見出し画像

黒の少女

 ため息をつく。
 手の上で浮いている水晶を見つめて、そこに映り込む様々な少女を見ては息を吐いている。
 彼女にとっては退屈であるようだ。
「これが君の理想? いや、良いんだよ。君にとってそういう不思議とも言える少女たちが面白いと思えるのなら」
 彼女は真っ黒な三角帽子を支えて、またまた溜息をつく。
「私にとっては普通で、面白みも全くない」
 散々にものを言う。
「やっぱり、猫やカラス、影や夜がもっと面白くて楽しいと思わないか?」
 その声に浮き足立つかのように影や夜、猫とカラスが踊り狂う。
 満足そうに彼女は笑み、君に向き直る。
「知っている? 黒は忌み嫌われる。暗い、怖い、悪だと。だが、黒はさまざまな色を纏ってこその黒だ。青、黄、赤、緑、紫……。その要素を全て纏っている。では、青の要素だけだと怖いか? 悪になるか? ならない。赤は? ならない。……なぜ?」
 彼女は魔女だ。黒い服を身に纏い、黒い大きな三角帽子を被っている。月明かりに照らされると、さまざまな色が見え隠れして綺麗だ。
 黒い魔女は君の頬を撫でる。
「あなたはさまざまな色に触れて、黒にならずに泥色になっている。泥色の方が……得体が知れなくて、どのような色と会うとそうなるのか。不思議で……怖いと思うのに」
 君は動かない。
 魔女の魔法にかかっているわけではない。脚に、腕に泥が纏わりつき、動けないのだ。
 彼女は君の腕と脚に魔法をかける。
 泥が黒色に染まったかと思うと、すぐに影に溶け込む。傍に居た影が嬉しそうに取り囲んで、泥の影を貪る。
 君の体は自由になった。
「黒には黒の。白には白の悪があるの」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?