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「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」舞台と客席は本当に一体感が必要なのか?


先日、ヘドウィグ・アンド・アングリーインチの舞台を見た。



切なくて楽しくて面白くて、観て良かった・・・・!と心から思った。

ヘドウィグの浦井さんは全然知らなかったけど、ものすごく魅力的だったし、何より気になっていたイツァーク役のアヴちゃん(女王蜂)が間近で観れたのは感動した。

あの人は影の役なのに神がかっている。


ヘドウィグは、2002年に映画で見た。

もともとはアメリカでミュージカルとして制作されたものが映画化されたものだ。

旧東ドイツ生まれで性転換ロック・シンガーのヘドウィグが、自分のかたわれである「愛」を探して旅をする物語で、彼女の人生を魂の歌と共に描く。

今ですらLGBTという表現なんて一般的になってきたけれど、共産主義体制下の東ドイツで同性の愛する人と結ばれること、好きな音楽をやり続けることは、かなり難しいことだった。

その辛さや悲しみを乗り越え、愛し愛され、裏切られ、そしてまた新しい未来を紡いでいく・・・絶望から希望への成長物語。

生まれた国も環境も何もかも違うヘドウィグになぜか共感し、自分の片割れはどこにいるんだろう?と、思いをはせる、そんな時間が愛おしい。


今回のミュージカルも、基本的には映画で見た構成に近い感じで進み、舞台ならではの音楽の迫力やドラァグクイーンのようないでたちの美しさが際立ち、華やかで美しかった。


***


さて、そんな「ミュージカル」だけど、私はミュージカルどころか、演劇なんかも数えるほどしか見たことがない。

知らないことが多いのでこれから色々見ていきたいな〜と思うのだけど、今回まともにミュージカルを見て、楽しい!すごい!感動!と思ったと同時に、ちょっと向いていないな?と思ったことがあった。


「舞台と客席との一体感」だ。

一般的に、会場全体が一体感があると、それによって盛り上がったり、感動したりするから、良い意味で捉えられることがほとんどだと思う。

そんな一体感を演出するために、舞台は「観客を巻き込む」構成で作られる。

いわゆる参加型だ。


具体的にいうと、盛り上がるときはスタンディング状態になり、しっとりした場面は座るとか、音楽に合わせて手拍子したり、一緒に歌ったり、下手したら振り付けを一緒にしたりもする。

今回のミュージカルも、「さあ立って!踊るのよ!」みたいに煽られて、座っていたところから立って手拍子したり、かと思えば「座りなさい!(キャラ的にこの口調)」みたいに着席を指示されたり、見てる間もなんども指示があり忙しかった。

正直、「めんどくさいなこれ・・・」と思ってしまった。


私はこの物語が好きだ。

美しさと影が同居して、それが入れ替わる瞬間の機微。

主人公のあっけらかんとしたユニークな態度と、悲しみに暮れてメソメソしているその対比の人間らしさ。

人ってなんだろう、性ってなんだろう、大きな愛情と大きな裏切りはなぜ表裏一体なんだろう。

そんなことを考えながら作品に触れ、じっくりその世界に入り込んで、自分の心の中でじわりじわりと熟成させるのが好きだ。


そんな私は、基本的に「舞台は舞台、客席は客席」と、一枚の透明な壁で隔たれている方が性に合っているのではないか?と気づいた。

その物語に入り込むためには、舞台と客席が一体になる必要はなく、きちんと分けて自由に考えさせてもらえる時間が欲しい。

好きなタイミングで泣いて、好きなタイミングで笑って、私主体の舞台の楽しみ方をしたい。


今、立って、そして座って、はい歌って、また座って・・・

そんな風に言われると自分のリズムが壊されて、「会場のみんなのために波を壊してはいけない」という余計な思想が入り込む。

集中して物語に入り込めず、周りの空気の方が気になってきてしまう。

私はお客さんだったはずなのに、演者と一緒に「舞台を作り上げる一員」になってしまっている。


レビューを見ると「みんなで歌って踊って最高に楽しかった!」とか、「会場の一体感!」とか演出に関する良い感想がたくさん見受けられた。

また、企画する側としてはそもそも「このミュージカルはお客さんと一体になって楽しむ演出にしよう」と決めているだろうから、そこを見抜けなかった自分が悪いといえば悪い。

私はもしかしたら少数派なのかもしれない・・・。

でもこれは、マッチングの問題で、私は得意ではないスタイルだったけど、多くの人はきっと心から楽しめたんだろうな、と思う。


思えば、こういう舞台に限らず、客席を巻き込むスタイルのライブなんかも苦手かもしれない、と、ふと思い出した。

自分が好きなミュージシャンでそういう演出はあまり出会ったことがないけど、フェスなど行くと「一緒に歌う」「客席が同じ振り付けをする」なんてことはよくある話で。

それは大抵が、演者側が煽るスタイルで構成される。

いわゆるコールアンドレスポンスもその最たるものだ。

「参加型」というのがきっとわたしは苦手なんだ。


「その世界に入り込む」というのは、人によって違うのかもしれない。

会場の一体感を持って世界に入り込む人もいれば、完全に傍観することで世界に入り込む人もいる。

どちらが正しいとか間違っているとかではなく、求めるものの違いなんだな。


と、一つ舞台を見ることで自分の中で感じたことを書いてみた。

あーだーこーだ言ったけど、ヘドウィグアンドアングリーインチは最後感動して泣いたので(笑)、めんどくさいスタイルとか散々文句言いつつも非常に良い舞台であった。


みんなの舞台の経験談、見方のポイント、参加型は好きかどうか・・・

聞いてみたいものだ。

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