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僕が10年前に見たアメリカの貧困

26の時、アメリカはロサンゼルスに仕事の都合で一年ばかり住んでいた。ロサンゼルスといってもロサンゼルス郡のトーランスという街で決して中心地ではない。ハリウッドが新宿ならトーランスは神田とか池袋くらいの距離感なのかな。ハイウェイで30分前後だと思う。でもビーチシティの隣だし、元々石油バブルで大きくなった街で、後にTOYOTAのアメリカ拠点になっているような日系タウンだから日系マーケットも多くて治安もよく、とても住みやすい。高~中産階級の人間が多くてビバリーヒルズ高校白書のモデルとなったトーランス高校があった。移民政策が行われてビザの延長ができなくなったので泣く泣く帰ってきたけども、まあまあ良い体験をさせてもらったとは思う。

それで、今回の #BlackLivesMattter なんだけど、暴動にまでなっていて、でも日本で育ってきた人たちにはあんまり想像がつきにくいよねとは思う。黒人差別への抵抗警察の不当な暴力に対する抗議が直接の原因だとは思うんだけど、コロナのストレスのはけ口になってるのもあるだろうし、略奪とか考えると有色人種の貧困に対しての怒りが根底にあるように思える。

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そもそもLAで白人と黒人での断絶はあったかというと、確かにあった。っていうのもね、もう住んでるエリアが違ったの、黒人と白人で。残念ながら所得に格差があるから結果的にそうやって住むエリアも別れてしまう。悪名高いコンプトンも車で20分くらいだったんだけど、他にイングルウッドガーデナの一部なんかは黒人が多く住んでるエリア。治安が悪いとされていて、家賃も安い。ガーデナは日本人には人気のエリアなんだけどね。家賃も安いし、語学留学で人気のあるエルカミノカレッジもあるし、ガレリアという百貨店もあった。そんなガーデナもちょっと行くと金網エリアだったりする。

貧困を象徴する金網エリア

金網と言われてもなんのこっちゃって思うかもしれないけど、LAでは金網というかフェンスを張っている家があるエリアは治安が悪い。この金網はカーチェイスを起こしたり、強盗などで逃げた犯人が逃げ込むのを防ぐためのものだって聞いた。確率的に上にあげたような治安の悪いエリアで起こることが多いんだけど、逆に言えば金網のないエリアは治安の良いエリアだってことになる。ガーデナもパッと見はとってもいいエリアで、何度かデートした日本人の男の子も駐在組だから会社が用意してくれたガーデナの良い部屋に住んでて「なにこれ!格差社会!」って思うくらい良い部屋だったけど、ちょっと進むと街の雰囲気が変わったりする。

じゃあ逆に白人の多いエリアはどこかっていったら、レドンドビーチやハモサビーチ、マンハッタンビーチなど家賃相場がちょっと高いエリア。海沿いでバーやクラブも多い。治安も良いとされる。っていってもレドンドでもバラバラ殺人が起きたってニュースが流れてたこともあったけど。ちなみにレドンドにはボブマーリーが住んでいた家があって、観光地化していた。実際に高所得者層が住んでいた印象がある。ちなみに同僚がレドンドに住んでいて、やっぱり家賃も高めだった。トーランスも中々治安が良くて僕たちみたいなアジア人と白人、多くはないけど黒人もいたエリアだったな。ただ、製油工場の周りは金網エリアだった気がする。

洗濯物を干していたガーデナの家庭

前の職場の会長もLAに住んでいて、自分みたいな若い労働力を安い賃金で搾取していたとんでもない人だったんだけど、その人がガーデナに家を買ったことがあった。不動産として貸す目的で。とっても立派な家だったんだけど、その家にお邪魔した時にふと窓から外を見たら衝撃的な光景が広がっていた。洗濯物を干している家が隣にあったんだ。

その隣の家は小さい平屋で、ちょうど黒人所女性が庭に洗濯物を干しているところだった。「嘘でしょ」って思ってしまった。なぜならカリフォルニアでは景観を守るために洗濯物を外に干すことを州法で禁じている。いかにもアメリカって感じの法律なんだけど、そのおかげでロサンゼルスの家庭には乾燥機が普及してるし、乾燥機のない家庭は足しげくコインランドリーに通ったりもしている。それが当たり前のことだった。コインランドリーに払う小銭を惜しんで、見えないように洗濯物を干している家庭が会長の家の隣にはあった。裏庭に紐を張り、洗濯物をかけている。隣の家の2階から見下ろして気が付くレベルだったんだんけど、初めて見る光景はとても異様だった。それが貧困家庭というものなんだと気が付くのに時間はかからなかった。

なぜ貧困層が生まれるのか

これは難しい問題なんだけど、学が無くて高給なホワイトカラーの仕事に就けないって背景が多い。もちろん学が無くてもビジネスチャンスを掴んで成り上がった人もいるけど、私がいたころはカリフォルニアの失業率は11%を超えていてビジネスチャンスのビの字もなかった。シングルマザーの家庭に産まれたり、父親がいても日雇いの仕事をこなしていたりして、貧困家庭で育ってしまうと進学費用がなくて結果的にホワイトカラーの仕事に就けないという負のループが生まれてしまう。黒人やラティーノ、一部の白人層なんだけど、中にはドラッグに手を出してプッシャーになったり、その他犯罪に手を出してしまってゲットーから抜け出せない人も多い。女性ならセックスワーカーになる人もいたりする。

異様だったセブンイレブンの駐車場の光景

トーランスにもセブンイレブンがあって、働いているのは中東の人ばっかだった。使い勝手が良いもんだからよく行っていたんだけど、早朝に行くと駐車場に身なりの汚い人たちがよく集まっていた。彼らは日雇い仕事を求めてきた人で、セブンイレブンとかホームセンターとかが集合場所として指定されていた。バスかなんかで工場みたいなところに連れてかれてたみたい。職安みたいなものがサポートしているんだと思う。この光景を見たのはアメリカ生活がだんだん冷静に捉えられるようになった時期で、アメリカも陽と陰がそれぞれあるんだなと思えるようになった頃だった。

ゴーゴーダンサーがノンケ

あともう一つ衝撃的だったエピソードがある。せっかくロサンゼルスに住んでるんだし、アメリカ最大のゲイタウン:ウェストハリウッドに行かねばといって、当時の同僚とミッキーだのアビーズだのゲイタウンでも有名な大箱で踊って遊んだことがあった。黒人も白人も男子も女子も流行歌に合わせて踊るって感じでピースフルな盛り場だった。その中で下着一枚という格好で筋肉を見せつけながら踊る白人男性のダンサーが何人かいた。ゴーゴーダンサーと呼ばれる人たちだ。せっかくなのでチップを下着に挟み、下着越しに局部を軽く触らせてもらったんだけど、ハグもしてくれて「This is america!」って大はしゃぎしてしまった。でも当時の同僚はもうアメリカ生活が長くて色んな事情を知っている人だったんだけど、あのゴーゴーダンサーもゲイではなくてストレート男性だってことを後から教えてくれた。仕事がないからゴーゴーという仕事に就いて、チップを稼いで生活しているのだとか。ノンケの局部を触ってしまったという事実を知ってなんか悪い事した気持ちになってしまった。失業率11%ってそういうことなんだって思った。

英語のできない移民

でもゴーゴーダンサーができるのも見た目の良い人たちの特権で、時にはものすごく稼げる時もあるから救いがある。僕が務めていた会社はオフィスがトーランスにあったんだけど、よくメキシカンの人たちがオフィスアパートメントの庭の清掃をしていた。時給7ドルとからしい。当時はまだ最低賃金は低かった。もしくは最低賃金を無視したようなイリーガルな仕事しかなかった。彼らは英語ができない移民だから街で働けるところもなく、そういうった低賃金の仕事をこなすしかない。でも陽気な人たちで自分が喫煙所でタバコを吸ってるとよく話かけてくれたんだけど、スペイン語なんて全然わかんないからニコニコして聞き流すしかなかったな。って書いてて思ったけど、僕も英語がそれほどできる人ではないので、日系企業がなかったら働けるところがない層に分類されてしまうのかって思ってゾッとした。


コロナ期の前まではカリフォルニアの失業率も5%以内に収まって経済的にも落ち着いていたからちょっとはマシになったみたいだけど、SATCみたいな華々しい世界はほんの一部で、ロサンゼルスも貧困にあえぐ人々が沢山いたのが衝撃的だった。トランプはコロナによる不況に対して少し失業率が改善したくらいで「アメリカの史上最大の復活」なんて強調してるけど、ロサンゼルスでは失業率が30%を超えるとも言われている。そのしわ寄せがくるのは貧困層だ。黒人差別への不満、警察の暴力への抗議が今回のデモになってるのはもちろんなんだけど、その不安が今回の暴動に繋がってるんじゃないかなって思っちゃう。
僕は短期間しかアメリカにいなかったし、白人が黒人を差別しているわかりやすい場面には遭遇しなかったけど、生活水準での有色人種と白人の差をはっきり見てきた(何度も言うが白人の貧困層もいる)。アメリカ国内でのコロナの死亡者の割合も健康保険に入れない有色人種の貧困層が高いって話もある。そういった背景も今回、有色人種の不満、怒りに繋がっているのではないかと思う。

黒人が差別されてきた背景は、古い映画だけど「サラフィナ」「評決のとき」なんか見るとわかりやすい。中学時代に見ていたテレビドラマ「ブロッサム」でも主人公の兄が白人でその兄の彼女が黒人という設定だったんだけど、レストランのウェイターにからかわれるというエピソードがあった。「デザートにアイスはいかが?彼がバニラ、で彼女がチョコレート」。主人公の兄は怒って抗議したが、それも大人げないと彼は苦悩し、反省する。でもそのウェイターは結局謝らなかった。それが90年初頭のアメリカの実情だった。それが水面下で今でも続いていて結果こういう形になってしまった。

今、アメリカで何が起きてるのかをわかりやすく書いてる記事を2つ貼っておきます。

自分が見てきた貧困エピソードがアメリカにはゴロゴロと転がっている。アメリカに居る時、黒人、白人それぞれ何人かデートもしたけど、僕は大して英語もできないし、知人もいなかったから黒人コミュニティーに顔を出すこともなかった。所謂ゲトーは車で通ったりするだけ。同僚の友達に黒人の知り合いもいないことはなかったけど、ヨーロッパ移民だったりインテリ層だった。だからきっと本当の貧困は目の当たりにしていない。彼らは経済的に圧迫された日常を今も送り続ける。

「日本だって対岸の火事じゃないよ」みたいなことは沢山言われてるけど、こういった背景を知らないと想像できないよなってやっぱり思っちゃう。だってどうしたって海外ドラマの華やかなイメージが先行しちゃうもん。「差別はダメだよ」って道徳的に思うんじゃなくって「今アメリカで何が起きてるのか」を知ることが大切。いつか、日本でも移民がもっともっと増えた時に同じことが起きる可能性だってある。現になみちえは差別について訴えてるし、Moment joonの歌詞はとても重い。

最後にジョイナールーカスという社会派のラッパーの曲を紹介したい。ADHDであることをカミングアウトした曲をリリースしたり、お蔵入りになってしまったけどエミネムと「What if i was gay」という衝撃的な曲をレコーディングしたりしている人だ。
その彼の「I'm Not Racist」という曲がとても良い。白人と黒人、それぞれの言い分を可視化した曲だ。日本語訳をしていた素敵な人がいたので貼りつけるから見てみてちょ。ちなみにこれは最近の曲ではなくて2017年の曲。

今、自由の国・アメリカで、怒り、悩み、苦しむ人が大勢いる。そのことをきちんと受け止めなければいけないと思う。

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