記録(2/12)
2022/2/12。
ビリー・ジョエルのライブのために Madison Square Garden へ。
ライブで私が見たものと感想を残す。
「ライブレポチャレンジ」と称して、当日のセットリストをまとめたSpotifyの1時間49分のプレイリスト(こちら)の再生が終わるまでにこの記事を公開したいと思う。普段よりも校正の時間が短くなってしまうが、終演から24時間が経過しても未だに冷めない興奮をここに留められたらうれしい。
開場〜開演
1時間前に会場に着くと、長蛇の列。マスクをしていない人も目立つ(数日前からニューヨークのマスクに関する規制が緩和されたらしい)。荷物検査を経て中へ。野球スタジアムのような感じで、中ではアルコールやなにやらアメリカンな感じのする食べものが販売されていた(よく見たらホットドッグやポップコーンやピザだった)。
自分の座席を確認してから会場内を少し散策。ステージが遠いが、ちょうど目の前にディスプレイがある。よい。
開演10分前には座席に戻り、ずっとステージを凝視していた。
開演時間を25分過ぎたところで、BGMがそれまでのオールディーズからインストに変わり、期待に満ちた観客の声と拍手でいっぱいになった。
暗闇の中、観客のスマホライトが夜空みたいに輝いていた。
それでは、先のプレイリストの再生ボタンを押してライブにタイムスリップする。
1. Miami 2017
弾けるようなピアノのフレーズでスタート。歌い出しからビリーの歌声と観客のコーラスが一緒に耳に届く。
白っぽい照明がビリーとステージを照らす。ディスプレイはまだ暗いまま。おかげでまずはステージの上にいる生のビリーに集中することができた。
“They turned our power down” のフレーズ直前でバンドインした、そのときの全音符に心臓を撃ち抜かれる。
徐々に照明にオレンジや緑の色が入り、音に合わせて動きが激しくなり、ディスプレイも点いてビリーの表情がよく見えた。顔や喉のどこにも力が入っていないみたいなようすで、パワフルな歌声。
ステージのピアノがビリーの演奏中にゆっくりと回転(!)して、彼を360度楽しめるようになっていた。
2. My Life
MCもなく、ベートーヴェンの『歓喜の歌』を「♪たんたんたんたん」と軽やかに弾き始めたかと思ったら、そのまま2曲目に突入。
歌詞を全部覚えていたわけではないのだが、このフレーズが前からすきで、その歌詞がビリーの口から出てくるのを見られてとてもよかった。
3. Just the Way You Are
エレピのあの音で始まる。もう、ただただよかった。伸びやかなサックスが馴染みのあるフレーズを聴かせてくれた(CD音源と大きく変わらないフレーズがライブで聴けると安心するたちなのでそれがうれしかった)。
4. The Entertainer
3曲目の後に、はじめてMC。白いマグカップで水分補給をしているのがなんだかとっても彼らしいと思った。そこで、彼らしさとはなんだろうと思って、「歌うように話し、話すように歌うところ」と結論づけたところで(いやビリーのMCを聞けよと思いながら)、ビリーがこう振る。
観客の歓声。ビリーがライブの人だったのだと何度も思わされた。さらりと話しているようで、観客がリアクションする間をちゃんと作ってくれている感。彼の笑顔ものぞいて、うれしくなった。
5. Vienna
4曲目のすぐあとのMC。
観客が笑う。私も笑った。
しかしこのフリではじまる『Vienna』。
心のなかで(すきだからああ・・・・・!)と叫ぶ私。
ジョークの温度が適温だなあと感じる。
6. Allentown
機関車の音。ディスプレイには線路の映像と石炭が燃えるような映像がオーバーラップで流れてきて印象的だった。
ビリーの生の後部歯茎摩擦音(強い「シュッ」のような音)が聴けて大興奮した。
7. New York State of Mine
彼のホームランドでこの曲を聴けたことに、ものすごく意味があった。
歌詞に出てくる地名(Hollywood、Hudson River、The New York Times)を訪れた彼と、自分の姿を重ねる時間を持った。
冒頭からキレキレの演奏をしているサックス奏者〈Mark Rivera〉がこの曲だけは低い椅子に腰掛け、ビリーの隣で演奏していた。ピアノとの絡みがとてもよかった。プロフェッショナルたちがそろって音で遊んでいた。
歌のラスト “state of --- mine” のタメのところでビリーが白いマグを持ち、水分補給をしてみせた(真顔でしっかりひと笑い持っていった)のが大変よかった。「ライブを見ることにはこういう面白さがあった」ということを思い出した。
8. Movin’ Out
ギターとベースのユニゾンパートがたいへん気持ちよかった。
さらに、サックス3本の超豪華アレンジだった。
すぐに「サックス3本」の違和感に気づいて目を凝らすと、1曲目からずっとサックスを演奏されている方のほかに、それまでコンガにボンゴにパーカッションに囲まれていた方〈Crystal Taliefero〉と、トランペットやトロンボーンを演奏されていた方〈Carl Fischer〉がサックスを吹いていた。
座席から身を乗り出して驚くことしかできなかった。
9. Don’t Ask Me Why
ビリーの “Uno! Dos! Tres!” の合図で曲イン。彼自身がワクワクしながらバンドメンバーや観客を率いている感じに聴こえて、たいへんよかった。
あと、前から思っていたこと。彼の歌う “Don’t ask me why” のフレーズが、“Don’t aks me why” と語音転換して聞こえる部分がある気がする。ライブでもそう感じたのだけれど、歌いぐせなのか、何か意味があるのかはわからない。詳しい方がいたら教えていただきたい。
10. Modern Woman
ディスプレイのおかげで、ピアノを弾くビリーの指元を見ることができた。
しわしわの無骨な指。小ぶりな爪。どこにも力を入れていないふうなのにコントラストのある音たち。
11. She’s Got a Way
ソロ・・・・・!!!!!!!
記憶の限り、1曲通しで彼のソロだったように思う。
そのくらい彼の歌とピアノが私の耳のずっと近いところに届いた。
ただただ、見入って、聴き入った。
72歳の彼がMCをはさみつつここまでノンストップに歌っていることにも驚かずにはいられなかった。
12. Zanzibar
踊った。ノリがよく自然と体が揺れてしまう曲たちと、ただ聴き入ってしまう曲との組み合わせの絶妙さに文字通り踊らされた。
初めて見るかたちをしたトランペットの、ソロ。シャボン玉をつくるための穴がたくさんついたマシンから、音が錬成されるみたいに次々に溢れてきて本当にすごかった。
13. She’s a Always Woman
すき・・・・・!!!!!
この曲にだけフルート奏者がイン。うつくしい旋律だった。
ビリーが伏し目がちになるときの睫毛がきれいだった。
14. This Is the Time
初めて聴く曲だった。冒頭の “We walked in the beach” に頬をなぜるような心地よい風を感じた。
サビの “This is the time to remember” を、今この瞬間がほんとうにそうだよと深く思いながら聴いた。あとから歌詞を見たら、もっと好きになってしまった。サビの歌詞を載せたい。
15. Whole Lotta Love (Led Zeppelin cover)
アコギを弾いていたスキンヘッドの方〈Mike DelGuidice〉がストラトに持ち替えて Led Zeppelin をカバー。
ここでビリーは初めてまとまったブレイク(変わらずピアノの前でマグを持っていた)(そのマグはいつの間にか黒色のものになっていた)(たぶん9曲目あたりで替わった)。
16. Only the Good Die Young
これも初めて聴く曲だった。
2、4拍目がたいへん気持ちよく、ずっとずっとクラップしていた。
17. The River of Dreams
8曲目の『Movin’Out』でサックスを吹いていた方のボンゴ&コンガで曲イン。ハドソン川を見ているときのような心地よい流れが、曲のはじめからおわりまであった。
ブラス陣のコーラスワークが本当に素晴らしかった。
冒頭から数曲おきにソロやメインフレーズを演奏した奏者がビリーによって紹介されていた。
この曲の後には、パーカス、ボーカル、サックス、と何でも屋の彼女の名前が呼ばれた(「コーラス」ではなく「ボーカル」なのだなと思った)。
ちなみに、彼女は2012年に同会場で行われたライブの音源でも同じように紹介されていて、長年一緒にやってきているのだなあとしみじみ。
18. Nessun Dorma (cover)
再び、ツェッペリンをカバーしたの方のボーカル。圧巻だった。
ビリーの伴奏がうつくしかった。
ビリーの「伴奏」を初めて見たのだった。
19. Scenes from an Italian Restaurant
別の曲だと思っていた曲が、長い1曲であったことをこのライブで知った。
ライブ1曲目からずっとビリーのボーカルを包むように観客の歌声が聴こえてきていることに改めて鳥肌が経った。
スタンドシンバルのクレッシェンドがとてもよかった。
20. Piano Man
19曲目の終わり、彼の首にハーモニカがかけられていることを確認。
スッと立ち上がる我。そして始まる20曲目『Piano Man』。沸く会場。
ハーモニカのフレーズから歌に入るまでの一瞬(1-2小節くらい)の間に客席を見るビリーが愛しい。
“It’s nine o’clock on a Saturday” の歌い出しから、彼とバンドと客席2万人の大合唱。それまでよりも一層厚い音圧。
ビリーが観客の声を確かめるように、1拍タメて歌う部分があったような気がする。
ビリーの声がやさしい。ハーモニカがあたたかい。
ピアノマンが『Piano Man』を弾いている。
4番の歌詞を聴きながらものすごい体験をした。
“It’s a pretty good crowd for a Saturday”
この部分は、土曜日にバーに集まってくる客たちのことを歌っている。
しかし、このライブの日、2022年2月12日は土曜日だった。
“crowd” が、バーの客ではなく、Madison Square Garden に集まった観客たちのことを歌っているように聴こえる。そうにしか聴こえない。
同じように思い至った観客(おそらくその場にいた全員)が声や体やなにがしかを用いて反応する。ビリーもそれに応える。たった4フレーズの間にものすごいエネルギーや私単体や会場全体に流れたように思われた。
こんなに大きな会場のステージの上にいる人とも、コミュニケーションが取れる(と思わせてもらえる)のだと、感激した。
一番最後のサビ頭で、スネアドラムのフラムとともに演奏が止まる。ビリーは客席側の手をピアノから離して会場にバッと向ける。他の楽器も音を止めている。
客席だけの大合唱。
私たち観客が彼に会いたかったように、彼にも見たい景色があったのかなあ。私たちがそれを見せられたのかなあ。
本編終幕
ビリーが “Thank you.” と言い、最前列にいた数人と握手をし、ジェスチャーでちょっとおどけるようなふるまいを見せながらステージを降りた。
拍手は鳴り止まず、長くかからないうちにビリーがステージに戻ってきてくれた。
21. We Didn’t Start the Fire
ディスプレイに火、火、火。この曲が始まる合図なのかもしれない。ビリーが戻ってきてくれたことへの喜びかもしれない。『Piano Man』で立ち上がった観客たちの興奮がピークになっている。
いや違う、あろうことかビリーがギターを持っている。ブルーのストラトを肩に下げ、ステージ中央のスタンドマイクの前に立っている。観客たちが悲鳴に近い歓声を上げている。それは私だったかもしれない。
2、3コードを弾きながら、ビリーは1曲を歌い上げてしまった。彼がギターを弾くのを知らなかった。ライブではおなじみなのだろうか。ピアノマンがギターを持って客前で歌っていることにものすごく勇気をもらった。
アンコールだからか、ディスプレイに観客たちが映し出される頻度が上がった。
22. Uptown Girl
4拍子のオンビートがたいへん気持ちいい曲。彼は素早くギターをローディに渡し、今度はマイクスタンドを両手で持ってステージを左右に動きながら歌い始めた。
感動するべきポイントはそこではないかもしれないが、バイタリティのすごさに絶句した。
23. It’s Still Rock & Roll to Me
引き続きビリーはスタンドマイクでパフォーマンス。転がしたり、回したり、飛ばしたりとほんとうに飽きなかった。
スタンドマイクを宙に浮かせるパフォーマンスをしたかと思えば、曲終わりにそれを投げてローディにパスしてみせた。3mくらい飛んだんじゃないだろうか。すごい(マイクがはずれなくて本当によかったという安堵もあった)。
24. Big Shot
エレキ、ベース、ドラムが一体となって大きなグルーブを作っていることに改めて感動した。
25. You May Be Right
ビリーがピアノに戻る。
最後に暴れて終わるのがとても最高だった。
ステージの上の全員の音が飛び跳ねているような感じ。
曲終わり、ビリーの “one, two, one two three four!” の掛け声がやっぱりよかった。ドラムのフィルに体をくねらせて、ラスト一発の音に全体重を乗せた。
アンコールが終わった。
ビリーが何度も “Thank you.” と言った。
数人の観客と握手をしてビリーがステージを降りた。
ライブが終わった。
終演
観客が出口に吸い寄せられるのを目で追い、心臓が落ち着くのを待って会場を出た。ライブでは演奏されなかった彼の曲『This Night』が頭にずっと流れていた。
エンドロール
会場から屋外に出る際、観客でごった返した細い道でもたもたしていると、ご婦人を連れた男性が「先に行っていいよ」と私の分の空間を作ってくれた。
その時のお二人とのやりとり。
以上。
私史に刻まれた一日であった。
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