誠実な相手との交渉に慣れていない自分の甘さを痛感しました。

なにも保守料を支払うことに理解がないわけではありません。保守料の減免は一体型になるまでの一時的なものの認識でしたし、そもそもこの形でのペナルティーが適切とも思っていませんでした。

でも、富士通がその認識であったのなら、もっと早く伝える機会があったはずです。「今後も保守料の一部免除が続くのか」は最後の定例会からずっと富士通に確認し続けてきたことです。何度もした僕の質問には一切答えず、1年8カ月後の面談でも返答がなく、その撤回について初めて知らされたのは、サーバー買い換えでRXの見積もりを取ったときでした。RX終売まで数週間を切り、保守料を受け入れなければ今後の契約はできないという宣告で、僕は時間切れに持ち込まれたことに気付いたのです。

僕の通知書に対して、富士通から誠意ある回答をもらって、この問題はこれで終わりたいと思っていましたが、反省も謝罪もなく、自らの言い分をつづった回答は、受け入れられるものではありませんでした。

そう思った僕は、RXをめぐる問題に決着をつけるために、弁護士にお願いして、再び富士通に通知書を送ることにしたのです。


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