見出し画像

〖短編小説〗1月15日は「半襟の日」

この短編は918文字、約2分で読めます。あなたの2分を頂ければ幸いです。

***

「半袖、半パン、半襟で!お子さんに健やかな生活を!」

健康推進省から届いたチラシには、そのような言葉がフラダンスを静かに踊るフラガールの隣で、たまーに火を吹いたりするファイアーダンスのダンサーごとく激しく情熱的に燃えるような字で書いてあった。

チラシを見て、我が子を見た。

畳の上でチョモランマ体操をしていた。この狭い団地の畳にチョモランマがそそり立つ光景は絶景だ。

そんなチョモランマ我が子を確認…「長袖(絶対に日焼けしない紫外線対策用)、長ズボン(軍隊特別仕様通称ケリーオズボーン)、長襟(製薬メーカーの今年一押し抗菌抗ウイルス仕様)」

「だめだこりゃ」

チョモランマ体操が終わったらしく、我が子は普段まったくかかない汗を、おでこにじんわりとかいていた。めったに汗はでないので、彼にしてはそれはとても貴重な資源らしく、拭いてやろうと思ったら、怒られた。

「大事な、快汗(かいかん)をうばうなー、国民から税金をうばうなー」

「君のおでこのそれは、快感というのかい?あ違う快汗か。あと後半の言葉はラジオで覚えたのかな?」

おでこの汗も貴重な時代、この団地の近辺はというか、わたしたち親子が住んでいる町は、市は、国は、大陸は、地球は(地球のことはわかりません)少なくとも大陸は、外に出れば太陽からの紫外線が、もはや殺人光線。外の空気を吸いに行こうなどという言葉は死語で、そんな言葉で友達をさそったら、共に死のうと言っているようなもの。外の空気は汚染とウイルスで、そのまま吸ったら即あの世行きなんです。

それなのに、健康推進省様は子供に半袖、半パン、半襟を着せろとおっしゃる。この前、政治家のご子息は、空気が新鮮で居るだけで元気になる地下シェルター「優園地(ゆうえんち)」に皆入っていると聞いた。聞いたよー!あれーあれー変だなー!

「半袖、半パン、半襟が子どもにはいいんだってさ!どうする?」とりあえず我が子の意思を確認。我が家はジシュセイを重んじております。

「今のおいらは、ジャンボ海老フライのように全身守られているから、半分は無理。なるならスッポンポン」

なるほど、0か100ということか。潔しっ!

「そいじゃ、あんたはそのままがいいか」

1月15日は「半襟の日」






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?