見出し画像

〖短編小説〗12月17日は「飛行機の日」

この短編は1038文字、約2分40秒で読めます。

「明日、飛行機で国に帰るんだ。みんな今までありがとね」
そう笑顔で挨拶した僕に、基本的にはみな笑顔だったが、頭の上に?マークが浮かんでいるような不思議な顔をしていた。

1年間の留学生活が終わり、やっと我が国に帰る前日、現地で仲良くなった友人たちがお別れパーティーを開いてくれた。そこでの挨拶だったのだが、何かおかしな事でも言っただろうか…。

「ユーサク、ところで飛行機ってなに?」友達の一人がそう訊ねてきた。
「え、飛行機って、空を飛ぶ飛行機だけど」と僕。

「空を飛ぶって、ちょっと何言ってるのよ。空なんか飛べるはずないじゃない。私たち鳥じゃないんだから」周りの友達も僕が冗談を言っていると思ったらしく、大笑いだ。

「ユーサクはフワフワとお空を飛んでかえります~ってな感じかい?」別の友人も茶化してくる。

「いやいや、飛行機だよ飛行機。大きな翼がついた。みんなだって乗ったことあるだろ。空港まで行ってさ」僕は少し大きな声でいった。

「ごめん、ユーサクが何を言っているのかが、私たち本当に分からないの。その飛行機のことも分からないし、それにあなたが帰る国のこともわたしたち知らないの。ユーサクあなたはいったいどこへ帰るの?」

そう逆に聞かれた僕は、僕が帰る国は、、、、と言葉にだそうとしたが、まったくと言っていいほど思い出せなかった。僕はどこから来たんだっけ。それに明日どこに帰ろうとしていたんだ。そもそも、この国にどうやって来たんだ。

分からない…分からない…改めて自分で思い出そうとしても何も思い出せなかった。飛行機、飛行機、飛行機ってなんだっけ。空を飛ぶもの?そんなものあったっけ。空を飛べるのは鳥だけだよな。僕は一体何を言っているんだろう。

「まだしばらくこの国にいることにするよ」

ーーーーーーーーーーーーーー

File no,135
Name:Yusaku Ikeda
特記事項:毎年12月17日に必ず発症する症状について記す。本人は正真正銘、我が国の生まれで今まで一度も出国の記録はなし。毎年12月17日には我が国が自分の母国のはずだが、飛行機なる(本人いわく、空を飛ぶ乗り物らしい)架空の乗り物に乗って自分の国に帰るという虚言を繰り返す。対応は友人役の職員数名で済むことから、現段階では容易であるものの、年々彼の言う飛行機なるもののディテールが事細かになっていることが、気がかりではある。現実に存在しないものを詳細に語り始めるのは大変危険な症状である。要経過観察。

12月17日は「飛行機の日」



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?