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ボイスドラマシナリオ:「愛惜の朱。」


【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノです。

さっき出した恋愛もの続き書いてみました。

少しの間でも、誰かに寄り添えることを願います。


【愛惜の朱。】

作:カナモノユウキ


《登場人物》
・川上花道(60)町の役場に勤める男性、高校時代に朱香を見掛けてから一目惚れをしていた。以来、彼女をつくらず独身でいる。
・蒼乃朱香(59)高校の先輩である花道に片思いを続けていた、親の言い付けで制約結婚をして町を離れていた。

夕方、日が落ちようとしている海辺の駅。定年で最後の勤務を終えて帰りの電車を待つ花道。

花道「結局、定年まで働かされたか…。さぁ、この先は…一人っきりだな。」

電車がやって来る、そこから下車した人の中に、朱香が下りてくる。

花道「…まさか、また出会えるとはね。元気だったかい?朱香さん。」
朱香「思わず、電車を降りてしまいました…貴方を見つけて。花道さん。」
花道「あれから、もう二十年か。…貴女も僕も、変わって居ないとはいかない年齢になったね。」
朱香「ええ、シワも白髪も…お互いに増えましたね。…でも、声は変わらず優しいままで。」
花道「確かに、時間は立っているのに…声を交わすだけであの頃と変わらない空気が流れるようだ。」
朱香「私たちは、何も変わって居ないんでしょうね。あの花冷えのころの想いから、ずっと…。」
花道「そうですね、あの時貴女を抱きしめた朝。私は一生をあの瞬間に置いたままにしたのかもしれません。」
朱香「私もです。あの朝があったから、私は強くここまで生きていられたと思います。花道さんのお陰で…。」
花道「ずっと僕たちは、あの時間を想い生きて居たんですね。…何だか、いい歳を越えても青いままだ。」
朱香「青いと言えば、二十年前のあの夜。夜縹(よはなだ)を共にしたときは、お互い青春をしていましたね。」
花道「確かに、あの時間はお互いを見つめ合った時間を確かめ合うような、不思議な夜でした。」
朱香「本当に、知っていたけど知らなかったことを確かめ合いながら。…素敵な夜でした。」
花道「ええ、忘れられない夜です。…朱香さん、今日はどうして町に?またご友人に?」
朱香「いえ…私は今日帰って来たんです、一人でこの町に。」
花道「それはどうして…婚約者の方はどうしたのですか?まさか…。」
朱香「いえ、ちゃんと…お別れを伝えて、指輪も置いてきました。」
花道「これからは、お一人でこの町に?」
朱香「そのつもりでした…、けど貴方を見掛けて少し心が躍っています。花道さんの居るこの町で暮らすことを。」
花道「私もです…これから私も一人の時間をどうしようか落胆していたときに、朱香さんに再会できてとても嬉しい。」
朱香「定年…ですよね、今日で。長い間、お疲れ様でした。」
花道「いえいえ、僕はただやれる事をしていただけですから…。」
朱香「あの、花道さん。」
花道「はい?」
朱香「私と、一緒に…。」
花道「朱香さん。」
朱香「はい。」
花道「それは、僕から言わせてください。…一緒に、暮らしませんか?朱香。」
朱香「…ええ、もちろん。喜んで。」
花道「いやぁ…定年の日にまさか、こんな夢の様な事が起こるとは。機運…なんですかね。」
朱香「きっと、運命だったんです。私たちが出会ったここで、また新しい時間を始められる。…私は、正直貴方との時間と想いを忘れようともしました。」
花道「それは何故…。」
朱香「幸せ過ぎたからです。でも、忘れなくてよかった。この想いが報われる時が来たのですから。」
花道「確かに、あの二度の時間は幸せ過ぎました…愛惜の時間でしたね。」
朱香「ありがとうございます、花道さん。」
花道「こちらこそですよ。それに、これからではないですか。」
朱香「そうですね、花道さん。これから、宜しくお願い致します。」
花道「ええ、もちろん。…改めて、伝えてもいいですか?」
朱香「はい、花道さん。」
花道「愛しています、朱香さん。」
朱香「私も、愛しています、花道さん。」

ナレーション:朱香
ここまで、語り尽くせない程色々な出来事があった。
人生と言うのは、これ程までに理不尽かと思う程の辛いことも、言い表せられない嬉しいことも。
でも、全てはこの時間の為なんじゃないかと思える時間がきっと来ると信じていた。
この変わらず美しい海に沈む夕日が、今までの人生のエンドロールに思える。

ナレーション:花道
僕はずっと、朱香さんを待っていたのかもしれない。
この海を眺め続けて、思いを馳せ続けて、何時間も、何日も、何年も。
その日が報われることを願っていた訳ではなかった、ただ…心の中にはずっと焼き付いていたと分かった。
この夕日のような朱が、瞳に焼き付いて離れない様に。僕の心に、愛惜の朱が。


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

…何か、凄いですね。(またよく分かってない。)
これで終わりっす、人生で三回しか会ってないのにね。

ビックリだ、この二人。

では次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


【おまけ】

横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。


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