紅の少女
口紅に薄い桃色をつける。
マニキュアも丁寧に塗る。口紅の薄い色とは違ってはっきりとしたピンク色だ。ラメも入って可愛らしくキラキラと輝いている。
爪に塗ったマニキュアを乾かすために手をパタパタと振る。マニキュア独特の匂いがほのかにする。
「ほら、可愛い! あんた、素材が可愛いんだから、化粧をしっかりすべきだよ! ピンクが似合う! 私が言ってるんだから間違いない!」
目の前に鏡を突きつけられ、自身の見たこともない顔が現れる。
「うわー……」
「何よ、その反応。私の化粧が気に食わないの? あんたに合わせて薄めにしてるじゃん」
「いや……気に食わないわけじゃない。ただ……自分じゃないなー。って」
「そりゃそうよ。化けてるんだから。女は化けてなんぼよ」
化粧を終えた桃香は一仕事した、というように一息つき、化粧道具を片付け始める。
私たちは桃香の家にいる。そこで私は化粧をされていた。
別にこれから何か特別なイベントがあるというわけではない。桃香は他人に化粧をするのが趣味なのだ。学生の頃から友達に化粧を施すのが好きで、自身でも化粧をしている。その趣味の一環で、私に化粧をさせてくれと申し出があった。私の好きなお菓子を買ってくれることを条件として承諾した。
そのお菓子を買ってもらって、2人で軽食にする。
「はぁあ〜っ! おいしい! やっぱりチョコは生に限るー!」
口にするととろ〜っと蕩ける生チョコに自分の顔がとろける。
「あんた、そのセリフビール飲んでるみたい」
「ビールは飲みませんー」
「はいはい。ほんと幸せそうで何よりです」
「ほんとあんたってなんで化粧しないの? 勿体無い!」
「勿体無いからこそ化粧はしないんです」
「でた。美人の特権」
「ははっ」
否定はしない。自分で言うのもおこまがしいが、化粧はせずとも綺麗な肌を保てている。自然な肌で生きるべきだとも思っているから化粧なんてしない。
「でも、桃香も綺麗だよ? 化粧をするともっと綺麗」
彼女の頬を手でなぞる。すべすべな肌はファンデーションで粉っぽくなっていて勿体無いが、私は彼女の綺麗な肌を知っている。
「私は黒子がいっぱいだし、それを隠したいの。女の子はね、綺麗になるためって子もいるけど、隠したいだけの人もいるの」
「私からすれば、どんどん見せてほしいけどな」
そう言って彼女の額に自身の額をくっつける。更に顔が近づいたためか、桃香は目線を逸らしてほんのり顔を赤らめる。
自然と唇を食む。
桃香は驚いたのか肩を震わせるが、いつも通り受け入れてくれる。
徐々にキスの深みが濃厚になり、チョコの味だか口紅の味だかわからなくなる。
「紅華……」
蕩けるような眼差しで私を見つめる。
その瞳から逃げるように目を逸らし、紅色に染まる唇を見て、ゆっくりと舌舐めずりをする。
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