サイエンスと経済をつなぐ

アラヤで目指しているものは何か

アラヤという会社で、何を実現しようとしているのか。自分の中では一貫したイメージがありつつも、なかなか表立って言えずにきた。それでも、ずっと隠せずに自分の本心と思うところを言語化したものが「サイエンスと経済の融合」という表現だった。こういう目標は、投資家などにとっては、儲かるイメージも湧きにくいだろうし、嫌がる人もいると思い、ある面では一貫してとってきた態度でありながら、あまり安易に言えない空気の中で生きてきた。

しかし、自分の心の芯の部分とつながっていないミッションやビジョンでは、人の心には伝わらない。本来、全力を出せるところは、本心で思っているところで、起業家たるものそこを抑えてしまっては何をやっているのかわからなくなる。そして、「サイエンスと経済の融合」という本心についてカミングアウトしようという気になった。

「サイエンスと経済の融合」と言っても、その意味を、社員などに上手く伝えることはなかなか難しい。それでも、幾人かに説明を試みていく中で、考えが少し整理された。その中で、自分が「サイエンスと経済の融合」というフレーズに複合的な意味をもたせてしまっていることに気がついた。今回は、それをnoteで公開することで、さらに理解を深めていこうと思う。

1.科学的な考え方を経済活動に適用すること

今の世界では、科学者が期待するほど、客観性を重んじるサイエンスの方法が十分に普及していない。でも、サイエンスの方法は強力で、この科学的態度で経済活動に取り組み成功例を作りたい。そうすることで、世の中の不合理さを減らしていくことができる。サイエンスのデータに基づいた判断や仮説検証というスタイルを、経済活動や経営理念に適用することで、より大きな効果や信頼できる意思判断が可能となるという価値観を指している。これは一種の物事に関わる際に、サイエンスを大事にする態度のことでもある。

この姿勢は、根拠に基づく医療(Evidence Based Medicine, EBM)とも通づる。エビデンスを重視することが、最終的には利用者や受益者にとっての信頼される製品やサービスに転換されるはずで、そのために経済的価値も創出される。

この思想を会社経営に適用すると、社内の意思決定もデータや知見に基づいてやることで、より最適な選択がされるという考え方となる。さらには、社会全体でもこの考えをもって臨むべきで、国家の運営なんかもデータやエビデンスに基づいて意思決定がなされるべきだという考え方にたどり着く。

2.科学の成果を価値に変換して社会に循環させること

サイエンスと経済をつなぐことで、サイエンスのやり方自体の変革を引き起こしていきたいというのも「サイエンスと経済の融合」には込められている。

このモチベーションには、今のサイエンスのやり方では、本来、起きるべき循環がつくれていないという認識がある。経済という言葉に、その起きるべき循環の意味を込めている。人間の社会活動の中で、経済というのは循環を作るものだと捉えている。循環とは何かというと、相乗効果、あるいはポジティブフィードバックを意味している。

今の世間のサイエンスのお金の流れは、国から研究費をもらっても、それが循環せずに消えていってしまう。研究から得られた知識が活用されて事業を生んだり、雇用を生んだり、収益がさらなるサイエンスへの再投資となるような循環を生むことができていない。税金の投入によって事業や雇用が創出されると良さそうなのだが、なかなかそれが許される仕組みになっていない。経済というのは人間の自然な欲求(需要)が原動力となっていて、そこにつないで行く必要がある。それができると大きな力となり、サイエンスでも活用していきたい。

実は、こういった循環は企業における研究では実際にやっていることだ。「研究への投資→研究成果→新規事業→収益→さらなる投資」という循環が必要なのは、多くの人が認識しているところで、それが循環しているから企業の研究というのは徹底しているし威力があると感じる。だから、ここでの循環というものは既に多くの企業で実践されていることにすぎない。

アラヤでもまずは経済が循環している企業で普通に行われていることができるようになりたい。この循環は非常に協力だ。

ただし、ここでは「研究(リサーチ)」という言葉で表しているところから、少し超えたものを「サイエンス」と表現していて、それを目指したいということを思っている。プロダクトや新しい技術を生み出すタイプの研究や開発において循環を作るのは一般的だが、その上でサイエンスにも手を出したい。

サイエンスという言葉で指しているのは、基礎研究的な人類にとって重要な知識を得ることであり、社会的な効用がすぐに見えにくいタイプの研究、好奇心ドリブンの研究、そういうったものをイメージしている。そういった種類のサイエンスは循環の枠組みの外に置かれがちで、その性質上、経済と繋がりにくい。しかし、だからこそ経済的な循環のメカニズムをサイエンスに対しても実現すれば、画期的に加速させるということを狙っていきたいと目論んでいる。

3.二十一世紀の科学のあり方

現代は、研究が価値を生む時代に突入している。今、アラヤでやっている仕事の中においても、企業や研究所が必要としている研究のケイパビリティを提供をしているものも多く、研究自体の需要があると感じている。

テスラの時価総額が高いこととかもそうだが、現代の経済システムでは未来を生み出す組織に期待が集まり、その期待こそが価値の源泉となっている。それにも関わらず、大企業も大学などの研究機関も、リサーチの必要性を理解しながらも、特に日本では必要な人材や資金などのリソースの確保が中途半端な状態だったりする。

これはまだ明確に存在する業態ではないが、リサーチの価値を提供するという事業が成立すると考えている。しかも、アカデミアの衰退などもあり、今、いち早くこのポジションを取ることで、普通の研究機関を超えた成果を生み出す組織になれると考えている。今、こういう企業があるとしたら、それはDeepMindかもしれない。

自分自身は、研究的なバックグランドであるニューロサイエンスに特に注力していきたいと考えているが、アラヤで捉えているサイエンスは一つの分野に限らず、長期的には、サイエンスはニューロサイエンスだけではなく、社員がもっている多様な専門性を生かして、野心的なプロジェクトを広げていく。そして、サイエンスが価値を生み出していくことを実践していきたい。

21世紀では、伝統的なアカデミアの外でのサイエンスが増えていくに違いない。そして、大学などもまた産業との結びつきを意識するようになり、かなり似た活動になっていくだろう。

4.サイエンスの自動化

こういう観点で、サイエンスの自動化というのは、アラヤで実現したいことの一つ。今取り組んでいる仕事では、研究における作業の自動化や効率化に関わるものがある。残念ながら多くのサイエンスの仕事は単純作業であることが多い。そういったものを、どんどん自動化していき、サイエンティストがクリエイティブな思考に時間を使えるようにしたい。

この手の活動を「リサーチDX」と呼んでいるが、リサーチの文脈で汎用性のあるソフトウェアを事業にしていきたいと目論んでいる。これを突き詰めていけば、論文をAIが読んで理解して、次の仮説を立てて、自動化されたラボでロボットが検証して、論文化まで無人で実現できるようになっていくだろう。今は個別の案件として取り組んでいるが、ニューロサイエンスを皮切りに、多くの分野でのリサーチの自動化や効率化を推し進めていきたい。

そして、そこで蓄積した経験が強みとなり、自動化されたツールを駆使してサイエンス自体を加速させていく存在となりたい。

5.好きなことを仕事にする

あとこれは個人的な思想なのだけれど、人間は皆好きなことを仕事でやれると能力を発揮できる。自分自身については、サイエンスが好きだから、サイエンスに関わる仕事であれば力を発揮できる。これは、すべての人がサイエンスをやるべきという意味ではなく、動くものを作るのが好きな人もいれば、人に喜ばれることが好きな人もいて、本当にいろいろなパターンがある。

自分自身については、「サイエンスと経済を融合」するというのは、好きなことをやって稼ごうという意味も入っている。そして、皆が、それぞれ好きなことを仕事にできる世界になって欲しい。もちろんこれは理想論で、身の回りの人についてでさえ、それが実現できていないケースがある。それでも、好きなことをやって稼ぐという理想を「サイエンスと経済の融合」に込めて、根本の思想を貫いていこうと思う。

これを実現していくことで、好きなことを突き詰めて博士課程に進んだ人たちが、存分に能力を発揮して、社会に価値を提供していく仕組みを作っていきたい。

まだまだ道のりは長いけれど、ようやく実現可能性が見えてきたと思えるようになった。


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