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人工意識について(2):実装すべき機能は何か?

意識の話は、どこまでいっても現象的意識とアクセス意識の間をいったり来たりしてしまう。人工意識についても、まさに現象的意識とアクセス意識の問題に突き当たる。

今回は、自分が勝手に名付けている「人工意識の2大問題」について、その1つ目、イージープロブレムに対応する問題について書く。

人工意識の問題1:実装すべき意識の機能とは何か?
人工意識の問題の1つ目は、そもそも、何を作ったら良いのか?という問題だ。人工意識というと、AIが主観的感覚を持つのかということを真っ先に考えがちだが、それは「人工意識の問題2」の方で扱う。「人工意識の問題1」の方は、それ以前に、そもそも意識の機能って何かわからないよねという問題があり、まずは意識の機能を暫定的にでも仮説を立てて、それをAIに実装していきましょうという課題のことだ。

これは、意識という深遠な雰囲気の問題を扱う割には、気軽なアクセス意識の問題で、イージープロブレムであるはずだ。だが、「意識の機能が何か?」という問題は、あまり真剣に取り組まれていないような印象をもっている。むしろ、意識に機能なんてないんじゃないか?という視点で、若干見捨てられた問題となっているような気がしている。

この背景には、ハードプロブレムという思想が関係している。ハードプロブレムを真剣に受け止めると、主観的な経験(クオリア)が物理的世界観の中に収まる余地がない。だから、意識やクオリアというものは、現実世界に何の影響も及ぼさない随伴現象で、意識に機能なんてないという考えに終着してしまう。

この理論的立場は非常に強力だから、意識の研究者は、意識は何の役割も果たさず、脳内の情報処理の副産物として現れるだけの現象であるという見解から逃れることが難しい。明示的にこの随伴現象説を支持していると認めていない人でも、この立場にたいして論理的に反論するのは難しい。だからこそ、ハードプロブレムや意識の問題を興味深いと感じる人もいるだろう。

ハードプロブレムや随伴現象説的な考え方のせいで忘れがちだが、イージープロブレムは、全く簡単な問題ではない。イージープロブレムに取り掛かるためには、まず、どのような機能が意識に関連しているのかを明らかにしないとならないが、これが現状あまりできていない。

意識を必要とする認知機能が何かについては、これまでも多くの論文や議論はある。その意識を必要とする機能の候補には、非反射的行動、意図、想像力、計画、思考、短期記憶、注意、メタ認知、感情などが含まれる。しかし、現時点では決定的なものは何もない。

実際、心理実験では、タスクに関連する刺激が意識的に認識されていない場合でも、広範な認知機能が意識の外で機能していることが明らかになっている。注意力、作業記憶、実行制御など、意識と密接に結びついていると考えられている機能でも、意識がなくても実行できる例がいくつも知られている。このような実験結果も、意識に機能なんてないのではないかという、ハードプロブレムの呪縛を一層強めているように思う。実際、無意識に高次認知機能を必要とする課題が遂行できる例が多数知られている。

それでも、この一見論理的な袋小路にハマってしまわずに、生物学的な観点から意識の機能は探し続けるべきだと思っている。イージープロブレムは、名前から簡単そうで取るに足りない問題と思ってしまいがちだが、コレ自体が実は非常に難しい問題で軽視できない。

意識の中に「情報」が入ってきたことで、無意識のままではできない、どのようなことが可能になっているのか。この意識に関する根本問題をダニエル・デネットは「ハード・クエスチョン」と呼んでいるが、この意識の機能問題に直接答えることは、これまであまり注目されてこなかったと思う。

こういった意識の機能をないがしろにしてしまう背景には、生物学的事象としての意識の機能は何であるかという問題を考えるべきなのに、クオリアのような主観的体験が物質世界に因果的影響を及ぼすことができるのかという問題と混同してしまうことがあると思う。そのため、ハードプロブレムの観点から、主観的な意識体験が物理世界に影響するという意味での物質二元論的な効果はないのだから、クオリアに機能なんてないでしょ?という考えに陥ってしまう。

ここで、問題にしている生物学的事象としての意識の機能というのは、そういう話ではない。感覚刺激の情報が脳に伝わって、意識の中に入ってくることで、機能として何が可能になっているのか?覚醒した人間や動物にしかできない機能というのは何なのか?これを明らかにしましょうという話だ。

以前に少し触れた「情報生成理論」では、意識の機能とは、環境との相互作用によって学習された環境と自己の生成モデル(あるいは世界モデル)を用いて、反実仮想的な状況も含めて生成することだと提案した。この機能があることで、現在のこの瞬間にエージェントの目の前では起こっていない状況、つまり過去の情報(すなわち短期記憶)と相互作用することを可能になるし、未来のシミュレーション(すなわち想像力や計画)を通じて先の計画を立てることが可能となる。

この仮説がどこまで正しいのかを確かめていくためには、まだまだ研究が必要だが、意識の機能について考えていくやり方を示したことや、意識と知能との関係を示唆した点で、人工意識を作る基盤となる考え方にはなっていると思う。

ただ情報生成理論にこだわらず、意識の機能と比定される事象について仮説を立てて、AIに実装することで仮説の中の曖昧さを解消していくというアプローチは広く使えるだろう。これが、「人工意識の問題1:実装すべき意識の機能とは何か?」に取り組む方法であり意義となるだろう。

ここで例としてあげている情報生成理論も、他のグローバルワークスペースのような理論も、その構成要素となるプロセスや概念がIntrinsicな物理現象として定義できていない。だから、宇宙人やAIの意識を確認する手法になっておらず、意識の理論としては未完成のままだ。そういうこともあって、物理現象としての情報やモデルが存在するとはどのようなことかという問題に興味をもっている。

(つづく)

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