僕の「電カル」奮闘記 その8

1年8カ月間、放置された末に起こったこと

2016年3月、富士通はRXの後継機である「HOPE LifeMark-SX(以下、LifeMark-SX)」を発売しました。

LifeMark-SXは「連動型」で、「一体型」ではありませんでした。定例会で、あれほど「RXの後継機は一体型にする」と言っていたにも関わらず、富士通は僕との約束を反故にしたのです。

最後に定例会が行われたのは、2016年4月21日。この日、新機種のLifeMark-SXが「一体型」ではないことを知らされた僕は、ただ、呆然と彼らの話を聞くことしかできませんでした。

「この5年間の定例会はなんだったのか」
「なぜ、こんな結末を迎えてしまったのか」

頭のなかは、「なぜ?」「どうして?」という疑問符が、次から次へと浮かんできました。とにかく、分からないことだらけだったので、少し頭を整理して、この日は、次の3つの疑問に答えてもらうことをお願いしました。

・RXの後継機が「一体型」にならなかった理由。
・「一体型にする」という僕との約束を反古にしたことに対する富士通の見解。
・今後も保守料の一部免除が続くのか。

定例会のメンバーだった富士通の技術者たちに、悪意があったとは思えません。きっと何か理由があって、「一体型」の採用を取り下げたのだろうから、その理由を知りたいと思ったのです。でも、すぐに答えられるものでもないと思ったので、システム・ベンダーを通して回答をいただけるようにお願いしました。

もうひとつ気になったのが保守契約についてです。
5年を経過したこの頃は、ちょうど保守契約期間が切れる時期でした。新機種のLifeMark-SXと並行して、RXも現行機種として販売されており、当面、サポートはしてもらえますが、ハードウェアが更新の時期を迎えていたのです。短期間なら保守を延長できますが、それがいつまでも続くわけではありません。

そのため、現在のRXのサーバーの保守契約が終了したあと、当院にはどのような選択肢があるかも、この時、富士通に尋ねました。

その答えを聞いてからでなければ、次の電カルをどうするかを決めることができません。そのため、僕は、この日、4つの質問をして、後日、富士通からの回答をもらえるようにお願いして、5年間の定例会にピリオドを打ったのです。

ところが、待てど暮らせど、富士通からは一切連絡がありませんでした。その後も何度か、システム・ベンダーを通じて、富士通に聞いてもらうようにお願いしましたが、いつまでたっても返事はありませんでした。たまに不安になって、早く何とかしなければと思いながらも、本業のクリニックの業務に追われて、それ以上のことはできず、積極的に動けませんでした。それが悪かったのか、僕の問い合わせは放置され続けました。

ようやく富士通の担当者と話ができたのは、2017年も押し迫った12月。最後の定例会から1年8カ月が経過していました。

この日、クリニックに来たのは、開発や部門担当者ではなく、ただの営業マンで、これまでの経緯を何も知らないようでした。

そして、「一体型」と「連動型」の違いがどれだけセンシティブなことなのかを知らない彼は、あたかもセールスをする時のようにパンフレットを広げ、後継機のLifeMark-SXが「連動型」であることを無邪気に僕に伝えたのです。

もしかしたら、富士通は後継機を一体型にするために努力してくれていたのではないか。そんな僕の願望が、木端みじんに砕け散った瞬間でした。

新しい営業マンは、富士通が僕に約束した「RXの後継機は一体型にすること」「RXが一体型になるまで、システム・ベンダーを通じた保守料の請求をしない」ということも知らされていないようでした。知っていたのかもしれないけれど、そんな話はするなと会社に言われていたのかもしれません。

当然、保守料の割引が今後どうなるのかも、彼では判断できません。「持ち帰って確認します」と言ったきり、結局、返事はありませんでしたが……。

「こっちが身動きできなくなるまで待つ作戦だったとは……。時間切れに持ち込まれたな」

僕はこの時、「保守」という人質をたてに、時間切れに持ち込まれたことを悟ったのです。

というのも、それまで保守延長で使っていたRXは、サーバーの保守が完全に切れる寸前でした。早急に次をどうするかを考えなければいけません。万一、サーバーが壊れたら、日々の診療に影響が出るどころか、開店休業状態になってしまいます。

定例会で100を超える提案や要望をあげたおかげで、その頃、RXは少しずつ使い勝手がよくなっていました。スクロールも改善され、以前よりは早くなっていました。オラクルのデータベースのおかげなのか、堅牢でデータを失うこともなく、順調に稼働していました。

なにより、使う側の僕らが連動型であるRXに順応して、RXの機能を最大限に引き出すような使い方をしていました。こうした努力の積み重ねで、ようやく使い勝手がよくなって製品として熟してきたところでの新機種の発売だったのです。

システム・ベンダーからは、LifeMark-SXに乗り換えることとともに、RXのサーバーを買い替えて現状を維持する提案もありました。もちろん富士通以外への乗換えという選択肢も。

そのため、実際にLifeMark-SXのデモ機も試しに触ってみました。目新しい機能はいくつかありましたが、それよりも操作感が変わってしまうことの方が気になりました。一体型になるならまだしも、ようやく使い勝手のよくなったRXを手放してまで乗り換えるには、LifeMark-SXは魅力的な機種ではありませんでした。

たとえば、RXには「カルテナビゲータ」という機能があり、カルテに書かれた1行目の文字が自動的にリスト化されて、一覧にして見ることができます。僕は、この機能を意識して、カルテを作ってきました。

1行目に、「アムロジン5㎎への増量」「胃がんで大学病院に紹介」など診療にまつわることを書いたり、「健診」「内視鏡」「レントゲン」などの検査内容を書いたりしておくと、いつ頃、何をしたのかが「カルテナビゲータ」を一瞥するだけで把握できるからです。何年も診療している患者さんなどは、この機能が大活躍しました。

スクロールが遅く、検索機能が弱いRXで、患者さんをお待たせしないでスムーズに診療していくためには「カルテナビゲータ」の活用は欠かせないものでした。RXのウリでもあったはずです。

ところが、LifeMark-SXでは「カルテナビゲータ」の表示方法が大幅に変更されてしまいました。表示窓が小さくなり、1行の文字数が減らされたうえに、日付が独立して2行表示になったために、一度に確認できる過去カルテの日数が大幅に減ってしまいました。以前の使い勝手とは大違いです。

これは一例ですが、たった5~6年で、使い慣れた環境を大幅に変えてまで、新機種を発表する必要があるのか改めて考えさせられました。クルマがモデルチェンジのたびに、アクセルとブレーキの位置が変わることはありません。よりよくするための変更なのかもしれませんが、僕にとっては残念なことでした。

業務の慣れを考えると、LifeMark-SXを買うくらいなら、サーバーを新調して、しばらくはRXを使う方が現実的でした。この様子では、LifeMark-SXを買っても5~6年後には、また大きく仕様が変更されるかもしれません。ならばRXをつなぎにして、その間に次を考えるのもありかな、と思ったのです。

ところが、話はそう簡単には進みませんでした。

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