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『ヤンデレストーカー最愛の人を追って、聖女候補に転生す』第2話【創作大賞2024 漫画原作部門】


「ラブリー・オト・モナイ!」

聖セントレア大聖堂内に老女の怒鳴り声が響く。

黒の修道服を着たその老女が眼前の女を呆れたように見詰める。

純白の修道服を着たグラマーな彼女は、黄金色の長い髪で両目を隠し、ニヤニヤとした笑みを浮かべていた。

「話を聞いていますか?ラブリー……ひっ!」

彼女と目が合う老女。その瞳は底を知らない奈落のようだ。

「はぁ……」

ラブリーの後ろには、メイド服を着た緑のブローチをした茶髪のメイドがいる。

(聖女……)

彼女は目の前の整列した修道服姿の女性達を見た。

(国民や、国を魔族から守る存在)

そこにはあくびをしたり、ずっと鏡を見たり、隠した何かを食べていたりと多種多様な修道女がいる。

(想いの強さこそが、そのまま魔法や剣技の威力や能力に直接反映されるこの世界では、力のあるものは大体、聖女か騎士を目指す。そして……)

目の前で老女に怒られている女性を見るメイド。

(こんなに沢山いる聖女候補生の中で、現在進行形で修道長様に怒られているこの人物こそ、私……メイディ・イチノセが仕える聖女候補様だ)

「ラブリー・オト・モナイ!本当に聞いていますか?」

「はいぃ?何か仰りましたぁ?」

「微塵も聞いてない!?今の流れで本当に聞いてない事がありますか!そんな態度だからこんな事になっているのですよ!」

老女が大聖堂内を指差す。

そこには美しい聖女を模したガラス枠があるが、肝心な本来嵌め込まれている筈の色とりどりのガラスはない。
それは、今修道長に怒られている人物が吹き飛ばしたものだ。向こう側に見える綺麗な空を指差しながら怒る修道長。

「今朝は情熱的なパンが食べたいと火魔法でボヤ騒ぎを起こし、その次は皆で洗濯中に水魔法で洪水を発生させ……」

頭を抱える修道長。

「最後に至っては祈りの時間にも関わらず、れんくんれんくんと訳の分からない事をずっとぶつぶつと……ひっ!」
「訳が分からないぃ?」
いつの間にか修道長の眼前まで迫ってきたラブリーが、ジト目で彼女を見ている。

「そ、それは置いておいて……他にもそのメイドの件もそうです!」

修道長がラブリーの背後にいるメイディを指差す。

「元聖女候補生ジェシと、大聖堂の衛兵達数人と画策してあなたを殺そうとしていたらしいではないですか!」

罪悪感から目を伏せるメイド。

「脅されていたとはいえ、本来なら処分されるべき人間を、まだ傍に置いておく事自体理解不能です」

「何かおかしいですかぁ?」

「勿論で……」
「ここで大事なのはぁ」

修道長の言葉を遮るラブリー。

「私がどう思い、何を選択したか……それ以外ありませんよねぇ?」

「それは……」

「私の愛の追求と研究にはぁ、メイディが必要不可欠なんですよぉ!」

「はぁ……。ここ最近新たに玉座についたという魔王はとても優秀だと噂になっています」

諭すように続ける修道長。

「その魔王と戦う事になるであろう、聖女候補の1人がこんな調子では先が思いやられます」

「私の愛がまだ不十分という事ですかぁ?」

「何の話!?あなた本当に最近どうしたんですか!何処かで頭でも打ったんですか?」

「打たれたといえば打たれてますねぇ」

「えっ!?大丈夫ですか!早く病院に……」
「愛しの人を想って、いつも心を打たれてますよぉ!」

「何だこいつ」

思わず真顔になる修道長。

聖女候補生達が皆ぽかんとしている中で、リラという名前の修道女だけが素晴らしいと言わんばかりに何故かうんうんと頷いていた。

「とにかく!司祭様が聖女様達と共に魔族領の調査に出ている今、これ以上揉め事を起こさないよう気を付けなさい!」

「まさか大聖堂を追い出されるとはぁ……」

ラブリーが呟く。

「ま、まぁ今日だけでも色々と問題を起こしてますし、夜には戻ってきていいと言われただけマシだと思うしかないですね」

ラブリーとメイディは今、聖セントレア大聖堂のある首都セントリューの町を歩いていた。

「はぁ……またレン君と会えるのが少し遠のきましたぁ」

しっかりとした造りの建物が左右に建ち並ぶその道をのんびりと歩いている2人。

「それでラブリー様、れんくんを探す為に今後どうなされるんですか?」

「そうですねぇ。聖女になるまでは、他国の力を借りるのは現実的に不可能ですしぃ、まずは自国……」

人差し指を立てるラブリー。

「朧気だが、的中率は高い選聖師による占いを使うしかないですねぇ」

町を進んでいた2人の前に屋台が建ち並ぶ区画が見えた。

辺りには肉や野菜、果物など様々な匂いが漂っている。

「3日後にある聖女候補生と騎士候補生による合同訓練に選聖師の方が来られるみたいですしぃ、そこで何とか占って貰うしかないですねぇ」

美味しそうな匂いに釣られて、肉の串焼き屋の前に思わず立ってしまうラブリー。屋台の店主がそれに気付く。

「おっ!嬢ちゃんその格好、もしかして聖女候補生かい?」

「そうですねぇ」

「じゃ、これ食べな!ほらそこのあんたも」

ラブリーとメイディの2人にこんがりと焼かれた牛の串焼きを手渡す店主。

「いいんですかぁ?」

「いいんだよ!聖女様にはいつも助けられているからな。将来の聖女様にも早めに恩を売っとかないと!」

「ありがとうございますぅ」
「有り難く頂戴いたします」

串焼きにかじりつく2人。

「これは……美味しいですねぇ!」

「はい。最高です」

「そうだろ?」

「えぇ……!愛食したくなる美味しさですぅ!」

「あ、あい?何だって?」

「この人の仰る事は余り気にしないで下さい」

「まぁ何を言ってるかよく分からんが、美味しいのは当たり前さ!」

店頭に飾られた文字の書かれた分厚い紙を指差す店主。

「何たってあの鉄壁の聖女ディフィナ様がよく通う店だからな!」

「へぇ……聖女ディフィナ様ですかぁ?」

「あぁ。この間なんて、何かの調査で当分帰れないからとかで百本買ってったからな」

「成る程……それは興味深いですねぇ」

(何か私には思い付かないぶっ飛んだ事考えてそう)

ラブリーの横顔を見ながらメイドはそう思った。

(ラブリー様は何から何まで色々と凄い!……けど)

メイディが首都セントリューの空を見る。そこにはうっすらと透明な壁のような物があった。

(首都全体を守る結界や、魔族領全土を取り囲むように発動された広域探知魔法……現役の聖女も凄まじい力を持ってる)

串焼きの店主に串を返却してお礼を言った後、2人は再び町巡りに戻る。

(いや……)

自分が仕える女性をメイディは見た。

(この人ならきっと大丈夫だろう)

「あれはぁ……」

町の一角で、目を伏せながら座っている少年がいた。

「何かあったんですかね?」

「あなた……どうしたんですかぁ?」

迷わず声を掛けるラブリー。

「……」

「どうしたんですかぁ?」

「不審者とは喋っちゃダメだってお母さんが」

「私は不審者ではありませんよぉ?ただの……」

ラブリーはその場で両手を広げる。

「愛!の伝道師ですよぉ!」

「十分不審者ですよ」

ツッコむメイディ。

「ごめんね君。この人はヤバイとは思うけど、この修道服はどっかで見たことない?」

「うーん……聖女様の?」

「そう!信じられないかも知れないけど、この人は聖女候補なの!」
「全部聞こえてますよぉ?」

「ここにいる立派な聖女候補様に何があったか教えてあげて?」

「うん!実はお父さんに貰った万年筆を落としちゃったんだ」

落ち込んだ様子の少年。

「お父さんがお星さまになってから、いつもお守りとして持ってたんだけど……」

「お星さまにぃ……その万年筆はお父様が大切にしてた物なんですかぁ?」

「うん!お祖父ちゃんから初めて貰ったんだって」

「成る程ぉ」

早足で歩き始めるラブリー。

「ラ、ラブリー様何処に?」

「さっさと探しますよぉ!」

「中々見付かりませんねぇ」

それから2時間近く3人で探したが、万年筆は見付かっていなかった。

「あのーラブリー様?」

「どうしましたぁ」

「ラブリー様って探知魔法も使えるんじゃ?」

「あぁ!?」

セントリューの町に光の柱が上がった。

「聖女様!お姉ちゃん!本当にありがとう!」

万年筆を手にした少年が帰っていく。

「聖女……ですかぁ。ふふっ……気が早いですねぇ……」

ラブリーが笑みを浮かべる。

「そういやラブリー様は何であの子に協力したんですか?てっきり私は放っておくかと」

「だって、死んだ人が生前大切にしていた遺愛なんですよぉ!愛の探求者が愛と名の付く物を見逃せる訳がないですよぉ」

「ただの平常運転だった……」

メイドは呆れるしかなかった。

万年筆探しが終わった2人はセントリューが見渡せる高台まで来ていた。

「私はこの15年間、記憶が戻るまで……」

(記憶?)

「周りにも、自分にも興味が湧かなかったんですぅ。それは大聖堂に拾われてからも変わりませんでしたぁ」

「レン君との事を思い出してからは、自らの中で渦巻き暴走する15年分の愛と、そんな愛の様々な形を知りたいという欲求だけで動いていましたがぁ……」

「一応自覚あったんですね」

高台からセントリューの町を見下ろすラブリー。

「落ち着いて見るこの町は案外、素敵な所なのかも知れませんねぇ?」

町を見ながら、聖女候補がニヤニヤと笑った……。

玉座の上に2本の角を生やした全身を鎧に包んだ精悍な顔付きの男がいた。

その人物の前で、動く骸骨が首を垂れる。

「魔王様、ご報告が」

「どうした?」

「現在魔族領にて、セントリューの司祭と聖女3名が発見されたとの事。いかがいたしましょう」

「恐らくただの偵察だろう。我が軍に被害が出ないよう細心の注意を払いながら監視を続けろ」

「承知いたしました。早速伝令を送ります」

「彼奴等がこちらにいるのなら丁度よい。我が出るぞ」

魔王が立ち上がる。

「はっ!」

「人族の首都とやらをこの目で確かめてやろう」

去っていく骸骨を見送った後、何故か再び玉座に戻る魔王。

「はぁ……」

頭を抱えながら溜め息を吐いた後、彼は鎧の左腕部分を外す。

露出した魔王の左腕には……。

ハッキリとした人の手形がついていた

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