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体力ってどこにあるの?

体力に自信がある人っているのだろうか。年齢を重ねて疲れやすくなってから、のどから手が出るほど体力がほしい。

だけど、体力ってどうすれば手に入るのだろうか。


悪性リンパ腫の父が心配していることは、痩せてく一方だということ。

抗がん剤の1回目、副作用がなくて一安心している。入院中にテレビ電話で2時間も話し続けるほどの元気さをみせてくれた。顔色もいい。


ただ糖尿病だということもあって、病院食が少ない。積極席に体を動かして、ラジオ体操をして、病棟内のさんぽもしているようだ。

ただ、食べる量が少ないから「これじゃあ痩せていく一方だよ」ってぼやいている。


体調が良く、わからなかった病状も結果が出て、退院することになった。迎えに行くと、新しく主治医になったU先生と会って話ができるという機会がもらえた。父が「信頼してる」というあのU先生。

私は学校の授業も聞いてるだけでは付いていけないくらい、”聞いて理解する”っというのが遅すぎるという特性がある。父の付き添いで、いろんな科の先生の話も、理解して咀嚼できないことが何回かあった。

同席する父と妹に、あとで「こう言ってたけど、こういうことだよね?」って質問のような、確認のようなことを聞くだろうな。


U先生。見た目が厳しくて怖い感じの人だった。しかし、はなし始めた途端、そのおだやかさにびっくり。丁寧なあいさつのあと、ゆっくりした口調で話してくれた。説明ではなく、話してくれた感じ。

悪性リンパ腫とはなにか、悪性リンパ腫の中のどの型なのか、どんな治療が必要で、どのくらいの期間なのか。抗がん剤の歴史も、最新の研究のことも、整理整頓が完全に済んだ内容だから、頭にスッと入ってくる。

へたな不安はなく、先生にお任せしたいという気持ちが芽生えてきた。「なんでも質問してください」と言われて最初に話したのは父だった。


「病院食が少なくて、これ以上は太れません。抗がん剤の治療が始まったばっかりで、体力がつかないのが不安です。」と父が話した。すると先生からは意外な質問が返ってきた。

「体力ってどのくらいの体力が必要なんですか?」と。「おそらく、痩せてしまったのでしょうけど、どうですか?生活するのに不自由のない程度に動ければ、それでいいのではないですか?」って。たしかに。


「よく、スポーツをしていたとか、筋肉が自慢だった、っていう人が病気になって、筋肉や体力が無くなってしまうことに不安を口にする人は多いです。

でも、家の中を動き回れて、自分で自分のことができて、買い物ができるくらいの体力があればいいですよね。これからアスリートを目指すわけじゃないですよね?」たしかに、たしかに。


3人で頭がもげそうなほどうなずいた。

それからというもの、父が体重計にのることはなくなった。父に聞いてみると「ずっと70~80キロの間だったんだけど、今思うと70歳を過ぎても70キロ以上あった体の方が太り過ぎだよね。」って。

「70キロ以下になると体力が無くなるみたいで怖かったんだけど、60キロ台でも何の問題もない」抗がん剤が耐えられない体になってしまうかもって、怖かったんだね。


体力って目に見えないから、体系で想像しがちで、太ってるから体力ありそうとか、痩せてるからすぐ疲れそうとか。だけど、先生が言うように家の中を思ったように動けて、買い物に行ったり、さんぽができればそれで十分。

なので、筋肉ムキムキで体格の良かった父は、キラキラした思い出として胸に残して、これからは動ける体を目指していこうと決めたのであった。




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