【お店を作る⑤】「森ガール」から「大人かわいい」まで
2010年春から、創業の話を順を追って書くシリーズ⑤。
今回は、
「森ガール」「大人かわいい」からの、店名を決めた時の話。
正直ちょっと恥ずかしい感じがする。
森ガールて・・・
前回まではこちら。
福袋を販売したら「ゴミを売りつけるなんて最低!」とメールが来た話。
↓
①かわいいものはみんな大好き!
2010年秋。
「リニューアルしよう!」と決めた時。
ウキウキする気持ちというよりも、「店名を変えなきゃいけない」という気持ちの方が強かった。
お金もないし知恵もない。
まずはあくまで「店名の変更」と少しばかりの「店内のレイアウト替え」しかできなさそうだった。
作りつけのこだわりのレジカウンター、大きなシャンデリア、水色の柱に白くてヨーロピアンな什器。
それらは、ナチュラルでフェミニンで手作り感もあり、そのころのその街の「気分」にとても合っていた。
全体的に「かわいい」お店だった。
はて、自分は「かわいいもの」がそんなに好きだったっけ?
という疑問もあったけれども、まずスタッフ(この頃、他にもお手伝いにきてくれる子がいた)がかわいいものが好きだったから、私もそんな気分になっていた。
そして来てくださるお客様も、かわいいものが好き。
チープでキッチュな雑貨。
カラフルで楽しい雑貨。
ガーリィでフェミニンなアクセサリー。
レースや花柄、淡くて優しい色合い、ナチュラルな雰囲気、手作り感・・・・
だんだんと、自分の好きな感じと、スタッフやお客様の好きなものを、どんどん融合して行くような考え方になっていった。
「私の店」というより、「私を含むみんなのお店」というイメージはこの頃からあった。
みんなが求めるもの、このお店に合うものを仕入れることが、私も楽しい・・・。
喜んでもらえることが自分の喜びになる。
そこに確固たる「私の一番好き」はなかった。
「みんなが思うかわいいもの」に空気ごと支配されていた。
でもそこに悲観的なものは全くなく、むしろ私自身も「かわいい」を楽しんでいる時代だった。
みんながウキウキしているのが嬉しい。
そしてお店のイメージは、いわゆる「大人かわいい」と呼ばれる形態に近づいていっていた。
(2013年頃の店内。マステブーム)
②「森ガールブーム」の最中
「森ガール」ブームを覚えているだろうか。
2009年頃から雑誌で使われるキーワードになり、2010年は地方でも「森ガールファッション」がすっかり浸透している頃だった。
(wikiによると2012年には絶滅、、、あ違った、衰退したと書かれている)
もれなくこのお店も「森ガールっぽいね」と言われることも多かった。
ゆるくふんわりとしたガーリィテイストのファッション。
フォークロアの文脈からくるナチュラルさと、レトロな少女趣味の雰囲気が混ざり合うような個性的なスタイル。
レースのアクセサリー、花柄のワンピース、カラフルなタイツ、ぺたんこの靴。。。
「森ガール」の文脈を感じられるモチーフを、みんなが普通にファッションに取り入れているようなイメージだった。
(2012年頃の店内 ガーリィなアクセサリー)
③「ハンドメイドブーム」前夜
また、この頃はいわゆる「ハンドメイドブーム」がじわじわときている時期だった。
まだ地方にはやってきていない、ネット上でもまださほど盛り上がってはいない。
だけど確実に「ハンドメイドがきてるな」という予感があった。
(ハンドメイド作品売買のプラットフォームCreemaは2009年スタートのサービス)
実際にmignonでも地元の作家さんの作品はいくつか置いていたし、私も仕入れ先を「大手メーカー」や「雑貨卸業者」からだけでなく、「個人の作家さん」という視点で面白いものがないか探すようになっていた。
布やビーズなどを使ったハンドメイド作品は、ビギナーにも取り入れやすい。
意図せずとも私は「他にはない大人のかわいい」を探すことで、ハンドメイドの面白さにハマっていったのだった。
(2012年頃 コサージュブーム)
④くるりの「ハヴェルカ」を聴きながら
かわいいものをみんなが求めている。
でもそれだけじゃなく、ハンドメイドの個性や、自分の年齢でも無理のない大人っぽさが欲しい。
私が良いとおもうシンプルで大人っぽい可愛らしさ。
スタッフやお客様が好きな、多様で個性ある可愛らしさ。
それを全部まとめて、「大人かわいい」をキーワードにしたお店にしよう。
ターゲットは自分と同じ30歳前後の女性。
私もスタッフもお客様も含めた、みんなのお店にしよう。
2010年冬。
そんな気持ちで、店名の候補をいくつかノートにメモし始めた頃だった。
・覚えられやすい4文字
・長くても短く略せると良い
・ネットで検索の際に有名な名前とかぶらない方がいい
・発音しやすい
・間違えにくい
・イメージが伝わりやすい
などなど、名付け方を調べたり自分なりに考えたりして、セオリーは一応頭にあった。
ただ、その時は「大人かわいい」というキーワードと、「個性」みたいなイメージが先行していて、他にはないかわいい名前、、、「造語」で考えてみたいな〜と思っていた。
好きな言葉やお店のイメージに合うワードを書いていく。
ゆるふわ、ナチュラル、ガーリィ、、、、
ケーキ、メレンゲ、マシュマロ、シロップ、、、
レース、淡いピンクやベージュ、フラワー、、、
そこからさらに、英語やフランス語など「カタカナ」になるものを辞書で照らし合わせたり、新しい言葉を見つけたりする。
なんとなく響きがいいもの、なんとなくかわいいもの、そんなんでもいいな。
好きな曲の歌詞、好きな文学のセンテンス、好きなアート作品のイメージ、、、思いつくものをメモする。
それらを複数組み合わせて新しい言葉を作ってみる。
その繰り返し。
その頃、くるりが好きで「ハヴェルカ」という曲をよく口ずさんでいた。
ウィーンにある、カフェ・ハヴェルカの曲。
ミルヒってなんや。
ああ、ミルクのことかい。
ウィーンの言葉っておしゃれすぎるな。
ウィーンのカフェ、いいなあ。
ミルヒ、シュガー、エスプレッソを混ぜたメランジェ。
ふわふわとしたミルクの泡が乗ったウィーナー・メランジェは、要するにカプチーノみたいなもの。
だけど私にとってはなんだか夢のような飲み物に思えてうっとりしていた。
苦さと甘さを混ざり合わせたもの。
ウィーナー・メランジェって「大人かわいい」なんじゃないの?
少々強引だけど夢見心地のまま、メランジェとメモをする。
そしてそこには、少女のような大人のような、アジアのようなヨーロッパのような、どこの誰ともわからない1人の女性のイメージがあった。
日差しに小さな埃が舞うのが見えるほどの、古いカフェにいる。
気怠くて、逆光でこげ茶の髪が光って透けている。
キレイな淡いマニュキアの指で持った細い銀のスプーンで、いつまでもカプチーノの泡を混ぜている女性。
1人なのかな、と思ったら誰かに声をかけられて出ていった。
飲みかけのカップに薄くリップのあと。
バラの香りがした。
そんな物語を、くるりの曲から想像しながら口ずさんでいた。
女性の名前のような店名もいいなあ・・・と、
不意に「melangelica」と書いた。
実際、当時は、ただの走り書きでしかなかった。
(2012年頃の店内)
⑤「大人かわいい」店名に
そんなメモをダイニングで書いていると、隣でコーヒーを飲んでいた夫がのぞいてきた。
「お店の名前どうする?」
「今色々メモしてるんだけど・・・わからん・・・」
「どれどれ・・・これなんて読むの?」
「わからん・・・メランジェリカかな?」
「いいね!それにしよ!これや!なんかいい!」
「え、ちょっと待ってよ、なんとなくしかまだ考えてないし、他にも色々候補あるんだけど・・・」
「いい!これがいいと思う!これ!」
「いやまって、ちょっと考えさせて、まだやりだしたばっかりだし・・・」
「いいって。これ!」
「・・・」
そんな感じで急に、新しい店名は「melangelica-メランジェリカ-」になった。
しっくりくるようなこないような。
特に練られてもいないしセオリー通りではない。
けれど、甘いのと苦いのが混ざった、個性ある大人の女性の名前のような店名は、なんとなくお店にあってるなあ・・・と感じた。
店名ってそうやってなんだかあっさり決まるもんなんだなあ、、、と当時はそこまで深く考えもせず、イメージを先行して決めた。
あと、自分で決めてないのもいいなと思った。
何かあっても夫のせいにできる。笑
決まったらちょっと、嬉しくなってきた。
進んでいる感じがしたからだ。
そんな風に店名も決まり、簡単にレイアウトを変えて、ロゴマークも作ってもらい、2011年4月から「melangelica」がスタートした。
melangelicaは少しずつ売り上げを上げていった。
常時30名ほどのハンドメイド作家作品を販売し、せまい店内で小さなイベントを行ったりもするようになった。
私は楽しくそれなりに忙しく、充実した時間を過ごしていた。
自分で定義した「大人かわいい」に違和感を覚えるまでは・・・
次回は、それまでの、melangelicaでの出来事を書こうと思う。
続きはこちら↓
1話目から読みたい方はこちら。
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