僕の「電カル」奮闘記 その7

守られなかった「一体型」への約束


RXをめぐるトラブルで、もうひとつ書いておかなければいけないのが「保守料」の問題です。

RXを導入して様々な不具合に悩まされてはいたものの、それは一時的なもので、すぐに改善されると思っていました。なんといっても人材豊富で、電カル開発に長けた富士通です。バグや技術的な問題はあっという間に修正して、パンフレットに書かれていた機能もすぐできるようになると思うのは当然のことでしょう。

ところが、開業から1年たっても、RXの不具合はなかなかなくなりませんでした。問題がひとつ解決すると、新たな問題が見つかり、不具合の報告と修正が繰り返されました。だからこそ、定例会が5年間も続いたわけですが、当時の僕は、健気にRXが「一体型」となって、便利で診療に役立つ電カルになると信じていたのです。

でも、「その1」「その2」で書いてきたように、当時のRXは本当に不具合が多発していました。なかでも、一体型であれば起こらないであろう不具合が、1年たっても起こることが僕をいらだたせました。そして、だんだんと、「いったい、なんのために高い保守料を払っているのだろうか」という疑問が湧いてきたのです。

電カルを使うためには、導入時に数百万円かかるだけでなく、毎月数万円の保守料がかかります。これは、診療報酬の改訂への対応をしてもらったり、不具合が起こった際のサポートをしてもらったりするための費用で、電カルのメンテナンス費用として必ずかかるものです。

当時、毎月のように富士通の開発者が来院してくれましたし、ベンダーのSEはもっと頻繁に対応してくれていました。その点では保守料を払う意味はあったかもしれません。でも、僕は一体型でまともに動く電子カルテを買ったはずなのです。不具合への対応は、そもそも保守ではなく、購入当初からできて当たり前のことを修正しているにすぎません。そこで、定例会の開始から1年たった2012年4月、「一体型になるまでは、保守料の支払いを止めたい」と、システム・ベンダーを通じて富士通に申し入れたのです。

ただ、不具合の原因の大元は富士通です。一体型と偽って販売したのも、広告にある機能を実装せずに販売したのも富士通です。バグの責任の所在は、RXの開発元である富士通にあります。

一方で、システム・ベンダーは、一体型ではないRXを一体型であると間違えて販売した責任はありましたが、RXの不具合と格闘して、一緒にトラブル解決の努力をしてくれていました。ですからベンダーへは、きちんと保守料を支払いたいと思っていました。そこで、富士通への支払い分として、ひとまず保守料の半額を支払わないことを伝えました。

以下が、2012年4月28日にベンダーへ送ったメールです。

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 いつもお世話になっております。
 また会計がおかしいです。二重に検査が算定されているものがあります。

 購入して1年が経過しました。いまだに一体型の電子カルテは納入されておらず、不利益を被っています。
 一体型になるまでの間、富士通への支払いを止めます。ひとまずRXの保守料の半分は支払いません。今後この額は変えます。
 しかし保守料が****(ベンダー名)にいかないのはおかしいと思いますので、富士通に返してもらいたいと思います。富士通にそう伝えてください。

 また一体型の電子カルテの納入時期やそれに伴う移行計画について早急に聞きたいので、富士通がいつ来て頂けるかご連絡お願いします。

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これに対して、正式に富士通から返事がきたのは3カ月後で、2012年7月18日付で次の回答をもらいました。

2012年7月18日付の富士通からの回答

HOPEEGMAIN-RXについて(ご報告)H240718_3

この回答書で、富士通は、RXの後継機は一体型にすること、そして、RXのプログラム障害による不具合がなくなるまで、システム・ベンダーを通じた保守料の請求をしないことを約束しました。

これを受けて、1週間後にシステム・ベンダーから、保守料をいくら減免するか具体的に書かれた通知が届きました。その結果、ソフトウェアメンテナンスの費用はすべて減免され、ハードウェアや電話サポートの費用だけになりました。保守料は、僕が申し入れた半額どころか、それよりもさらに大きく下がりました。

メーカーが、個別のクリニックに対して保守料の割引を行うことは聞いたことがありません。それだけ、RXの不具合については、認めざるをえなかったということなのでしょう。でも、このやり取りが後々の交渉に影響を与えるとは、この時は思ってもみませんでした……。

定例会を続けるなかで、少しずつバグは減り、動作も安定し、RXは当初に比べると使いやすい電カルになりました。定例会での議題も不具合の修正ではなく、使いやすい電カルのための要望が多くを占めるようになりました。そして、2011年4月から月1回のペースで行われてきた「定例会」は、5年を区切りとして、2016年4月に富士通から終了が提案されました。

電カルとしての動作は、まだまだ不十分ではあるけれど、この5年間の積み重ねもあったので、彼らの言葉を信じて定例会の終了を受け入れました。

「5年」という期間は、メンテナンスを考えると、そろそろ次の電カルをどうするかを考えなければいけない時期でもあります。でも、富士通の技術者たちは、「RXの後継機は、もっと使いやすくする」と言ってくれていたし、何よりも富士通が「一体型」にすることを書面で約束してくれていました。だから、僕は楽しみに、というよりも、暢気にRXの後継機の発売を待っていたのです。

ところが、その最後の定例会で、2016年3月に富士通がRXの後継機である「HOPE LifeMark-SX(以下、LifeMark-SX)」を、すでに発売開始していることを知らされたのです。そして、なんとLifeMark-SXもまた、「一体型」ではない、「連動型」の電カルだというのですから、そのときの僕の失望ぶりを想像してもらえるでしょうか。

これまでの定例会で、あれほど「後継機は一体型にする」と言っていたのにもかかわらず、一体型への約束は反故にされたのです。

クリニックを開業して、RXの電源を入れた2011年のあの瞬間。そして、後継機のLifeMark-SXが発売されたことを知った2016年のあの瞬間。僕は、二度に渡って、富士通に騙されたという気分に打ちのめされたのです。


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