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〖短編小説〗12月29日は「福の日」

この短編は805文字、約2分で読めます。お正月準備中の2分を頂ければ幸いです。

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年末も押し迫った今日、12月29日。

ここはとある港である。朝から緊張した面持ちで、それぞれの仕事をこなしている男たちがいた。

「おい、最終確認きちんとしろよ。ぬかりがないようにな」リーダーの男が指示を出す。

「はい!最終確認、開始します」部下の男たちは作業に取り掛かった。

2020年。新型コロナウイルスに翻弄された一年。空港の水際対策もさることながら、ここ港も今年最後の大仕事が待っていた。

到着時刻より遅れること数時間…。ついに待ちわびた船が到着したのだった。

「お待ちしておりました。遠路はるばる、お疲れ様でした」仰々しくあいさつするリーダーの男の前には、少し古臭い形をした船から降りてくる七人の人影があった。

「あ!!まずは消毒をお願いします。その後、熱を測っていただき、PCR検査をしていただきますので、よろしくお願いします」

「ちょ、ちょっとまってよ~神様なんだからそういうのいらなくない??」

先頭の恵比須さまが言った。

「申し訳ありません。神様といえどもルールに従っていただかないと…」

「あれーちょっと打ち出の小槌知らない?船において来ちゃったかな~ちょっと取りに戻っていい?」と大黒天さま。

「ダメですダメです。一度消毒したらもう船には戻らないでください」

「あのさー鹿どうしたらいい?」「あのさー鶴どうしたらいい?」
寿老人さまと福禄寿さまが続けて言う。

「大変申し訳ないのですが、今年は動物の入国はできません」

「「えーーそうなの!!」」

「あー布袋さま、袋の中身をここで出さないでください。消毒が必要になりますので」

「毘沙門天さまー武器を振り回さないでください!これでソーシャルディスタンスを保つ?ダメです危険です」

「ちょっとーこの消毒で手が荒れたらどうすんの?あんた責任とれるわけ?」

「弁財天さま、今や消毒は必須なのです。ご了承ください」

こうして、慌ただしく七福神の入国が始まったのだった。

12月29日は「福の日」


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