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「私たちが国際協力をする理由ー人道と国益の向こう側」(著:紀谷昌彦+山形辰史)を読んで・・・

PHAZEリカレント月曜日の朝活は「文献知の共有」として各メンバーで良書を紹介し合う時間です。毎週3冊の紹介があり、プラス読書の秋と位置づけたので"活字オタク”になってます…

今回は、外交官の紀谷さんと、経済学者の山形さん、国際協力の中枢で従事するお2人が、日本が取るべき国際協力の進路を指し示す競著の一冊をご紹介します。

いままで誇った日本の政府開発援助(ODA)供与額が世界一の時代から、いまや日本の経済力が低迷する中で、国際協力の理由付けは、「世界益」から利己的な位置付け「国益」への変化しつつある姿をそれぞれの立場から論じられています。

山形氏
〇第一章「問題提起 国際開発は国益とどう向き合うべきか?」では、
本書がテーマとする開発援助は「国」を単位とするもので、二国間援助と多国間援助別のODAであり受益者は被援助国の中央政府である。

「国益」という政府のメッセージから、援助において援助国の企業へ「援助のひも付き」となっている、ここで問題提議されるのが、国際協力とは誰のために何をするべきかと問いに、イギリスの国際開発研究者のデイビッド・ヒュームが提唱する援助の理由「道徳意義、道義的責任、共通利益。自己利益」から、
自分たちの利益=「国益」となる国際開発の理由を国民一人一人が考えるよう求められている。

紀谷氏
〇第二章「日本と世界のための政府開発援助(ODA)」では、私たちが日本のODAに何を望むのか考える際に、途上国の開発問題の深刻さを考慮することである。
紀谷氏は、2015年~2017年を南スーダンの大使を務めた時のフィールドの状況や、世銀の「持続可能な開発目標SDGs」地図」などの経験に加え、
外交官として、第二次世界大戦以降の国際社会の取り組みを例に挙げ説明・紹介している。

「途上国の開発問題は、世界の課題を解決するための「世界益」をどう実現するかという問題」であり、「それに対して日本がどのように関わるかは、日本の「外交の問題」であると論じ、外交とは「国益」を確保する活動となり、利己的になりがちな外交を、この道義的な「世界益」と両立させ「国益と世界益を両立させる枠組みとして持続可能な開発目標(SDGs)の達成を目指す」と述べている。

山形氏
〇第三章「持続可能な開発目標(SDGs)の行方」では、SDGsの詳細な紹介と検討に加え、開発途上国の開発戦略という視点から、第二次世界大戦後の潮流が書かれている。

またSDGは「誰も取り残さない世界を」という普遍的原則を強めることで、先進国の人々を優先することを正当化してしまい、各国の内向き志向を増長させていると山形氏は述べているが、理想主義の立場からの希望は捨てていないと未来志向である。

紀谷氏
〇第四章「日本の強みを世界に生かす発想と実践」は、山形氏とは異なる展望から、国際協力における「国益」をポジティブに捉えようとするもので、
SDGsは国が「個別具体的な課題について、自国の強みを開発途上国に生かすという行動のきっかけとなる」

さらに「日本が自らの強みを生かせる「ジャパン・アジャンダ」を特定してオールジャパン体制を構築し、その分野でオーナーシップを強めることで
世界から「国際公共財」として認識され、「世界益」と「国益」の同時実現のための王道だとされている。


最後に、そもそも「国際協力って何のためにするの?」という素朴な疑問を、いまの開発途上国の実情を踏まえ、またSDGsの限界説や現実的な課題を議論し、「国益」と「世界益」、そしてSDGsの具体的取組について2人の専門家が違う立場から論じており深い学びになる一冊です。

この著書は、外交官であり、現在ASEAN日本代表としてもご活躍中で、
また、わたしが学ぶこの「PHAZEリカレント」卒業生として幹事もされている紀谷昌彦さんの著書でもあり、「はじめにとおわり」をウエブ公開されているので参考までに・・・と。。。

学生にもぜひお勧めしたい一冊。「私たちが国際協力をする理由ー人道と国益の向こう側」(著:紀谷昌彦+山形辰史)


PHAZEリカレント



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