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【本との出会い15】本心~平野啓一郎


1.街の本屋で平積みされたハードカバー

以前、街の本屋を大事にしたいという記事を書きました。


それから、なるべくAmazonを使わずに、その本屋から発注かけるようにしています。少しでも売り上げに協力できれば、と思って。

普段、ハードカバー小説はあまり読まないのですが、なぜか手に取り、そして買ってしまったのが、この本です。

2.最近、「母」について、思うことが多くなった。

私は、自分が27歳のとき、母を亡くしています。母は57歳でした。

今、自分の年が母の他界した年に近づいてきたこともあって、なにかを母のことを思い出します。

それに夢に出てくることも多くなってきた気がします。

何かの、知らせだろうかと、ちゃんと仏壇を拝まないとと思いながら、しばらく放置しています(笑)。

そんなときだから、目についたのでしょうね、この本が。


3.小説の内容

ネタばれしない程度に書きます。

時代設定は、現代から25年後くらいでしょうか。解説には「アフターコロナの時代」を想定した環境設定が巧みに取り入れられていると書かれています。

アバター、仮想VRが、いよいよビジネス化され、一般化され、街には小外国人が普通に暮らしている社会。

そして、未婚、ジェンダー、所得格差・・・・。

コロナによって変化した社会環境、人々の価値観の違いの中で、私たちはどう生きていくのかを問いかけているような内容です。

主人公の青年は、母子家庭で育ち、その母親を亡くしたばかりです。

そして、亡くなった母親は生前、「自然死」(病気なっても処置せず死なせてもらう)を希望していたことで、息子の主人公とのいくばくかの葛藤がありました。

「自然死」が合法となっている時代なのです。

そして、主人公は母との仮想な暮らしを求めて、高価なVRシステムを購入するのですが、生前の情報や知人のインタビューなどから学習するシステムが、現実の母親に限りなくちかづいていくわけです。

そうなると、母の「自然死」を希望する動機について、「本心」を知りたくなり、母とかかわりのあった数人と出会うことになります。

4.最愛の人の他者性

この言葉が、すごく心に残りました。

この小説が問いかけるのは、「あなたは最愛の人の本心をどこまで知っていますか?」ということですが、他者の本心をすべて知ることに幸せはあるのか?その害のようなものはないのか?という反対の問いかけも含んでいます。

死を前にした人は、大抵の場合、無力である場合が多いです。

文中にも出てきますが、死はいつおとずれるかわからない中で、多くの人は「愛する人に看取られながら」最後を迎えたいと思うのは、想像に難くないですね。

この時代設定の中で合法化されている「自然死」ですが、その背景はそのような価値観の多彩さが蔓延る社会になっていること、家族の在り方も変遷したことなどから、議論を経て取り入れられたものと思われます。

「生きたい」「死にたい」「もう十分」その言葉と、その本心。

その本心、わかることが果たしてあるのだろうか。

あまりに、深い話でしたが、人生を進めるにあたり、向き合いたい課題でもあります。



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