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〖短編小説〗1月13日は「ピース記念日」

この短編は992文字、約2分30秒で読めます。あなたの2分半を頂けると幸いです。

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ピース、ピースと叫んだだけで、逮捕された若者がいたそうだ。お気の毒様。本人は友達からピース、ピースと警察官の前で言ってみろと言われて、意味も知らずに大声で叫んだそうだ。残念無念。

平和を心から求めて、写真に写るときはピースのあの手の形をしていたわけではないはずだが、今ではピースと口に出すことも、手でVサインをつくるポーズも禁止となった。

実は、とある若者グループはピースを流行らせようと目論んでいるという噂があり、挨拶のかわりにピースと言っているらしい。そのほかにも、禁止用語のエコバッグや美少年などを大声で叫んでいるそうだ。いつの時代も若者は反骨的だ。捕まるなよ。

そういえば、昔ピースというタバコがあったが、あれはどうなったのか。タバコなんて配給でもらって以来、何年も見てもいないし、もちろん吸ってもいない。吸っている人も見かけない。この辺りの貧困街ではなく、首都のお金持ちの人々は、配給の猫をなでながら、配給の酒を飲み、配給のタバコを吸いながら、配給のティッシュで鼻をかんでいるに違いない。

しかし、首都も汚染が酷いと聞く。そのうち、また自然回帰運動でも起きて、田舎暮らしが推奨されるのだろうか。
お隣の南さんも前回の自然回帰運動の際は、自ら名乗りを上げて、田舎に移住していたなと思いだした。まぁ、新鮮な野菜と空気は魅力的だが、この土地に根をどっしりとはってしまった私は、もはや移住は不可能だろう。

タバコのことを思い出すと急に吸いたくなってくるのが人間だ。ないとほしくなる。その辺の草でも口にくわえて、口さみしさを紛らわすのもいいが、大の大人が口に草をくわえるのはいかがなものか。こんな思いをするのも、ピースと叫んだ若者が悪い。

なにかタバコのような口にくわえるものを探すために、家じゅうを引っ掻き回したが、引っ掻き回すほど広くもなく、物も少ない中、奇跡的にアレを発見したのだった。

それは賞味期限がとっくに切れている、タバコの形をした菓子「Symbol of peace」
随分昔に流行った菓子だ。子供が大人のふりをしてタバコが吸えるというのが売り文句だったが、大人になりたい子供など今の時代にはいるのか大変に疑問だ。それに「平和の象徴」だなんて、今だったら発禁ものだろう。

おもむろに一本取り出し、ライターで火をつける動作を一応して、口に加えてみた。

「ピース!」

1月13日は「ピース記念日」



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